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指定感染症とは何か

以前にも以下の記事で記載しておりますが、あらためて追記・改変して再掲します。よく「新型コロナは二類感染症相当の位置付け」とされますが、現状では、「新型インフルエンザ等感染症」とほぼ同じレベルの措置が規定されていること、そして、入院措置の運用状況についてこれまでの流れを整理してみました。

指定感染症とは

新型コロナウイルス感染症は、感染症法で「指定感染症」に指定されています。指定感染症とは、四類以下の感染症法上の感染症、または感染症に位置付けられていない感染症について、一類〜三類感染症、新型インフルエンザ等感染症、新感染症に対して行う措置を時限的に準用することができるようにするための感染症法上のカテゴリーです。

「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。(感染症法第6条)

これだけだとよく分からないのでもう一歩踏み込んで解説します。

今回のように、新しい感染症が発生したとします。病原体も判明し、病原体診断も可能になりました。そして、どうも人から人に感染するようです。感染している人は、入院などして他の人にうつさないようにしてもらう必要があります、という状況を想定しましょう。このような「措置」を行政が執るためには、感染症法での位置付けが必要です。単に報告を求めるなどであれば、政令や省令で4類や5類に位置付けることが可能です。つまり、行政側の裁量で位置付けを決められます。しかし、特に、感染症患者に対して入院や就業制限など、行動の制限を伴う措置をかける、すなわち、そのような人権制限を伴う措置を伴う一類や二類感染症への位置づけは、法律で感染症法に位置付けるものです。つまり、国会審議を経て法改正を行って位置付ける必要があるということです。しかし、それは通常ものすごく時間がかかるプロセスであるため、新しく発生した感染症に対する対策として間に合わないことも危惧されます。そのため、「指定感染症」に政令(←閣議決定で決められる=内閣(行政側)で決められる)で時限的に指定することで、そのような措置を行えるようにしています。措置は、一類〜三類感染症に対して行える措置(入院勧告など)から、必要な措置を選んで(条文を準用して)行えるようにします。

新型コロナウイルス感染症については、段階的に取れる措置が追加されてきました。初めて指定されたのは、1月28日のことです。

ちょと複雑ですが、
1/28:政令公布 ←患者・疑似症患者に対する入院措置
1/31:1/28の政令を改正する政令の公布 ←施行日を早める政令
2/1:施行
となりました。さらに2/14からは無症状病原体保有者への措置が適用となりました。

これにより、新型コロナ患者に対し、感染症法上で公費による入院措置を、患者・疑似症患者・無症状病原体保有者に対して行えるようになりました。

注)感染症法上では、症状があり、かつ病原体が検出されている人を「患者」と見做して措置をとることが原則です。一方で、病原体はまだ検出されていないけども症状がある人を「疑似症」、病原体は検出されているけども症状がない人を「無症状病原体保有者」と呼び、これらの人に対しても措置が取れる場合があります。

さらに、3/26に、新型コロナウイルス感染症が「まん延のおそれが高い」として、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき対策本部が設置されたところですが、併せて、新型コロナに対して以下の感染症法上の措置が追加されました。

3月26日公布・3月27日施行の政令により新型コロナに対して感染症法上追加された措置 
第31条 生活用水の使用制限
第32条 建物に係る措置(建物の立ち入り制限等)
第33条 交通の制限または遮断
第44条の2 実施する措置等に関する情報の公表
第44条の3  感染を防止するための協力(健康状態の報告、外出自粛等の要請)
第44条の5  都道府県による経過報告

このうち、第44条2・5は、元々新型インフルエンザ等感染症に対してのみ規定されていた措置です。先にも述べた通り、感染症法の措置は、症状があり病原体が検出されている(あるいは少なくともいずれか)人に対して行うのが大原則です。しかし、インフルエンザ(そして新型コロナウイルス 感染症も)発症する前から感染性があることが知られています。例えば、陽性者の家族などの濃厚接触者は、症状がなく病原体が検出されていなくても、すでに感染性があるようなリスクが高いと考えられます。そのような方から、さらなる感染を引き起こす可能性を低減するため、外出の自粛と健康状態の報告を求めることができます。罰則等はありませんが、一定の努力義務が課せられています。なお、このような対策の実効性を保つため、都道府県知事には食事や物品の提供などを行う努力義務があります(実費は当該者から徴収可能)。

一旦ここで主な措置をまとめると、以下の表になります。あくまで「主な措置」です。すべてを書き出しているものではありません。

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出典:第39回厚生科学審議会感染症部会(持ち回り開催)資料 資料1 新型コロナウイルス感染症 を指定感染症として定める等の政令等の一部改正について

新型コロナウイルス感染症は二類相当?

当初「二類感染症相当の措置をとる」ことをイメージして条文の準用をデザインしたことから「二類感染症相当に指定されている」という表現がよくされるようになってしまっていますが、その後いくつかの措置が追加されたので、もはや「二類感染症相当」ではありません。私は以下の理由で「新型インフルエンザ等感染症相当」と言って良いのではないかと個人的には思っていますが、「新型コロナのためにカスタマイズされた措置が定められている」というのがより正確な表現でしょう。

新型インフルエンザ等感染症相当と呼べる理由
・二類にはない無症状病原体保有者に対する措置
 (←一類+新型インフルの措置)を追加した
・二類にはない措置(建物の立入禁止等)
 (←一類+政令によって新型インフルも場合によってありの措置)を追加。
・濃厚接触者への外出自粛要請(第44条の3)
 (←新型インフルにしかない措置)を準用していること

ただし、(細かいですが)疑似症患者の扱いは二類相当です。
二類:疑似症患者=患者とみなす(第8条一項)←新型コロナはこっち
新型インフルエンザ等感染症:疑似症患者であって当該感染症にかかっているという疑うに足りる正当な理由のあるもの=患者とみなす(第8条2項)

入院勧告は感染症指定医療機関でないとダメか

新型コロナウイルス感染症の患者は、基本的に入院勧告の対象になります。なお、新型コロナウイルス感染症については、疑似症も無症状病原体保有者も皆「患者」です。入院させる場合には、設備が整えられている感染症指定医療機関(特定、第一種、第二種)に入院勧告することが原則です。ただし、「緊急その他やむを得ない理由があるとき」は、指定医療機関に限らない医療機関に入院させることができます。この「緊急その他やむを得ない理由」については、以下の様な解釈が以前から示されています。

3 法第19条第5項に規定する緊急その他やむを得ない理由があるときの対応
感染症指定医療機関への入院を必要とする感染症が大量に発生した場合や重篤な合併症を有する患者であること等の理由により感染症指定医療機関に入院させることが適当でない場合は、感染症指定医療機関以外の病院又は診療所であって、都道府県知事等が適当と認めるものへの入院の勧告又は措置を行っても差し支えないこと。
(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における健康診断、就業制限及び入院の取扱いについて」の一部改正について(平成28年4月1日、健発0401第3号)

今回も、クルーズ船での感染者の多数発生を受けて、結核感染症課からの2月9日の事務連絡で、このただし書に言及しつつ、病床の確保を求めています。

指定令及び感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成l0年法 律第 l14 号。以下「法」という。)においては、新型コロナウイルス感染症の患者及び 疑似症患者については、原則、感染症指定医療機関における感染症病床に入院させなけ ればならないこととなっているが、法第 19 条第1項ただし書において、緊急その他や むを得ない場合につき、感染症指定医療機関における感染症病床以外に入院させるこ と、又は感染症指定医療機関以外の医療機関に入院させることが可能となっているこ と。
新型コロナウイルス感染症患者等の入院病床の確保について(依頼).
令和2年2月9日結核感染症課事務連絡

この段階では、感染症指定医療機関の指定病床以外の病床を主に活用する考えでしたが、さらに、感染症指定医療機関以外の医療機関の活用も進め、施設整備の支援も進められています。

また、「新型コロナウイルス感染症患者等の入院病床の確保について(依頼)」(令和2 年2月9日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡)において、緊急その他やむを得ない場合につき、感染症指定医療機関における感染症病床以外に入院させること等が可能となっていることを踏まえた対応を既にお願いしているところですが、貴職におかれ て具体的な搬送医療機関を検討する際は、まずは「新型インフルエンザ患者入院医療機 関整備事業の実施について」(令和2年2月6日健発 0127 第3号厚生労働省健康局長通 知)における新型インフルエンザ患者入院医療機関への搬送を検討・調整していただき、 当該医療機関において満床等の理由で受け入れできない場合等については、他の医療機 関等への受け入れを検討していただくなど、具体的な入院病床の確保に努めていただき ますようお願いいたします。
新型コロナウイルス感染症患者等の入院病床の確保について(依頼).
健感発0212第4号 医政地発0212第1号 令和2年2月12日

これらは、主にクルーズ船での多数患者発生の対応に向けた対応でしたが、3月1日の事務連絡では、状況の進展によっては、指定医療機関に限らず必要な病床を確保していく方針が明示されました。

「地域で新型コロナウイルス感染症の患者が増加した場合の対策の移行について」(令和2年3月1日付け事務連絡)(抜粋)
(2)状況の進展に応じて講じていくべき施策<入院医療体制>

〇 地域での感染拡大により、入院を要する患者が増大し、重症者や重症化するおそれが高い者に対する入院医療の提供に支障をきたすと判断される場合、次のような体制整備を図る。
感染症指定医療機関に限らず、一般の医療機関においても、一般病床も含め、一定の感染予防策を講じた上で、必要な病床を確保する。(略)

患者は全て入院勧告しなければいけないのか

都道府県知事には、入院を勧告させる権限が与えられています。そのため「都道府県知事は、患者に入院を勧告することが"できる"」と法に記載されています。これはしばしば「できるだけでしなくてもいい」と解されがちですが、そういう意味ではなく、まん延を防止するため必要であれば入院させるのが原則です(詳細は逐条解説参照)。

しかし、今般の新型コロナ発生状況下では、「地域で新型コロナウイルス感染症の患者が増加した場合の対策の移行について」(令和2年3月1日付け事務連絡)で、今後、地域で感染が拡大した状況では、無症状者及び軽症者については、自宅での安静・療養を原則とすることも示されています。

「地域で新型コロナウイルス感染症の患者が増加した場合の対策の移行について」(令和2年3月1日付け事務連絡)(抜粋)
(2)状況の進展に応じて講じていくべき施策<入院医療体制>

〇 地域での感染拡大により、入院を要する患者が増大し、重症者や重症化するおそれが高い者に対する入院医療の提供に支障をきたすと判断される場合、次のような体制整備を図る。
① (略)
② 高齢者や基礎疾患を有する方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方、妊産婦以外の者で、症状がない又は医学的に症状が軽い方には、PCR 等検査陽性であっても、自宅での安静・療養を原則とする。(略)

4月2日の事務連絡では、入院勧告の対象とはならない事例が以下のように示されている。

2.宿泊療養・自宅療養の対象及び解除の考え方
(1)対象者
○ 以下の者については、必ずしも入院勧告の対象とならず、都道府県が用意する宿泊施設等での安静・療養を行うことができる
無症状病原体保有者及び軽症患者(軽症者等)で、感染防止にかかる留意点が遵守できる者であって、
・原則①から④までのいずれにも該当せず、帰国者・接触者外来又は現在入院中の医療機関の医師が、症状や病床の状況等から必ずしも入院が必要な状態ではないと判断した者※ (略)
「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」令和2年4月2日

その上で、自宅療養というオプションが以下のように示されています。

入院病床の状況及び宿泊施設の受入可能人数の状況を踏まえ、必要な場合には、軽症者等が外出しないことを前提に、自宅での安静・療養を行う(以下「自宅療養」という。)
「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」(令和2年4月2日)

なお、宿泊施設が十分に確保されているような地域では、宿泊療養を基本として対応をお願いする、としています。「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る自宅療養の実施に関する留意事項(第4版)」では、本人の理解を得ることが極めて困難な場合など、「臨時応急的な措置として自宅療養を行うことになる」としています。このように、入院の措置については、感染防止対策をそれぞれが行える状況であること、そして容態が悪化した際にはすぐに治療を受けられる体制を準備することを前提として、
まずは入院が基本だが、無症状病原体保有者・軽症患者には宿泊施設等での安静・療養というオプションもある
・その場合、宿泊療養を基本としているが、自宅療養という臨時応急的な措置もある
ということで、地域の状況に応じてフレキシブルに行えるように運用されうる、とい考え方がお分かりいただけるかと思います。「自宅療養を認めた」ということが、「まん延防止対策として軽症者や無症状病原体保有者は入院が不必要であることを認めた」という意味ではない、ということです。リソースに上限がある中で、まん延防止対策と重症者の治療体制の両立方法をそれぞれの地域で考えていく必要があります。

宿泊療養、自宅療養の方については、外出制限や健康状態の報告が求められていますが、その法的な根拠は第44条の3第1項・第2項によっています。

13 宿泊施設や自宅での療養中の外出制限や健康状態の報告は、法律上の 根拠があるのですか。体調が良くなっても、守らなければならないのですか。
(答)
○ 新型コロナウイルス感染症は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成 10 年法律第 114 号。以下「感染症法」という。)第6条 第8項の「指定感染症」に指定されており、感染症法の規定のうち、一部が 適用されることになっています。
○ この適用される規定には、第 44 条の3第1項及び第2項並びに第 64 条も含 まれますが、これらの規定に基づき、都道府県知事・保健所設置市の市長・ 特別区の区長は、健康状態の報告、居宅等の場所から外出しないこと等の必要な協力を求めることができることとされています。
「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療 養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」に関するQ&Aについて(その8)」(令和2年8月7日事務連絡)

今後の法的位置付けと対策のあり方

感染症法上の措置も、上記のように柔軟な運用の余地があることを解説しました。なお、新型コロナ対策では、このような形で、患者の増加に伴って、施設療養や自宅療養を認めたとしても、防止策が奏功すれば、対策を以前の段階に戻し、原則入院とすることもありうる、としています。

○ なお、2.以降に示す対策は、新型コロナウイルス感染症の患者の増加に
伴う一方向的なものではなく
、例えば、地域で患者が確認された早期の段階で、患者クラスターに対する感染拡大防止策が奏功して、いったん地域の感染者の発生が抑制された場合など、移行した対策を元の段階に戻すこともあり得る点、留意が必要である。
「地域で新型コロナウイルス感染症の患者が増加した場合の各対策(サーベイランス、感染拡大防止策、医療提供体制)の移行について(令和2年3月1日)

新型インフルエンザの対策では、このように対策を「以前の段階に戻す」という考えはあまりありませんでした。それは、市中に拡大してしまったら、その後コントロールするのは非常に困難な感染症だからです。一方、新型コロナは非常に地域差もあります。東京や大阪で1日に百人単位の感染者が報告されても、まだ1日1桁台の報告者数の県もあります。新型コロナウイルス感染症は、インフルエンザほどの感染力はなく、特に感染者数がある程度の規模で限られる状況では、クラスターの形成に注意を払えれば、制御下に置くことができる感染症だと考えられます。一方で、何も対策を行わなければ、2月〜3月のイタリアや米国の事例からも分かるように、急激な感染者の増加、それが重症患者の急増となって急速に医療体制を圧迫するリスクがあることは、忘れてはいけないでしょう。

新型コロナウイルス感染症の指定感染症としての期限は来年2月6日です。新型コロナウイルス感染症については、色々なことがわかってきましたが、今後どのような形でこの感染症と付き合っていくのか、そのために何を行う必要があるのか、その際にとるべき措置は何かを検討し、指定感染症として延長するのか、その場合は準用すべき措置を再検討するのか、あるいは感染症法上のあるカテゴリーに位置付けるのか、などを考えていく必要があります。