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川端康成の書いた風

【その12】

「そして垂れひろがったもみじの枝さきは、ないような風にゆれ動いている」



川端康成
『眠れる美女』
新潮社 1967年 100頁


少しの風、強い風、爽やかな風……
世間一般の人々は、風は「あるもの」という前提で、それがどの程度で、どういった風かを書く。ない場合は無風という言葉が当てはまる。

「ないような風」と表現したのは、私の知る限り川端康成だけである。

作家の中でもずば抜けた人たちは、人とは異なった方向からものを見て、書くことができる。

もちろん奇想天外なストーリーが売りの場合、そのような能力は、必ずしも必要ではないのだろう。

だけど、私の読書の楽しみは、ないような風にゆれ動くもみじの枝先に出会うことにある。


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