CHI2024 参加を振り返って


筆者: 荒川 (カーネギーメロン大学)

2024/05/13 - 05/16 にかけてホノルルで開催された ACM CHI2024 に参加してきた。ACM CHI は ヒューマンコンピュータインタラクション (HCI) 分野の最大の国際会議であり、数千人の研究者が集まった。ヒューマンインタラクションから多くの刺激をもらえたので、忘れないうちに書いてみる。


トレンドは AI

Opening Keynote は近年の AI の進化とそれへの警鐘となるアジェンダの提示であった。個別の論文発表もAI 関連のものが多数を占めていた。Daniel Buschek 先生が AI 関連の研究に絞ったリストをまとめてくれている (Medium記事)。特に Late-Breaking Work のポスターセッションは LLM が目白押しだった印象。Creativity Task や Chatbot などのドメインに LLM を応用したというものがよくみられた。システム開発が多い一方、LLM 特有の信頼性やリスクについて定性的な議論も活発であった。

HCIとしての新しいパラダイム

暦本先生がダイレクトマニピュレーションの次の時代へと書かれたこの記事はとても示唆深い。

上記の記事で議論されているような indirect interface によって人が同時に影響を及ぼせる範囲がグッと広がるのは大変魅力的だ。特に NLP の分野では Agent 研究が活発であり、そこと HCI が接続するのは時間の問題であると思う。私個人としてはそのようなインターフェースの作成時には AI の不完全性をどう扱うかが鍵になると考えて研究を行なっている。AI への入力の不完全性 (例えば実世界理解のためのセンシングのエラー)や AI そのものの不完全性 (例えばハルシネーション) が連鎖した時に、いかにユーザにとって「使い続けたい」と思うインタラクションをデザインできるかが総合格闘技としてのHCI 研究者の腕の見せ所である。(このテーマ自体は2019年の Microsoft の Human-AI Interaction のガイドラインを切り口に分野で活発に議論されてきているが、発展を続ける技術に合わせてアップデートが必要であると感じる。)

稲見先生は身体性にヒントがあると考えていてこちらもとても示唆深い。

人の認知プロセスへの理解と設計も重要である。我々も認知科学や行動変容の知見に基づいて、「AI が不完全であっても効果をもたらす介入システム」の研究を続けてきた。

引き続きこのパラダイムに対して貢献できる研究を続けていきたい。

CHI に Shared Goal は必要か

ちょうど現在 X (Twitter) で何名かの研究者が言及をしているように、HCI という分野はその特異性のためメタ的な議論はしばしば起きる。それはコミュニティにとって健全なことだと思う。よく話題に上がるテーマの一つは CHI (もしくはそのサブコミュニティ) に Shared Goal は必要かというものだ。例えば近接する機械学習やハプティクスのようなコミュニティでは大きな達成目標、すなわち山がありそれを研究者達がさまざまに登っているように感じる。

一方で HCI は、個々の研究者が独自のビジョン (=山) を持つことが比較的強く求められていると感じる。 これは最近、先輩方のアカデミアのジョブトークを沢山観た私の感想ではあるが、常にオリジナルな山が造られていることはコミュニティとして特異であると感じ、今回の CHI では何人かの研究者と議論させてもらった。

私の暫定解としては、CHI は interdisciplinary 分野として他のコミュニティへのメタ的な立場もあるため、常に技術の未来を考え、それを議論の場に持ってくることがコア価値である。そのため個人が新しい山を次々と造る傾向は問題ではない (=Shared Goal は不要である)が、そのアウトカムが他の分野と接続しきれていないことが課題感としてある※はずである。そのためコミュニティ間のインタラクションを増やすことが理想であり、例えば近年の ML 会議でみられる HCI 色の強い workshop は良い例である

※ これは Xiang Anthony Chen 先生の「HCI 論文はHCI 論文によく引用される」という今年の alt.chi 論文によっても示唆されている。HCI Papers Cite HCI Papers, Increasingly So

CHI を楽しむ

ここからは少し毛色が変わり、学会を楽しく過ごそう!というテーマで書いてみる。まだ CHI に入ってすぐの人たちに参考になればと思う。

CHI に参加するのは今回が4回目であった。この超大規模な学会は、人それぞれの過ごし方があるため、一概にこの過ごし方がベスト!とは言えないが個人的には以下を意識している。 自分も元々は CMU の最初の授業で学会の過ごし方をならったり、以下の Anthony 先生のスレッドを参考にしたりしながら徐々に慣れてきたものである。

体力について

体力が一番大事である。自分が特に意識しているのは以下。

・健康第一でこまめに手洗いうがい、食事はしっかり食べる、睡眠も可能な限り取る。
・会場の近くにホテルを取る、必要であれば休憩/仮眠を取る。
・身軽に動く (自分はPCは持たない派)。
・セッションにでないと、ノート取らないと、というプレッシャーを持たない。

ネットワーキングについて

学会で一番大事なことはネットワーキングであると思うので、そちらについても言及しておく。全て個人的なものなので、鵜呑みにせずぜひつまみ食いしてもらえればと思う。ぜひ他にも良い tips があれば共有してほしい。

まず前提として研究者を知ることは大事。学会での会話は「誰々がどうした」みたいな会話が多いので、人の関係性を知らないとついていけなくなる。普段から研究者に意識しながら沢山研究に触れておくと良い。

次に、ネットワーキングを考える際は Mark Granovetter 先生の weak tie とstrong tie などを参考にしながら誰とどういうネットワークを作りにいくのかをぼんやりと考えておくと良い。ここではざっくりと浅いネットワーク (特に何か起こるわけではないけど、顔と名前と所属とキーワードが結びついた状態) と深いネットワーク (将来訪問したり、共同研究をしたり、ひいては友人になったりする状態) にわけて書く。

浅いネットワーキング

・清潔感。第一印象大事。自分はあえて少し派手目の服を着るようにしている。騒がしい環境での会話が多いので口臭は注意。
・(英語に不安なら)自己紹介エレベータピッチは用意しておく。余裕があれば複数バージョン作って徐々に相手に合わせて内容を変えてみると良い。
・ライブデモや研究の画像/動画をすぐ出せるようにしておく。写真アプリでそれ用のフォルダを作っておくともたつかない。QRコード付きの名刺とかは (個人的にはやっていないがもらった側としては) 効果はあると思う。
・セッションに参加するなら質問する。もちろん名前と所属は最初にゆっくりはっきりと述べる。
・夜のパーティは勢いで楽しむ。とりあえず相手の顔と名前と所属を覚えて翌日以降に繋げる。知り合いを活用して輪を広げられると良い。

深いネットワーキング

・ワークショップ / ランチ / ディナーイベントは深いネットワークを築くチャンスなので、毎日何かないか情報に敏感になる。目当ての人がいるなら席どりは大事、shyにならない。相手と面白い話ができるかは慣れなので、数をこなす。
・特に話したい人はリストアップしておいて、何を話すかも可能な限り考えておく。学会はスケジュールが流動的なので、個別に会う約束を取り付けるのはなかなか難しい。休憩時間で探したり、その人のグループの発表があるセッションに追っかけにいったりと戦略的に動く。
・学生で仲良くなれそうなバイブスの人たちがいたらその人たちと遊ぶ (観光とか) 時間があると良い。学会の前日だったり、最終日の夜などはチャンス。友達がいると学会はもちろん、研究人生が楽しくなる。
・失敗してもめげない。すぐまたチャンスがある。

最後に

来年の CHI 2025 は横浜で開催されるのがとても楽しみである。自分も初めて Paper Chair Assistant として運営に関わることになった。長い歴史を持つこのコミュニティにもう少し深入りして、中を覗いてみたいと思う。

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