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腰部・骨盤帯 特編 《椎間関節性腰痛》

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今回は、『椎間関節性腰痛』のお話します。

疼痛所見としては、後屈時に腰部への片側・両側の局所的な痛みの訴えがあり、前屈では疼痛が生じなければ椎間関節性を疑います。


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椎間関節性腰痛になる根本的な原因は、日常生活での腰椎の過剰な伸展負荷および回旋負荷です。

※ここでの過剰とは、『頻度』『時間』『可動域』がおおきいことを指します。

椎間関節性を疑えば、そのまま


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疼痛の訴えに一番近い椎間関節の動きを止めて、再び後屈してもらいます。

それで、疼痛が軽減すれば、椎間関節性の可能性で治療をすすめます



この評価方法は、

棘突起を手で押さえて無理やり椎間関節の動きを止めるのではなく、

下方から皮膚を滑らせて、目的とする椎間関節の棘突起間に皮膚の皴の厚みを作ります。

もしL4/5の椎間関節を止めたい場合、L5棘突起の下方から皮膚を滑らせてL4/5棘突起間に皮膚の皴の厚みをつくります。

その皮膚の皴の厚みが制限因子となって、椎間関節の動きを止めてくれます。


この評価方法は、少し技術を要するため、難しければ圧痛所見で判断しても良いです。


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椎間関節は棘突起より約1横指分離れた箇所にあります。そこで圧痛所見をとるのですが、

注意していただきたいのは、健常者でも圧痛所見がでやすい部位になるので、『著名な圧痛』があれば椎間関節性の可能性で治療をすすめていきます。




治療では、

『腰椎の過剰な伸展負荷を止めにかかります。』


これに尽きます。

椎間関節が過剰な伸展ストレスに晒されて炎症が起きているため、疼痛がでているのです。

これは画像では捉えきれません。

そのため、もし医師が画像所見だけを頼りに単なる腰痛症で片付けているなら、セラピストが評価し医師に助言することが求められます。(担当医が理学所見をしっかりとる医師なら必要ありませんが)


治療の目的は、

①伸展ストレスを生み出している原因(機能障害)を特定して、患者さんに原因の説明をし、ストレスを軽減する指導を行い炎症を抑えにかかる

②伸展ストレスを出さない体づくりを早急に進める

この二点です。


下記は大まかな治療イメージです。

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ここからは主に伸展ストレスを出さない体づくりに焦点を当ててお話しします。

椎間関節性腰痛の方の大半は股関節伸展制限があります

まずは、股関節を制限している因子を評価します。

股関節伸展可動性を改善するのが、椎間関節性腰痛では一番重要です。

なぜかというと股関節伸展が制限されていれば、歩行時に腰椎伸展で代償して歩幅をだそうとするため、歩くたびに椎間関節がストレスにさらされるからです。



股関節の伸展制限因子の評価は難しく、詳細な検証が必要です。

一番、制限因子が絞りやすい方法はトーマス変法肢位での評価です。

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左の写真のようなトーマス変法肢位をとり、大腿部がベッドにつき、股関節が外転せず、膝関節が90°屈曲位であれば制限なしです。

しかし、右の写真のように股関節が外転せずに、大腿部が浮いている場合、腸腰筋または大腿直筋の制限が疑われます。そこから膝を伸展して大腿部がベッドにつく場合、大腿直筋が制限因子になります。


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次に、股関節が外転位で膝屈曲90°にて大腿部がベッドから浮いている場合、股関節をさらに外転させ、大腿筋膜張筋を短縮位にもっていけば、ベッドに大腿部がつく場合、大腿筋膜張筋が制限因子です。


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最後に、股関節を外転して大腿筋膜張筋を短縮位に、

膝関節を伸展させて大腿直筋を短縮位にもっていっても、大腿部がベッドから浮く場合は、腸腰筋が制限因子です。

臨床では、二関節筋である大腿筋膜張筋-腸脛靭帯、大腿直筋が制限因子であることが多いです。


評価では確実に制限因子を特定させましょう。制限因子が間違っていれば治療はすすみません。


制限因子が特定できれば、ストレッチや徒手でのリリースで柔軟性を出していきます。




そして、次に同じくらい重要なのが体幹の固定性です。


治療では『腹横筋を中心とした下腹部筋の作用にて、日常生活での腰椎伸展を止める力をつける』必要があります。



基本となるのは、Draw-in(腹横筋の収縮)




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下腹部筋の作用による『骨盤後傾』する筋力です。



椎間関節性腰痛の方でLordosis(骨盤前傾姿勢)の方を見かけることは多いです。

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正常な姿勢と評価して、Lordosisであれば、なおさら、Draw-inおよび骨盤後傾する筋力をつける必要があります。


臨床で経験した患者さんで、立っているだけで腰部痛がでる椎間関節性腰痛の方がいらっしゃいましたが、立位姿勢で過剰なLordosisを伴っていました。

その方は大腿直筋と大腿筋膜張筋が硬化し骨盤が前傾位に固定され、また骨盤を後傾させる運動も全くできませんでした。



椎間関節性腰痛では下腹部筋による骨盤後傾筋力をつけると同時に、股関節伸展可動域がだせるようになることが、治療成功の9割を占めます。



臨床ではまずDraw-inからトレーニングを開始しています。

超音波エコーで腹横筋の動きを評価できば一番良いですが、ない場合は、呼気に伴って臍が引けるかを必ず確認しましょう。吸気を伴って、Draw-inを行うと代償が生じます。

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動きが適切であれば、臍を引ききる前に、臍から8cm(拳一個分)横の腹部を引き込むことで、さらに強力な腹横筋の収縮が得られますので、チャレンジしてみてください。

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Draw-inのポイントは『呼気に伴って臍を引き込む』ということです。高齢者や肥満の患者さんでは、臍が引けても数mm程度ですので、注意深く動きを観察しましょう。

数mmでも動きがでていれば、オッケーです。代償が伴わないように、少しづつトレーニングをすすめ、臍を引き込める距離を伸ばしていきましょう。


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次に、胸式呼吸にてDraw-inをキープしてみましょう。最初は吸気に伴い腹横筋の収縮が抜けやすいので、抜けたら再度、呼気に合わせてDraw-inをしましょう。

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次に、Lordosis姿勢を修正するために重要な下腹部筋による骨盤後傾運動ができるか確認しましょう。

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順序として先に、Draw-inをするのは、腹横筋の収縮が全くない状態では、骨盤後傾運動をしにくいからです。そのため、ある程度、腹横筋に刺激を入れてからの方が骨盤後傾運動はしやすくなります。


骨盤後傾運動ができなければ、『急所をご自身の顎に近づけるように骨盤を動かしてください』というキューをだしながら運動学習を促しましょう。

『腹横筋によるDraw-in』と『下腹部筋による骨盤後傾運動』は椎間関節性腰痛を治すための体幹トレーニングの基礎となります。

必ず評価し、適切にできるまでは、難易度を上げないようにしましょう。


椎間関節性腰痛を患っている方には、最低限、ここまでの体幹機能は欲しいです。



ここから先は余裕があれば、さらに伸展負荷をとめるための腰部の固定性を高めるために、実施していきましょう。

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Leg LiftHip rotateなど、骨盤回旋負荷がかかるトレーニングでは


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左右のASISを指標とし、骨盤が回旋しておらず、しっかり固定できているか確認しましょう。


Toe TouchToe Reach Outなど骨盤前傾負荷がかかるトレーニングでは

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腰部の下に手のひらを置き、動作中に手のひらで腰椎部での圧を感じることができる程度に、骨盤が固定できているか(骨盤前傾していないか)を確認しましょう。

椎間関節性腰痛なので、骨盤が前傾すると疼痛がでやすくなります。



ここまでの、股関節伸展可動性改善と体幹(腰部)の固定性強化は必ず実施しましょう。ここまででが、椎間関節性腰痛の治療のほとんどを占めます。



椎間関節性腰痛の場合、多裂筋のスパズムを伴っていることが多いため、それに対してもアプローチしましょう。

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特に反回抑制(求心性収縮後の弛緩)は、うまく患者さんの多裂筋の動きを誘導できれば絶大な効果がでますが、これは実技で習得しなければ難しいです。

『反復収縮(リラクセーション)』は、患者さんの尾骨に手掌面をあて、多裂筋の走行を意識して骨盤を軽く挙上させ、また元の位置に戻す。ということを繰り返します。


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上位の多裂筋を狙いたい場合は股関節屈曲角度は30-40°ほど

中位の多裂筋の場合は、70°ほど

下位の多裂筋の場合は、90-100°ほど

と股関節の屈曲角度を変えることにより、狙える多裂筋の部位が変わります。



その他に、椎間関節性腰痛の人は前屈からの復位動作で腰椎優位の動きとなっているため、

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腰部は固定して、股関節で動く動作訓練(モーターコントロール訓練)も行いましょう。

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あとは、ADL指導として大股で歩くと、骨盤前傾により腰椎の伸展が出やすくなるため、小股で歩くような指導もしていければ、椎間関節の炎症も早く治まってきます。



いかがでしたでしょうか?

椎間関節性腰痛の治療について、理解が深まったでしょうか?

もし、わかりにくい箇所やご質問があれば、記事のコメント欄でもTwitter,Instagramでもよいので、質問いただければお答えいたします。

今回は、記事のご購入、誠にありがとうございました。


次回は、椎間板ヘルニアおよび脊柱管狭窄症についてお話する予定です。

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