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ニーズの変化を捉えられない店

そろそろ髪の毛を切りたい。
そう思う長さになってきた。

妻からは今ぐらいがいい感じだと
言われるのだが、
私的にはこの長さを超えると
ダメだというラインがあり、
今まさにそのライン上ぎりぎりなのである。

そんな風に思っていると
ちょうど帰宅する電車の乗り継ぎに
少し時間ができる事がわかった。

「これは天が私に髪の毛を切れと
言っているのではないか」

そんな風に解釈しながら
意気揚々と駅からすぐの理容室に
入ろうとすると、
レジの前にこんな張り紙があった。

「交通系ICでの支払いができなくなりました」

別に何てことないように思われるかもしれないが、
私はこの張り紙を見てすぐに踵を返してしまった。

なぜなら、現金の手持ちがほとんどなかったからである。

私は結婚してから小遣い制になったのだが、
一般的に見れば極めて少ない小遣いで
やりくりをしている。

とは言え、別に外に飲みに行く機会など
めったにないし、
部下や後輩におごるような機会もない。

仮にあったとしてもそのような場所では
クレジットカードを使ってしまうので
あまり小遣いを使う機会がないのだ。

なので2か月前から小遣いをもらわず
財布に入っている極めて少ない現金だけで
何とかやりくりをしていた。

いつも行く理容室は交通系ICで
支払いができたので、
私は特に小遣いを使うことなく
精算ができたのに、
突然それができなくなったのである。

そもそも小遣いとは何をするためのお金かという
議論になってしまうが、
髪の毛を切ることは身だしなみを整えることなので
私的には小遣いから出すべきではないと思っている。

なので仮に自分の財布に十分な現金があったとして
現金で支払いをしたとしても
妻にその分のお金をもらうことになるのだが、
妻はそのような時いつも面倒そうな顔をする。

まさに経理部が仮払いで小口現金を出すときに
するのと同じリアクションである。

キャッシュレスなら勝手に記録に残るし
妻に精算をしてもらう必要もない。

にもかかわらず現金払いのみになると
そんな面倒な事が付きまとってしまう。

それが私はたまらなく嫌なので、
結果として踵を返してしまったのだ。

だが、このままでは私は髪の毛を切ることが
できなくなってしまう。

ビジネスマンではロン毛は許されない。

キャップを前後反対にかぶって
家族から「あんちゃん、小雪はさ」と言われるように
なるのは私にはハードルが高すぎる。

そこで、他にこの時間を活かして
髪の毛を切れる店で、
かつキャッシュレス決済が可能な店は
どこがあるかをGoogle先生に尋ねることにした。

すると、大手のチェーンの店が
ここから近くにあることがわかった。

個人店なら怪しいが、さすがチェーンである。
キャッシュレス決済は大抵の種類が網羅されている。

早速私はその店に向かうことにした。

初めて行く店なのでカットをどのように
依頼しようかと思いながら歩いていると、
その店の外で待つ人がいるのが遠目で見えた。

夕方だというのに中は顧客で満席であった。

先ほど交通系ICの支払いを止めた店は
結構ガラガラだったのに、
こちらは満席状態で待ちが出ている。

もちろんカットやサービスの質の違いが
この結果に表れている可能性もないわけではないが、
両者ともにそもそも廉価な店なので
カットの質を劇的に求める人は来店しないだろう。

そう思うと、この違いは店が持つブランド名と
キャッシュレス会計の有無だということになる。

恐らく来店している人の8割はビジネスマン。
もしかすると多くの顧客が私と同じように
キャッシュレス会計でないと面倒だと
感じているのではないだろうか。

リクルートが出しているAirペイという
キャッシュレス会計のシステムのCMが
時折流れているが、あのCMでは
「この店キャッシュレスで支払いできますか?」
という問いかけに対して
「現金のみなんです」と店主が回答すると
顧客は驚くような速さで
「じゃ、いいです」と踵を返してしまう。

最初あのCMを見た時には
「こんなことはないだろう」と
思っていたのだが、
実際私はこのCMの顧客と同じように
キャッシュレス決済ができないことで
店から出てきてしまった。

そして満席になっているキャッシュレス対応の
理容室を見て、
まさにあのCM通りになっていると私は思った。

店側からすれば現金払いのみのほうが
キャッシュフローも確実だし、
キャッシュレス会計を導入するための手数料も
支払わなくていいというメリットがあるのは
百も承知している。

だが、市場のニーズは明らかにキャッシュレスに
向かっているのである。

この変化に気付かず、対応できない企業や店は
「何だか最近売り上げが減ってきたな」と
茹でガエル状態になってしまうのではないだろうか。

結局、この日は乗り換えの時間に間に合わないので
髪の毛を切ることを断念した私であるが、
この土日で何とかカットしたいと思う。

たまには地元で髪の毛を切るのも悪くないと
思いながらも、
田舎町ではキャッシュレスの導入が遅いのも事実。
しかも、店に入るまでキャッシュレス対応かどうかは
わからないというおまけつき。

とりあえず開店時間に思い当たる店に
対応しているか電話をして聞いてみようと思う。

キャッシュレスは便利な機能のはずなのに
なんだか逆に面倒になっているのは
実に本末転倒な気がする。

と、ここまで書いて気が付いた。

私が妻に小遣いをもらい、そしてそこから支払えば
何の問題もないのではないか。

実は物事を面倒にしているのは
私自身であることに気が付いた
土曜日の早朝であった。

ちなみに少し前に息子をカットに
連れて行った際に、
今の私のような髪型にしたいというので
私がいつも理容室で言うオーダーを
店主に伝えた。

ところが、出来上がった髪型は
明らかなスポーツ刈りで私の髪型とは
全く異なるものであった。

同じオーダーの仕方をしても
こんなにも解釈が変わるのは
実に面白いと思いながら
気に入らない髪型にテンションを下げる息子と
歩いて帰ったのが印象的である。

今回は私がテンションを下げないように
気を付けようと思う。


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