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ものの意味を考えるというSDGs

最近あまりお目にかからなくなったものは
色々ある。

例えば、ガラケーはもう滅多に見なくなったし、
ダブルのスーツを着た人も見なくなった。

この世は諸行無常。
物事には流行り廃りがあるので
常に生まれるものと廃れるものが
入れ替わるのは仕方がない。

だが、その必要さ故に細々と残るものも
必ず存在している。

そんな一つがテーブルクロスである。

高級なレストランや結婚式の会場でしか
見ることはないが、
テーブルクロスがないとなんとなく
雰囲気が出ないので
いまだに根強く使われている。

だが、このテーブルクロスは一体
何のために使われているかご存知だろうか。

高級なレストランや結婚式会場なので
使われている高級なテーブルを汚れから
守るためだと考える人がほとんどであろう。

テーブルクロスと似たものとして
私達はランチョンマットを使うことがあり、
これは学校の給食では毎日使った記憶がある。

そして、間違いなくこのランチョンマットは
テーブルを汚れから守ることが目的である。

学校では同じ机で勉強をすることもあれば
食事もするので、
食事で生じた汚れが机に付いてしまうと
教科書やノートを汚してしまいかねないからである。

なので、ランチョンマットに使われる素材の多くは
普通の生地ではない。

片面に軟質塩ビ(透明なフィルム)を貼り合わせた
いわゆるラミネート生地が使われたり、
一見普通の生地に撥水加工を施した生地などが
使われることが多い

確かに給食で使うランチョンマットで
簡単にシミになるような素材を使っていては
毎日洗濯が大変になってしまう。

ラミネート生地や撥水生地ならば
普通に洗濯をするだけで簡単に汚れを落とすことが
できるであろう。

そんなランチョンマットと同じように
実は世の中にあるテーブルクロスの多くは
撥水加工が施されている。

もし次にテーブルクロスにお目にかかる機会があれば、
ぜひその上にコップの水を少量かけてみてほしい。

きっと水が球状に弾くはずである。

かなり以前にこの話を聞いて以来、
私はテーブルクロスが使われているシチュエーションに
遭遇する度にこの撥水確認をしてきたが、
ほぼ間違いなく生地は綺麗に水を弾いてきた。

なので、私もテーブルクロスとは
ランチョンマットと同じように
テーブルを汚れから保護するためのもので、
テーブルクロス自体も汚れがつきにくいように
工夫されているものだと思っていた。

ところが、先日とある織物の加工業者の社長Mさんと
お話をしていると、
突然テーブルクロスの話題になった。

Mさんの会社が製造されている織物は
一般的にかなりラグジュアリーな環境で
使われるものなので、
テーブルクロスも似たようなシチュエーションで
使われるものとしてよくご覧になられるそうである。

その話の冒頭でMさんは私に
「テーブルクロスは何のために使われるか知ってるか?」
と質問をされた。

私はずっと自分が考えてきたテーブル保護説を
Mさんに回答したのだが、
そこでMさんは少し嬉しそうに笑い、
それは間違いだと言った。

テーブルクロスは食事をする顧客の服が
テーブルに置かれた食べ物によって
汚れないようにするために使われるものだと
いうのである。

つまり、テーブルではなく顧客の服を
汚れから守るためのものだというのだ。

例えば、料理に使われていたソースが
テーブルの上にこぼれたとする。

そして、その上に腕を置くと
服の腕の部分に汚れが付くことになってしまう。

確かにテーブルクロスが敷かれているような場所に
行くときにはラフな服装ではなく
大抵が一定以上のドレスコードが設けられている
環境であろう。

そんないい服の汚れを防ぐためにはテーブルクロスは
本来速やかに汚れを吸収しなくてはならない。

だが、先ほども書いたように巷にあるテーブルクロスの
多くは撥水加工がされている。

これでは本来の目的である顧客の服の汚れを
防ぐことができない。

つまり、私達が見ているものはテーブルクロスではなく、
テーブルクロス風のランチョンマットなのだ。

Mさんは繊維加工に長く携わられてきて、
日本の繊維産業が衰退していく姿を目の当たりに
されてきたそうであるが、
その衰退は消費者が安い海外製に流れていっただけではなく、
多くの人がそのものが持つ本当の意味を
考えなくなったことが理由だと言う。

スーツにしても、ネクタイにしても
突き詰めてみればそれらの形や素材には
必ず意味があるものなのだ。

それを考えてみると、
決して安いまがいものを選べない理由に
なるはずなのに
多くの人がそれを考えず安いものに流れてしまう。

それが大きな問題だと仰っていた。

ファストファッションで大量の洋服が製造・廃棄され、
それが今SDGsという大義名分のもとで
見直されようとしているが、
これも本来服が持つ意味や目的を考えれば
もっと服の値段は上がるはずだし、
嫌でも大切に使うようになるものなのである。

Mさん曰く、本当に高級な店に行くと、
そこで使われているテーブルクロスは決して
撥水などされていないらしい。

ある意味、私達がテーブルクロスの本当の価値を
考えなくなったのは、
私達が着ている服の価値が低くなっているからだと
言えなくもない。

少しずつ大量消費の流れから本当にいいものを
大事に使う流れに戻りつつあるが、
今一度自分が着る服の価値を見直すときが
来ているのではないかと感じた話であった。

ちなみにテーブルクロスと大抵セットで置かれている
ナプキンの使い方にいつも悩むのは
私だけではないだろう。

どのようにかけるのが正解で、
離席する時にはどのように置くのがマナーなのか
悩ましい。

モノの本当の価値を意識するには
簡単なテーブルマナーも知る必要が
あるらしい。



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