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【有償ストック・オプション】資金調達が原因でストック・オプションが取消に? 株式会社SHIFTの極めて珍しい事例

こんにちは、大門(だいもん)です。

今回は、2020年12月25日に東証一部上場の株式会社SHIFT(以下、SHIFT社)が発行した有償ストック・オプションが「発行取消」になった事例を扱っていきたいと思います。

極めて珍しい事例でありつつも、筋が通るロジックが内在していると思われる案件です。

(発行の適時開示はこちら、取消の適時開示はこちら

SHIFT社のストック・オプションの概要

割当対象者:社内役職員4名、および外部協力者1名

発行価額総額:69,090,000円(行使価額総額+SO発行価額総額)

行使条件:2023年8月期または2024年8月期のいずれかの事業年度において、EBITDAが6,000百万円を超過していた場合、行使可能

評価機関:株式会社プルータス・コンサルティング

論点整理と考察

今回取消になった理由は、「有価証券届出書の提出がなかったため」とされていますが、なぜ有価証券届出書の提出が必要だったか、整理していきます。

まず、有価証券届出書の提出は「発行価額総額が1億円以上かつ社外に対して募集」を行う場合に義務付けられます。

付与対象者が社内のみの場合は該当せず、社外が含まれる(100%子会社以外の子会社の役職員を含む)場合は該当するのですが、今回のSHIFT社の場合は、社外協力者も対象になるため、上記に該当します。

ただ、発行価額総額は6,990万円、つまり1億円条件にはヒットしていませんので、有価証券「通知書」の提出で済まされるものと、通常であれば解釈されます。(EDINETに臨時報告書の提出がなかったため、恐らく同社も同様の解釈をしたものと思われます。)

では、なぜ有価証券届出書が必要に?

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(同社の適時開示より)

実は、1億円条件には直近1年間に募集した有価証券の発行価額が通算される「通算規定」なるものが存在し、2020年10月22日に実施した100億円を超えるエクイティ・ファイナンスと通算されたために、1億円条件を突破し、有価証券届出書の提出義務が発生したものと思われます。

同社が行なったエクイティ・ファイナンスは、ABB(アクセラレイテッド・ブック・ビルディング)という特殊な資金調達法で、端的に申しますと海外市場に対して、即日or数日の短い期間でブック・ビルディングを行う、というものです。

通常、上場企業が1億円を超えるエクイティ・ファイナンスを行う場合は、問答無用で有価証券届出書の提出義務が発生しますが、ABBは海外投資家に対して募集を行うため、国内ではなく海外で書類の提出義務が発生する形態となります。

従って、10月22日時点では有価証券届出書の提出はされていないものの、実際には通算規定の対象となっており、12月25日にSOを発行したことで義務が顕在化したことになり、にも関わらず有価証券「通知書」の提出をしたことが、今回の発行取消の原因となったと考察できます。

まとめ

このようにストック・オプションの発行は資金調達のタイミングと密接な連関性を持っているため、SO発行に際しては、SOだけではなく資金調達にも精通した専門会社に依頼することを推奨致します。

他にもストック・オプションにまつわる気になることがございましたら、下記よりお問い合わせください。



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