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真の多様性の追求


#DIAMONDハーバードビジネスレビュー

米国証券取引委員会(SEC)は、本年10月に新たな上場ルールとして、すべての上場企業に取締役会の多様性に関する情報開示を義務づけた

詳細ルールを見ると、多様性に関する情報開示に加えて、少なくとも二名の多様性のある取締役(「性自認が女性の人が最低1人と、人種的マイノリティもしくは性自認がLGBTQ+の人が最低1人」)がいない場合の説明責任("Have or Explain")を求めている。

実施スケジュールとして、多様性のマトリクスの発表が2022年8月8日(あるいは2022年の委任状届け出日のどちらか遅い方)、一人しか多様性のある取締役がいない場合の説明を2023年8月7日まで、さらに二人しか多様性のある取締役がいない場合の説明を2025年8月6日まで(小規模のSmall Capital Marketの場合は2026年8月6日まで)に求めている。

つまり4年以内(小規模企業は5年以内)に2名の多様性のある取締役を持つか持てない場合の説明責任を求めているわけだ。

本HBRの記事ではこの義務化を時代の流れとして歓迎すると共に、形式的な多様性(トークニズム、形式主義・建前主義、トークン(目につきやすいもの)すなわち「珍しい存在」であるがゆえに、見せもの的な立場に置かれさまざまなプレッシャーに遭遇すること)に陥いる危険性を指摘した上で、どのように真の多様性を実現すべきかについて具体的な示唆をしている。

1. 多様性を広い視野でとらえる

人材版伊藤レポートでも「知と経験の多様性」の重要性が指摘されている通り、トークニズムに陥らないために、多様性を考える際には、スキル、経験、思考様式、関心、価値観の多様性を考慮に入れ、多様性そのものを高い能力に転換することを考える。

私は7月の末に某損害保険会社の社長直轄組織であるアドバイザリカウンシルでインクルージョン&ダイバーシティについての見解を求められた。その際にも「知と経験の多様性」の重要性を指摘、形式的な多様性を測定するKPIと共に新たなKPIの重要性を提唱した。

例えば仏総合建材メーカーのサンゴバンは、多様性インデックスとしてその上級幹部に求める多様性の定義として「フランス人以外か、サンゴバンで二つ以上の国を経験しているか、少なくとも三つ以上の異なる部門を経験しているか、12年以上サンゴバン社外経験を持っているか、女性であること」とし、その比率を90%以上にすることを目指している。

“Keep a diversity index always above 90%”.
The definition of their diversity index is “the proportion of the Group’s senior executives satisfying at least one of the three following diversity characteristics: being non-French, having diverse professional experiences (having worked at Saint-Gobain in two countries different from the country of origin or at least in three different sectors, or having an experience of more than 12 years outside the Saint-Gobain Group), being a woman ”.

日本企業で、日本人以外の比率を上げようと考えるとハードルが高いが、経験のダイバーシティと考えると、海外駐在経験やキャリア採用、そして日本企業が得意とする社内他部門経験を組み合わせると、女性や障害者といったコンプライアンスを目指す以上の多様性を志向することを強く社外のステイクホルダーに印象づけることができるだろう。

2. 既存のネットワーク以外の目を向ける

社外取締役をサーチする際に、ヘッドハンターに依存するだけでは無く、既存の取締役のネットワークを活用することはよく行われているだろうが、それでは自分たちと似たような特徴や経験の持ち主を探す可能性が高いだろう。

実際私の経験でも、アカデミック分野での社外取締役が同じバックグラウンドの社外取締役候補者に難色を示したり、金融機関出身の社外取締役が出身母体の先輩を推薦したりするのを目の当たりにした。

本記事では米国では一般的な多様性の拡大を支援する専門組織や黒人・先住民・有色人種(BIPOC)の人たちが所有・運営している専門の人材会社とのコンタクトを推薦しているが、今の日本でこの手の組織はまだまだ未成熟だ。

今の時点では、指名委員会事務局がその持てる限りのネットワークを駆使して開拓する以外には方法が無いのかもしれない。むしろそのような専門組織やブティック人材会社を創立することはビジネスチャンスとして大きいとも言えるのではないか。

3. 真のコミットメントの強化

形式的な多様性のみ追求すると、取締役メンバー間の思想や哲学に相違があり、企業が求めるパーパスを実現するためのコミットメントが一枚岩では行かなくなることもあろう。

多様なステイクホルダーが監視する中、企業としてのコミットメントのメッキが剝がれてしまえば、企業の信用や名声を失いかねない。

取締役メンバーは相互にコミュニケーションを深めて、「自社の意図と行動の間に齟齬が生じていないかどうか、齟齬がある場合は何が原因なのかを検討すべき」であり、そのための統治機能も組み込む必要があるだろう。

なお、今後企業は非財務情報開示の要請に応えて行かなければならないが、人事部門はその際にどんな情報を開示するべきか、を考えるのでは無く、まずは経営戦略とアラインメントした人材戦略を立案し、その実効性を測定できる指標は何であるのか、という順番で考えるべきだ。形式的な指標の開示に終始し、そこに何の人材戦略をもステイクホルダーが見いだせないようなら、そもそも非財務情報開示の中で人事関連データを開示する意味は無い。

(本記事の内容についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。取締役会の多様性、非財務情報の開示からダイバーシティやインクルージョン活動の企業組織での進め方、インクルーシブリーダーシップや無意識バイアスのトレーニングについてお手伝いいたします。)

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