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前編:変化の激しい美容業界に、新たな潮流が登場

変化が激しい美容業界で、新しいコミュニケーショントレンドの潮流が登場しています。KOL(Key Opinion Leader)であるトップインフルエンサーを活用しておけば商品が売れる時代は終わり、これからは本音でブランドや商品をおすすめしてくれるKOC(Key Opinion Consumer)を増やすことができるかどうかが、勝負の分かれ道となります。
 
今回のFuture Design Talk は「<NOIN×博報堂キャリジョ研> 時代はKOLからKOCへ!おさえておくべき美容業界の最新トレンド」と題して、美容業界の最新トレンドについてディスカッションをしました。
 
化粧品EC事業、ブランド企画開発のほか、「NOIN.tv」というメディアを運営されながら、メディアとECの両方のデータを活用したマーケティング支援事業も行うスタートアップ ノイン株式会社「NOIN」。渡部社長、広告事業本部 BRDiv.部長 竹谷氏をゲストに迎えて、博報堂キャリジョ研の2名とともに、美容業界の最新トレンドについて語りました。


<プロフィール>

渡部 賢 さん

NOIN 代表取締役
Naver Japan (現LINE)にてディレクション業務を行った後、グリーにてスマホ版GREE NEWSを立ち上げ、同サービスを数百万MAUに成長させる。その後、サービス開発のマネジメント、新規事業の企画/開発/提携業務/子会社の立ち上げを経験。2015年よりフリーランスのプロデューサーとして、複数社の新規サービスの立ち上げや運用などを行う。2016年11月に個人事業を法人化させたノインを設立。

竹谷 惇志 さん

NOIN 広告事業本部 BRDiv. 部長
上智大学卒業後、新卒でジャパンエフエムネットワークにて、ラジオ広告やイベントの企画立案に従事した後、2015年にカカクコムに転職。価格.comの通信カテゴリで大手通信会社を担当した後、食べログのナショナルクライアント向け広告のセールスマネージャーとして従事。2021年4月よりノインに入社し、広告商品開発などを務める。現在は広告事業の部長としてマネジメントに従事。

白根 由麻

博報堂 TEKO/キャリジョ研/博報堂DYベンチャーズ
2010年博報堂入社。アクティベーションプラナーとして、飲料、食品、化粧品、アパレル、自動車、電化製品、商業施設など幅広く担当。現在は「博報堂キャリジョ研」のメンバーとして女性の社会課題の解決に向けた調査や情報発信、プロジェクト業務を担う。2022年10月より博報堂DYベンチャーズにてキャピタリストとして投資業務にも従事。


信川 絵里

博報堂DXS局/キャリジョ研
2016年博報堂入社。飲料・食品・トイレタリーなど諸分野での戦略立案、商品開発、コミュニケーション設計に従事したのち、マーケティングソリューション開発に携わる。また「博報堂キャリジョ研」のメンバーとして働く女性の生態やインサイトを研究している。


「KOL至上主義」は、すでにコミュニケーショントレンドではない

博報堂キャリジョ研・白根:私たちキャリジョ研は、マーケティングコミュニケーションの領域で、働く女性たちがどんなインサイトを持っているのか、どういう情報行動をしているのかなど、長年にわたって研究してまいりました。働く女性は美容感度が高い方も多いので、美容業界は商材としても注目している領域です。そのため、以前から美容業界のコミュニケーショントレンドについて調査しております。
 
そこで目立っているのが、「KOL(Key Opinion Leader)」の存在です。購買意志決定の際に強い影響力を持つインフルエンサーとして、2015年頃からKOLが登場しました。私の肌感覚では、2019年、2020年あたりから日本でもよく聞かれるようになったのではないかと思います。
 
キャリジョ研では2020年に、多くのKOLへインタビューをしてきました。そのときに私たちは、KOLのことを「誰よりも信頼できる友達以上の存在」と定義しています。
 
友達よりもKOLのほうが頻繁にSNSに情報をアップしますし、質問コーナーを設けているKOLもいて、とても身近な存在になっているのではないかと考えています。KOLは、持っている知識や情報を活用して、ファンに対してコミュニケーションを取る。一方で、ファンは「KOLの誰が言ったか」を重要視して、消費行動の意思決定をするという流れができていました。

博報堂キャリジョ研・白根:KOLのお二方にインタビューをさせていただく機会があったのですが、「私個人を人として好きになってもらいたい」という発言が印象的でした。「コスメの紹介もするけれど、旦那を登場させたり、趣味のゲームの話をしたりして、自分の人となりにファンをつけるんです」とおっしゃっていました。つまり、「こんな私」が紹介するものだから買ってもいいと思ってもらう。それがコミュニケーションの仕方だと言っていたのが、ちょうど2〜3年前です。
 
もう1人の方は企業からのPR案件を受ける際に、「『この化粧品成分を書いてほしい』という依頼があるが、成分の話がメインになると、『私でなくてもいいのでは?』と感じる」とお話ししていました。化粧品の成分を伝えるより、自分だからこそできる表現方法で商品を気になってもらうことが大切だ、と。どういうふうに発信すれば、自分自身にファンが付き、おすすめするアイテムに興味を持ってくれるのか。KOLは、分析のもと、戦略的に自分がどう見えるかまで計算しながら情報を出していたことがわかりました。
 
私も信川さんも、KOL至上主義がトレンドだと思っていたのですが、NOINの渡部さんと竹谷さんとお話ししたところ、「2023年のコミュニケーショントレンドは、もう違うよ」とご指摘いただきまして。「えー! どうしよう!」と、頭をガーンと殴られたような気持ちになりました(笑)。そこで、本日はこのKOL市場に大きな変化が訪れているということで、お話を伺っていきたいと思います。

「機能的価値をいかに伝えられるか」。その鍵を握るインフルエンサー「かずのすけ」さんとは?

博報堂キャリジョ研・白根:事前に打ち合わせしていく中で、どうやら「かずのすけ」さんという方が今後の美容業界のトレンドを語る上でキーとなる存在ということでした。まず「かずのすけ」さんとは、どんな方なのでしょうか?

NOIN・竹谷:「かずのすけ」さんは、美容業界で化粧品に含まれる成分を語れる化学に強いクリエイターとして著名な方です。現在は、「情緒的価値だけでなく、機能的価値をいかに伝えられるか」が美容業界のSNS界隈の中で重要になっています。この「かずのすけ」さんは、成分系界隈のKOL的立ち位置にいる方です。
 
博報堂キャリジョ研・白根:世間的にも「今『かずのすけ』さんが人気だ、」と話題になっているそうですが、実は私は「そうなんだ」とびっくりした側でした。信川さんは、知っていて日頃からチェックしているんだよね?
 
博報堂キャリジョ研・信川:そうですね。理論的に説明してもらえると安心するのと、男性がスキンケア、ヘアケア、コスメを紹介しているのは新鮮なので、つい見ちゃいます。最近YouTubeで、メーカーの研究職をやっていた方が化粧品成分の説明をする動画が増えてきた印象がありますね。
 
NOIN・竹谷:「かずのすけ」さんに付いている一般消費者のファンがたくさんいるので、「かずのすけ」さんが紹介することで、連動してファンたちがSNSなどで発信し、情報が拡大するという流れになっています。つまり、「かずのすけ」さんだけのパワーではなく、そこに紐付いている消費者、かつSNSで発信力のあるKOCが一斉に動いていくのが「かずのすけ」さんの力だと考えています。

日商データから見えてきた、“誰に言われるか”ではなく“なんて言われるか”の重要性

NOIN・渡部:なぜ「かずのすけ」さんが人気なのか。ここからのお話で理解いただけるかと思うので、まずはKOCについて白根さんから説明をお願いできますか?
 
博報堂キャリジョ研・白根: KOCは、Key Opinion Consumerのことを言います。生活者の立場に立ち、自身も商品やサービスを利用して使い込んでいる。それをSNSで情報発信していく方たちです。レビューサイトなどでも重宝される影響力を持っているといいます。
 KOL同様、中国から出てきた概念です。現状ではフォロワー数はKOLに比べると少なく、1万人前後とも言われています。


NOIN・渡部:NOINは、「sopo」という化粧品のブランドを持っています。全国のファミリーマート1万7,000店舗に、90センチ900ワイドの棚を什器に入れて、2年ほど運用しているコスメブランドです。
 
私たちはファミリーマートから、「sopo」の日商データをいただいています。実は、化粧品業界はブランドが自社で店舗を運営していないと日商データを取れません。なぜなら、化粧品は卸に商品を出荷して、卸からさらに店舗へ出荷する業態がメジャーだからです。主に百貨店ブランド、路面店を持っているブランドに関しては、日商データがおそらく取れると思いますが、それ以外の化粧品メーカーに関しては構造的に取れないのではないかと推察しています。
 
日商データを取れる優遇された環境にある中で、ブランド開始以来何をやっているかというと、SNSやPRでどの施策が日商に影響を与えたのか、デイリーごとにスタンピングをしてデータを取り続けてきました。そのデータから見えた効果をもとに、私たちも化粧品メーカーに施策のご提案をしています。つまり「sopo」で作っていく戦略を、そのまま化粧品メーカーの来年、再来年の戦略に活かせるようアドバイスしながら、プロモーションプランニング、コミュニケーションプランニングを組ませていただいております。

NOIN・渡部:そこで見えてきたのは、芸能人や有名YouTuber、KOLが自発的にまたはPR案件として商品を取り上げてくださるのですが、必ずしもこういった方たちがPOS、要は店頭の売り上げを動かすわけではないことでした。これは、この2年間において感じるようになりました。

あとは、“誰に言われるか”より、“なんて言われるか”のほうがPOSを動かす力があります。先ほどの白根さんのお話に合ったKOLの方のお話と時代が変わってきた印象を持っていまして、これが先ほど触れた、情緒的価値よりも機能的価値のことです。なぜ「かずのすけ」さんを本日ご紹介したのかにも帰結してくるのですが、“なんて言われるか”という伝わり方の価値観が大きく変容した瞬間だったと捉えています。

すでに「KOC」を重視している、中国・アメリカの現状

NOIN・渡部:すでにそれぞれ中国とアメリカで、「KOLからKOCへ」と流れが変わってきた実例があるので、簡単にご紹介したいと思います。ちなみに、日本は化粧品の市場規模が小売ベースで4.5兆円と言われていて、世界第3位です。第2位が中国で7.5兆円、第1位がアメリカで8.5兆円。マーケティングコミュニケーションの実践は、中国のEC化率がとても高くデジタルネイティブが多いので、最初に中国が走って、次にアメリカ、その次に日本に落ちてくるのが化粧品業界の流れです。
 
中国で大人気のとある化粧品ブランドは、数年前から「KOLからKOCへ」シフトチェンジをしてきています。KOLはブランドスポンサードが増えている中で、消費者が気づき、信頼性が薄れてきているのではという見立てがあります。
 一方で、KOCによる自発的な投稿は、公平な目線での商品レビューを提供しています。ですので、認知を広げるのはKOLを通したPR案件などかもしれませんが、それを通して情報に触れて自ら動くKOCの言動がより共感されやすいということだと考えています。
 
数年前までアメリカは、YouTuberや美容系のセレブリティがどんどんブランドを作り、新しい領域としてTikTokerが注目されていましたが、あまり上手くいかなかったと聞いています。KOLの一本足打法ではなく、そこからさらにどれだけの信頼感のバックグラウンドを用意できるのか、ということが重要になってきている事例だと考えています。
 
(後編に続く。後編では、「最新コミュニケーショントレンドを活用したNOINの施策」についてお届けします。)
 
企画=博報堂DYベンチャーズ・博報堂DYホールディングス戦略投資推進室
(執筆=矢内あや 編集=モリヤワオン/ノオト)
※本記事は2023/2/21に博報堂DYベンチャーズが開催したオンラインイベントの内容をまとめたものです


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