新型インフルエンザ等対策特別措置法とは
主に保健関係者向けに記載しますので、やや難解な書き振りになることはご容赦ください。
感染症の汎流行(パンデミック)による国家的な危機に立ち向かうための法律、それが「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)」です。これまでは、「新型インフルエンザ」とよく言われる、通常秋から冬にかけて流行する「季節性」インフルエンザとは違って、人類が全く経験したことがなく免疫がない新しいインフルエンザウイルスによる感染症、そして、人から人に感染するようなのだけれでも原因となる病原体がまだわからない「新感染症」と法律上呼ばれる感染症(かつてSARSが病原体不明であった初期にしていされたことがありました)がその対象でした。今般発生した「新型コロナウイルス感染症」が新たにその対象として追加されることになりました。
表1:新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象疾患
1. 新型インフルエンザ等感染症
2. 新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるもの)
3. 新型コロナウイルス感染症* ←←新たに追加
(*注 時限付き:令和2年3月14日〜令和3年1月31日)
「特措法」というと、この感染症に対しては既存の法律を全て飛び越えて、この特措法で様々な措置を行うように聞こえますが、そうではありません。感染症法や予防接種法といった既存の感染症対策のための法律ではできない部分を補完するのがこの法律の役割です。表1の疾患の流行を国家の危機として捉え、政府一体となって事前準備と対応を行うための法律です。感染症流行を抑制するための対策のみならず、「国民生活及び国民経済に及ぼす影響の最小化」のための措置も含まれています。特に感染症対策の観点からは、まん延防止対策として社会的隔離を行うための法律でもあります。
社会的隔離=(感染者を個別に隔離するのではなく)社会全体での人の接触機会を減らし感染症のまん延を低減しようとする対策。例えば外出自粛など。
感染症法の限界とは
感染症法は、感染者または汚染された施設等に着目した医療的・公衆衛生的な感染源対策を想定した法律です。例えば、感染者の方に、設備の整った病院に入院していただき治療を受けていただく、とか、特定の業務に就かないような制限をする、といった措置があります。他にも汚染された場所を消毒するといった措置があります。一方で、今回の新型コロナの流行のように、このような入院措置等だけでは感染が収まらず、感染者を完全に特定していくことが困難な状況では、更なるまん延を食い止めることが難しい場合があります。このような場合、上記の「社会的隔離」により、例えば大規模イベントの中止によって人が集まる機会を抑制したり、学校を休校するなどして、社会における人の接触機会を減らすことで、まん延の防止を図ります。このような措置を行う法的根拠となるのが特措法です。
予防接種法の限界を補う法律でもありますが、今回はまだワクチン供給の目処は立っていないので、割愛します。
ちなみに、新型コロナは特措法の対象疾患には位置付けられていますが、まだこの法律に基づく措置が始まる段階にはありません(3/25 7:00時点)。この法律が動き出すのは、新型コロナについては、「そのまん延のおそれが高いと認める時」です。厚労大臣が内閣総理大臣に対し、その旨報告を行うと、政府対策本部が設置され(同時に全都道府県にも対策本部が設置されます)、特措法に基づく措置が行えるようになります。
注:本日3/26昼に、厚生労働大臣が「まん延のおそれが高い」と認めた旨内閣総理大臣に報告を行ったとの報道がありました。この後、対策本部設置が設置されたところで特措法に基づく措置が行えるようになります。
注2:3/26夜に対策本部が設置されました。これにより、新型コロナウイルス感染症について、緊急事態宣言を含め、特措法に基づく措置が行えるようになりました。
(追記 3/28)「そのまん延のおそれが高い時」については、3/26の厚労大臣から内閣総理大臣への報告に、国内外における発生状況を示し、「上記の状況に鑑み、そのまん延のおそれが高いと認められる」という記載になっています。
かいつまんで記載すると以下のような内容になっています。
(1)国内における発生の状況
② 国内における発生の状況の分析等
・ 「北海道以外の新規感染者数は、日ごとの差はあるものの、都市部を中心に漸増しており、3月 10 日以降、新規感染者数の報告が 50 例を超える日も続いています。また、高齢 者福祉施設で集団感染が発生する事例があります。」
・「感染源(リンク)が分 からない感染者の増加が生じている地域が散発的に発生しています。」
・「日本国内の感染の状況については、3月9日付の専門家会議の見解でも示した ように、引き続き、持ちこたえていますが、一部の地域で感染拡大がみられます。諸外国の例をみていても、今後、地域において、感染源(リンク)が 分からない患者数が継続的に増加し、こうした地域が全国に拡大すれば、ど こかの地域を発端として、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりか ねないと考えています。」等とされており、その後更に感染者数の増加が見られる。
(2)海外における発生の状況
・世界保健機関がパンデミックとみなすことができることを表明。
・世界的に感染者数と死亡者数の急激な拡大
(3)海外において感染し、国内に移入したと疑われる感染者の発生の状況
・ 本年3月19日以降、輸入例が連日 10 人以上確認。国内で確認された感染者のうちに占める割合も増加。
・移入元の国が欧州を中心として多様化。
・ 増加と多様化の両面の影響を今後受ける可能性がある。
2. 新型コロナウイルス感染症にかかった場合の病状の程度
・ 「この感染症に罹患しても約 80%の人は軽症で済む」
・「5%程の方は重篤化し、亡くなる方もいる」
・「高齢者や基礎疾患を持つ方は特に重症化しやすい」
こうした重症度については、 致死率が極めて高い感染症ほどではないものの、 季節性インフルエンザと比べて高いリスクがあると認められる。