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新型コロナ対策:特措法における措置とは (緊急事態宣言前)

新型インフルエンザ等対策特別措置法は大きく5章で構成されています。内容をかいつまんでご紹介していきます。

第1章 総則

言葉の定義や、国民や事業者の責務が記載されています。

第1章 総則
目的(第1条)
定義(第2条)
国・地方公共団体等の責務(第3条)
事業者及び国民の責務(第4条)
基本的人権の尊重(第5条)

言葉の定義で一つ覚えておきたいのは、「新型インフルエンザ等対策」という用語です。要は、新型コロナについては、「まん延のおそれあり」として内閣総理大臣に報告され、政府対策本部が設置されてから廃止されるまでの間に実施するのが、法律用語での「新型インフルエンザ等対策」です。

新型インフルエンザ等対策:
第十五条第一項の規定により同項に規定する政府対策本部が設置された時から第二十一条第一項の規定により当該政府対策本部が廃止されるまでの間において、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにするため、国、地方公共団体並びに指定公共機関及び指定地方公共機関がこの法律及び感染症法その他の法律の規定により実施する措置をいう。

先にも書きましたが、国民と事業者には「新型インフルエンザ等対策」に協力する努力義務が課せられています。

第2章 新型インフルエンザ等対策の実施に関する計画等

発生前に実施する計画の作成や、物資や資材の備蓄等、訓練等について書かれています。

第2章 新型インフルエンザ等対策の実施に関する計画等
政府行動計画の作成及び公表等(第6条)
都道府県・市町村行動計画(第7、8条)
指定公共機関及び指定地方公共機関の業務計画(第9条)
物資及び資材の備蓄等(第10,11条)
訓練(第12条)、知識の普及等(第13条)

これによって、政府行動計画のほか、全都道府県・市町村で行動計画、指定公共機関・指定地方公共機関で業務計画が作成されるとともに、ワクチンや医薬品の備蓄、毎年の訓練等が行われてきました。

第3章 新型インフルエンザ等の発生時における措置

第3章は、この法律の対象疾患が発生したことが認められた(新型コロナの場合は発生して「まん延のおそれあり」と認められた)段階の措置に関して記載されています。また、海外で発生している段階での措置が主に想定されています。

第3章 新型インフルエンザ等の発生時における措置
新型インフルエンザ等の発生等に関する報告(第14条)
政府対策本部の設置(第15条)、組織(第16条)、所掌事務(第17条)
基本的対処方針(第18条)
指定行政機関の長の権限の委任(第19条)
政府対策本部長の権限(第20条)
政府対策本部の廃止(第21条)
都道府県対策本部の設置及び所掌事務(第22条)、組織(第23条)
都道府県対策本部長の権限(第24条)
都道府県対策本部の廃止(第25条)
条例への委任(第26条)
指定公共機関及び指定地方公共機関の応援の要求(第27条)
特定接種(第28条)
停留を行うための施設の使用(第29条)
運行の制限の要請等(第30条)
医療等の実施の要請等(第31条)

簡単に発生時の流れを説明すると、

厚労大臣は新型インフルエンザ等感染症/新感染症が発生したと認めたら
(新型コロナの場合は「まん延のおそれあり」と認めたら)
内閣総理大臣に報告(第14条)

(季節性インフルエンザの病状と概ね同程度以下であると認められる場合を除き)政府対策本部を設置(第15〜17条)

基本的対処方針を示す(第18条)

という手順になります。前にも書きましたが、この「基本的対処方針」で現在の状況のほか、政府行動計画の中から行うべきメニューを示していく、というのが基本的な考え方です。なお、政府対策本部は、
・季節性インフルエンザの病原性の程度に比して概ね同程度以下と判明
・(免疫の獲得等により)新型インフルエンザ等感染症として認められなくなった
・新感染症として認められなくなった
ときに廃止されます。

第24条では、都道府県対策本部長(知事)の権限が示されています。いわゆる「総合調整」という役割になりますが、そのほか、「必要な措置」を講ずるよう求めたり、要請したりすることができます。

第24条 都道府県対策本部長の権限
・総合調整
・当該都道府県警察・教育委員会に対し必要な措置を講ずるよう求めることができる
 ー各種犯罪の防止
 ーまん延防止のための学校の休業要請等
・指定(地方)行政機関の長に対し新型インフル等対策の実施に関し必要な要請をすることができる
・公私の団体または個人に対し、その区域に係る新型インフル等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる
 ー広報活動等への協力要請
 ー文化祭等のイベントの延期や施設の使用を極力制限することなど

上記のように、一般的なまん延防止対策(学校の休業要請や、感染対策の呼びかけ、今だと「3つの"密"を避けよう」)などは、この都道府県対策本部長の第24条の権限に基づき行われることが想定されます。なお、後ほど述べる「緊急事態宣言」下では、具体的に場所や期間を指定しての施設の使用制限などを要請することができます

第28条では、特定接種と呼ばれる医療従事者や対策に関わる事業者等への優先的なワクチン接種の枠組みが記載されていますが、新型コロナではまだワクチンが無いので解説は割愛します。また、水際対策として、停留を行うための施設の確保(第29条)や運行制限の要請(第30条)といった条文があります。

第31条は医療従事者に対して要請を行うための条文です。例えば、「特定接種」を行いたい場合、あるいは、帰国者・接触者外来を設置して診療を行いたい場合、あるいは、病院では無い場所(例えばホテルとか体育館とか)を「臨時の医療施設(後述)」として医療を提供する、といったことが必要になった場合、医師や看護師等にどこからか来てもらう必要があります。そのようなときに要請を行うための規定です。

医療等の実施の要請等(第31条)
・医師、看護師その他の政令で定める医療関係者に対し、都道府県知事は、医療を行うよう要請又は指示することが出来る。
 ー特定接種の実施に関し必要な協力を要請又は指示することができる。
 ー帰国者・接触者外来、臨時の医療施設等(法第48条)における医療の提供などを想定

なお、そのような要請・指示をする際には、安全の確保が重要であり、情報提供やマスク・防護具等を支給するなどの必要な措置を講ずることとされています。また、この要請に応じて医療を行なった場合の損失補償(第62条)や損害補償(第63条)も規定されています。ただし、損失補償といってもこの法律で規定されているのは、いわゆる「休業補償」ではなく、実費弁償です。