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スタートアップの次の成長に向けて 博報堂DYベンチャーズ「Future Design Talk ブランドパーパス編」 SHE福田さん・Plott奥野さんのチャレンジとは?

博報堂DYベンチャーズでは、出資先であるスタートアップの経営層の方々が、これからのサービスの成長を考えていくうえで、博報堂DYグループに所属する様々な領域の専門家「カタリスト」と共に未来へのチャレンジを語り合う「Future Design Talk」と題したセッションを立ち上げました。

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Future Design Talk、今回のテーマは「ブランドパーパス」。サービスやコンテンツを通じて社会にどのような影響を与えたいか、組織がどのように世の中に貢献していくのか。スタートアップが、次の成長のフェーズに向かうには、組織の存在意義を確固たるものに定義し、社内外からの共感を集めることが重要です。

今回は、博報堂ベンチャーズが支援するスタートアップの経営者2名と、ブランディング領域に専門性を持つ3名の「カタリスト」たちが、違う立場から意見を交換することに。それぞれの経営者が考えている次のチャレンジとは?

<スタートアップ>
●福田恵里さん 
SHE株式会社 代表取締役・CEO・CCO
1990年生まれ。大学在学中、女性向けWebスクールを立ち上げ、300名以上が受講。リクルートホールディングスで勤務を経て、26歳でSHE株式会社を起業。主要事業の「SHElikes」の累計受講者は4万人以上に。

●奥野翔太さん 株式会社Plott CEO
1995年生まれ。筑波大学情報科学類卒業。大学在学中に起業し、ゲーム・ドラマ・VTuberなど複数コンテンツを企画・プロデュース。2019年より「テイコウペンギン」を立ち上げ、その後複数のYouTubeアニメをリリース。

<カタリスト>
●永井 一史 株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長 アートディレクター/クリエイティブディレクター 多摩美術大学教授 博報堂でアートディレクターを務めたのち、2003年にデザインによるブランディングの会社HAKUHODO DESIGNを設立。企業・行政の経営改革支援や、事業、商品・サービスのブランディング、VIデザイン、プロジェクトデザインを手がける。2015年から東京都「東京ブランド」クリエイティブディレクター、2015年から2017年までグッドデザイン賞審査委員長を務める。

●沼田 耕平  SIX Producer / COO
博報堂のクリエイティブ部門で従事。その後、子会社のSIXに所属し、SXSWアクセラレーターコンペティション、ACC Creativity Awardsグランプリなどを多数受賞。データの向こう側にある人の心の在り様を捉えることが趣味で、すべてはつながるし、つながなきゃいけないとソーシャルキャピタルの重要性を思う日々です。根っからの体育会系(野球)でSIXの中では、最も礼儀正しく、義理がたく、涙もろい。(はずです)

●藤平 達之 博報堂/SIX
ストラテジック・クリエイティブ・ディレクター/UXデザイナー
神奈川県出身、1991年生まれ、2013年博報堂入社。
ブランドパーパスとインサイトを組み合わせてコアアイデアを設計し、さまざまな領域で顧客体験を形にする。サービスやプロダクト開発の経験も多く、投資サービスやIoTプロダクトなどを担当。自身のプランニングを「PJMメソッド」 として体系化し、著書『クリエイティブなマーケティング』として発刊。これまでに「2020 60th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS 総務大臣賞/ACCグランプリ」などを受賞。「ad:tech tokyo 2020」他、セミナーにも多数登壇。フィナンシェと炭酸水とジンが好き。

<進行>
●加藤 薫 博報堂DYホールディングス

戦略投資推進室 インダストリーアナリスト
2008年から博報堂DYグループ内メディア系シンクタンク「メディア環境研究所」にて国内外の生活者調査やテクノロジー取材に従事。2021年4月より現職。スタートアップ企業との連携を促進し、社会へのインパクトを創出すべく活動中。


SHE福田さんが考える次のチャレンジ「オリジナルの市場カテゴリを創造して、プランドポートフォリオを拡大していきたい」

博報堂DYホールディングス(以下HDY)・加藤:まずはSHEの福田さん、事業内容からお聞かせいただけますか?

SHE・福田:SHEは「一人一人が自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる」をビジョンとして掲げ、主にミレニアル世代の女性向けにキャリアスクールコミュニティを運営している会社です。

WebデザインやWebマーケティングなど、女性が在宅で働けるスキルを27種類のコースから自由に組み合わせて学ぶことができる「SHElikes(シーライクス)」がメインの事業になります。

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SHE・福田:最近は、ファイナンス領域やビューティー領域にも事業ドメインを拡大していて、最終的には「ライフコーチングカンパニー」として女性のライフイベント全般に寄り添うブランドポートフォリオを展開していきたいと考えています。

次のステップに向けて、今まさに課題だと感じているのは、「スクールビジネス」という枠に囚われることで、本来、自分たちが考えているポテンシャルよりも過小評価されてしまうのではないか、この先どうやって事業を拡大していくかが次のチャレンジだと考えています。

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▲SHE株式会社 福田恵理さん

HDY・加藤:SHEさんはユーザーから熱狂的な人気がありますよね。「SHEで人生が変わった」という声をたくさん聞きます。ただのスクールではなく、まさにコミュニティなんですね。

SHE・福田:ありがとうございます。まさに、コミュニティの熱狂度がSHEの強みだと思っています。

HAKUHODO DESIGN・永井:コミュニティとはユーザー同士のことでしょうか? それとも、SHEさんとユーザーの関係性のことですか?

▲HAKUHODO DESIGN・永井一史

SHE・福田:両方ですね。私たちの運営コンセプトは「球体型のコミュニティ」です。運営側や講師、受講生という立場に関係なく、お互いに学びあえるコミュニティを初期からずっと目指してきました。

SIX・沼田:伺っている限り、死角がなさそうに思えます。コミュニティだと本来持っているポテンシャルよりも過小評価されてしまうのが悩みとのことでしたが、どうしてそう感じるんですか?

SHE・福田:資本主義経済の中で、コミュニティという分野は価値がまだ証明しきれていないのかな、と。

SHEはコミュニティの強みにテクノロジーを掛け算しているという自負があります。なので、例えば「コミュニティテック」という定義する言葉を作って市場を創造していくのはどうか、またDXやB2BSaaSのように投資環境視点に分かりやすい銘柄のようなアプローチはつくれないか、など模索しています。とはいえコミュニティをこのまま推していくのがそもそも正しいのかどうか、そこもまだ見極めきれていません。

SIX・沼田:EdTechとは異なるのでしょうか?

SHE・福田:おっしゃる通りSHEの事業は、EdTech、教育銘柄といった角度からも見ることができます。

今の売上の95%以上がキャリア領域の事業なんです。キャリア領域のドメインとして見せることも可能だなと考えると、どこがキーポイントになるのか。市場に対する分かりやすさと、新規性、包括性も考えていかなければいけないと思っているんです。

HDY・加藤:誰に対してどんな言葉を作っていくのか。分散しやすいところですよね。パーパスを決めていくとき、藤平さんはどんな順番で行っていますか?

SIX・藤平:まずは自分たちの事業やサービス、プロダクトを通じて、「どんな社会を実現したいか」を、どれくらいシンプルな言葉で決められるかですね。事業ドメインを新しい言葉で定義することは意外と難しいので、「●●事業」のように新しいキーワード開発に走りすぎないことが大事だと思います。

たとえば、仮に現在の事業をやらないとしたら、どんな新しい事業で自分たちが目指したい社会を達成するのか? そして、なぜそう考えたのか?
思考ゲームのような位置付けで、その問いと向き合うと、本質に近づいていくと思います。その中で意外と、パーパスの中心となるようなキーワードに出合えることも多いですね。

藤平
▲博報堂/SIX 藤平 達之

HDY・加藤:現在の事業以外で自分たちのありたい姿を定義すると、本質が見えてきやすくなるということですかね?

SIX・藤平:はい。目先の制約などいろんな事情を取っ払えるので、理想の社会から逆算して、純粋にやりたいこと/やるべきことを考えやすくなります。そこで残ったものが、パーパスや掲げたい事業キーワードと近い名前になってくるのではないでしょうか。

こういった思考ゲームから、何を捨てて、何を捨てられないかが明らかになっていくと思います。

SHE・福田:SHElikesをただのスクールビジネスとしては見られたくありません。でも、業態としてはやっていることはスクールと近い。どうしても「自分たちのアセットで今あるものは何だっけ?」と制約ありきで考えてしまう部分があったので、一度その前提をなくして考えてみるのは、思考実験のフレームワークとして効きそうです。取り入れてみたいと思います。


Plott奥野さんのネクストチャレンジ「事業ドメインの新しい定義をどのように設定すればよいか」

HDY・加藤:続きまして、Plottの奥野さんも事業内容をお伺いできますか?

Plott・奥野:はい。Plottは、YouTube上で、IPコンテンツの制作から配信、運営までを行い、オリジナルのヒットコンテンツを生み出そうとしている会社です。方法はとてもシンプルで、歴代の人気漫画が毎月雑誌で連載されていたように、僕らのYouTubeチャンネルでオリジナルの版権アニメを制作・配信。そこから、グッズや漫画、ゲームなどへ展開しています。

Plott・奥野:ブランドパーパスとしては「本気のアソビで世界をアッと言わせよう」を掲げています。僕らがワクワクして作ったものが世の中を感動させたり、わっと驚かせたり。そんなコンテンツが生まれていったらいいね、という思いで事業をしています。

ただ、今まで「YouTubeアニメカンパニーです」と名乗ってきたのですが、YouTubeアニメ、と言い切ってしまうと、事業を言い表すには言葉の耐久年数が短いのではないかなと考え始めまして……。

音楽やテレビアニメ、ノベルなどへの展開に進んでいくのか、デジタルIPプロデュースブランドに進んでいくのか。そのあたり、今後のチャレンジの可能性は大きく広がっているのですが、事業ドメインをどこに置き、どう表すのかを考えています。

奥野
▲株式会社Plott奥野翔太さん

HDY・加藤:Plottさんは、YouTubeでコンテンツを公開した後にそのチャンネルの反響を見て、内容をチューニングし、新しいファンを生み出しているのが新しいですよね。

Plott・奥野:ありがとうございます。クリエイティブを共に創る。「共創」に力を入れているのが強みです。

沼田
▲SIX 沼田 耕平

SIX・沼田:事業ドメインの新しい定義は、誰に対してやっていきたいと考えていますか?また、 Plottさん独自のものにしたいのか、それとも、他社も追随するような新しいカテゴリーを創造する、という考え方もありますが。

Plott・奥野:主にユーザー(コンテンツの視聴者)向けです。将来の展望として、他社も追随してくるような新しいコンテンツのカテゴリーを作りたいと考えていまして。そのカテゴリーネームの側面でも、ドメインをちゃんと作りたいです。

HAKUHODO DESIGN・永井:Plottさんの場合、「自社がこうありたい」と在り方を定義しているタイプのパーパスなので、そういうクリエイター集団という見せ方をしつつ、提供価値は何なのかも同時に考えた方がいいのかなと思いました。

自分たちがクリエイター集団として提供していることは何なのか。社会側から再定義してみると、今までとは違う発想ができますし、将来的に、そのあたりがカテゴリーネームになっていくのではないでしょうか。

Plott・奥野:面白いですね。確かに社会側から見た発想をしきれているかと言ったら、まだまだでした。そこを考えるには、やっぱりユーザーに声を聞くところから始めるべきなのでしょうか?

HAKUHODO DESIGN・永井:ユーザーに聞いてもいいですし、チームでもブレストしたら、たくさん出てくるかと思いますよ。既存のアニメーションや漫画とは違って、何が自分たちの提供価値とはなんだろうと議論していくと、いろんなことが進んでいくはずです。

Plott・奥野:もう一つ、パーパス自体をどうやって伝えていくのか。伝え方についてもまだ手探りです。ブランディングの専門家の視点では、何かテンプレートになる考え方はあるのでしょうか?

SIX・藤平:少数精鋭のフェーズの会社では、パーパスの浸透自体に労力を割くことは得策ではないケースが多いような気がします。

ですので、紋切型のタグラインとステートメントを制定して、「これがパーパスです」と伝えていくより、社員や参画しているクリエイター、ユーザーやステークホルダーの個々人の「ナラティブ(物語)」を使って、想いを浸透させた方がいいと思います。

たとえば、Plottのコンテンツやサービスに救われた人たちのリアルな物語をフックアップして、インナーや世の中に届けていく。「PlottのYouTubeアニメを見て、毎日が楽しくなった」とか、そういうナラティブがパーパスを可視化するにとても効きますし、濃い情報として広がっていくのではないでしょうか。

いきなりパーパスを伝えるためのコミュニケーションや表現を考えるよりは、すでにあるナラティブを拾い上げて編集して見せていくか。それが、初期の段階では大事だと考えています。

Plott・奥野:確かに設計から考えようとしすぎていたかもしれません。ナラティブで考えるのがとても大事だなと思いました。


Future Design Talk ブランドパーバス編のセッションを終えて

HDY・加藤:あっというまに時間が経ってしまいました。まだまだ話足りない部分はあったかと思いますが、最後に今回の相談セッションの感想をお願いできますか?

加藤
▲博報堂DYホールディングス・加藤薫

Plott・奥野:本日はありがとうございました。セッションの前に課題点をまとめながら、この情報量をどうやったら伝わるのかなと思っていましたが、本質的なところを汲み取っていただき、とてもありがたかったです。はっとさせられるポイントがいくつもあったので、これからの事業に活かしていきたいと思います。

SHE・福田:私もこんな壮大な問いを投げてしまっていいのだろうかと思いつつ、勇気を持ってお伺いさせていただきました。ブランディングについてのさまざまなフレームワークや考え方の型を知られてよかったです。考えていかなければいけないことを自分で言語化することで、少し優先度が上がったように思います。ぜひもう一段階解像度を上げて議論させていただけると嬉しいです。

HAKUHODO DESIGN・永井:私自身も勉強になる非常に楽しい時間でした。また機会がありましたらよろしくお願いいたします。

SIX・沼田:正解を探すというより、そもそも問いの立て方が合っているのか。それが多分皆さんの目下の関心領域ですね。ぜひ、もう何回か一緒にセッションできる機会があるといいですね。ありがとうございました。

SIX・藤平:とても刺激が多い時間でした。僕はスタートアップを経営しているわけではないので、立場が全く違うからこそ言えること、違うからこそ出てくる的外れなことが両方あったと思います。

今回お二人と話して、クリエイターとしても、生活者としても、日本を変えていくポテンシャルを持った事業だと感じました。志や存在意義、つまり今日のテーマであるパーパスを制定・発信していくようなフェーズでは、博報堂DYグループともコラボレーションできるといいなと思っています。今日はありがとうございました。

企画=博報堂DYベンチャーズ・博報堂DYホールディングス戦略投資推進室

(執筆=矢内あや 編集=鬼頭佳代/ノオト)


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