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腰部・骨盤帯 第11回 《多裂筋》

腰痛になりにくい身体とは、腰部の固定性がある身体だということを下記の記事でお話しました。


今回は腰部の固定性に重要な役割を果たす『多裂筋』にフォーカスしてお話します。

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深部筋には、『無意識下でコントロールできる』メリットがあることについては、以前の記事でお話しました。


また多裂筋のみにフォーカスをあてた無意識下でのコントロールのエビデンスもあります。

”上肢運動が記録される前に,深部多裂筋の筋活動が三角筋の筋活動と同時に記録された.反復的上肢運動中にも,脊柱の安定性に関与する深部多裂筋の緊張的活動が観察された.(Moseley, et al 2002)”




脊柱に付着する筋肉は複数ありますが、『安定性という面においては多裂筋が一番重要』です。

脊柱はS字カーブを描き、骨だけでは非常に不安定な物体ですが、『多裂筋一つの筋肉だけでも脊柱を保持することが可能』です。

”多裂筋と脊柱起立筋群を含む生体力学的モデル研究において,多裂筋は腰椎分節の安定性に最も強い影響を与えることを発見した.(Wilke, et al 1995)”




また多裂筋が働くことにより、『他の脊柱起立筋群の負荷が軽減』されます

”グローバル筋のみを活性化させても,腰椎前彎を十分にコントロールすることはできない.ローカル筋の活動(多裂筋が80%関与)は,グローバル筋の力を減少させ,剛性を高め,安定性を増加させ,圧迫を増加させる.(Kerer, et al 1997,1998)”



このように、多裂筋は下腹部筋と同じように、腰部の固定性に大変重要な役割を担っています。

ちなみに下腹部筋ってなに?と思われた方は下記の記事を参照ください。


そのため、腰部の固定性を向上させるには多裂筋に特化した訓練は必須です。

しかし、脊柱起立筋群など背筋には複数の筋肉があり、

代償を伴わずに多裂筋を鍛えるには適切な指導を要します。



では、私が普段の臨床で行っている

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をご紹介します。



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まず、端座位にて、『胸椎の伸展を伴わず、腰椎のみの伸展ができる』ことが最初のステップです。多裂筋は脊柱のすぐ近くを走行しており

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訓練では、第4腰椎棘突起の一横指分よこをタッピングや、軽く押して骨盤前傾を介助したりして、患者さんに多裂筋を意識させながら腰椎のみの伸展(骨盤の前傾が伴う)ができるまで繰り返します。



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端座位でできるようになれば、次は四つ這いでしましょう。ここまでは多裂筋のモーターコントロールに焦点を当てた訓練になります。



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ここからは筋力強化に入ります。腰椎の伸展が維持できる範囲で、手でベッドを押す力によってお尻を後方に移動させましょう。殿筋の伸長感により腰椎が屈曲しようとしますが、それに抗することが多裂筋への負荷になります。


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次は端座位で腰椎の伸展を保ったまま前傾運動を。


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その次はハムストリングスのストレッチ肢位にて腰椎の伸展を維持しましょう。これはハムストリングスの伸長感が多裂筋への負荷になります。ハムストリングスが硬くて腰椎が屈曲してしまう患者さんには、高い座面で実施しましょう。


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最後に立位で腰椎の伸展が維持できる範囲で体幹の前傾運動を。


以上が、私が臨床で行っている《段階的な多裂筋エクササイズになります》


段階的なので、高齢者など、患者さんに合わせたレベルで提供できると思います。


最後に気を付けていただきたいことは、脊柱管狭窄症や椎間関節性腰痛など『伸展ストレスが原因で腰痛になっている』人には禁忌のエクササイズになります。

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筋筋膜性腰痛の場合は、多裂筋のモーターコントロールでアウターである腸肋筋などが緩むので、低負荷でのエクササイズなら実施可能です。


引用

Moseley G L Hodges P W, Gandevia S C 2002 : Deep and superficial fibers of lumber multifidus are differentially .


Wilke H J, Wolf S, Claes L E, Arand M, Wiesend A 1995 : Stability increase of the lumbar spine with different muscles groups. A biomechanical in vitro study. Spine 20:192-198.

 Keiler A, Shirazi-Adl A, Parnianpour M 1997 : Sttbility of the human spine in neutral postures. European Spine Journal 6:45-53.

Keifer A, Shirazi-Adl A, Parniallpour 1998 ; Synergy of the human spine in neutral postures European Spine Journal 7:471-479.


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