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高業績を挙げ続けるトップマネジメントチームのデザイン手法

経営者が思い描いたほど企業が成長しない理由のひとつが、トップマネジメントチーム(以下TMチーム)が機能していないことです。中小企業の多くは、CxO人材がいないもしくは力不足であったり、経営者が力を振り絞って孤軍奮闘しているのが実情であり、チームとしてのケイパビリティを発揮できていません。代替人材がいない現実や、経営者自身が選任した手前、自分の人を見る目が節穴であるとは口が裂けても言えないので、現在の陣容となっているのでしょう。

しかし、個人の才能と能力で成し遂げることができる成果より、チームワークで叶えられる成果のほうが大きいことは周知の事実です。経営環境が急激かつ大きく変化する現代において、お互いの才能を補完し合える者同士が、共通の目標を掲げて達成活動に注力することが、最高のパフォーマンスを発揮することができるでしょう。この認識に基づいて、高業績を挙げ続けるTMチームのデザイン手法について考えをまとめます。


TMチームはなぜ重要か

コンセプトよりチームの質と関係性が大事

優秀な投資家たちがスタートアップへの投資を検討する際、実に9割がビジネスコンセプトそのものより経営チームの人材の質と関係性を重視しています。「異能の人材で構成されたチームは才能溢れる個人を凌駕する」という知見を、過去何件もの投資先で目の当たりにしたことから導出した結論なのでしょう。

ある調査では、互いの強みを活かしてコラボレーションできる経営チームは、業界の平均的な企業より高業績をあげる確率が2倍弱であることも確認されており、チームの質と関係性がパフォーマンスにいかに大きな影響を及ぼすのかがわかります。

実は機能していないTMチームがほとんど

しかし、現実に高業績を挙げ続ける経営チームは限られています。なぜなら、優れた異能の持ち主がコラボレートする以上、解決できないパラドックスがあるだけでなく、そもそも経営者とCxO人材との間に事実認識の乖離があるからです。

パラドックスとは、下記のような状態に陥ることを指します。

  • チームであるがゆえの同調圧力 vs 業績創出のための個性の発揮

  • CxOとして目標にコミットできる人 vs 自身でも起業できるだけの人

  • 経営者だけがチーム環境を整えられる vs ライバルに塩を送ることになる

集団であるがゆえに生じる同調圧力と個性の発揮は、そもそも衝突するものであることや、経営者と同じ目線で目標達成にコミットできる人は、個人で活躍できる人でもあるということ、また、CxO人材が成果を出すための環境を整えることができるのは経営者しかいませんが、それをすることは自分を追い落とすライバルに塩を送ることになりかねないリスクがあり、無意識のうちに生存本能が頭をもたげ、フラットなマインドで行うことは難しいのです。

経営者とCxO人材の事実認識の乖離に関しては、経営者は自分自身が選んだCxO人材の資質等に疑問を差し挟むことはしませんし、自分自身がデザインしたチームなのでパフォーマンスを発揮していると思い込んでしまいます。

ある調査では、経営者は自分が編成した経営チームは8割程度のパフォーマンスを発揮していると評価していますが、CxO人材はそう捉えていないことが判明しています。

具体的に言うと、経営チームはよくまとまっていると考えるCHROは6%、戦略は適切であると考えるCxO人材は4割に届かず、事業部間のシナジーを活用できている:3割半ば、実効性に優れたマネジメントが実施されている:3割未満、コラボレーションがより良く機能している時と比べると6割程度のパフォーマンスしか発揮できていないと、CxO人材側は考えているのです。

その他、「経営チームの実効性」「意思決定プロセスの明確さ」「企業全体の方向性の明示」「部門利益より全体利益を優先」というテーマでは中庸程度、「対立意見の調整」では中の下程度のパフォーマンスという評点が出ていますが、経営者はCxO人材より平均1.5ポイント甘くつけていたとのことです。

経営者がこのような実態を知らず、「わがTMチームはよくやっている」などと一人悦に入っているとしたら、悲劇以外のなにものでもないですね。

TMチームに求められるもの

このような問題を解決するためには、「卓越した成果を創出するという信念を共有する優秀な人材同士で強力なチームを編成する」こと以外の選択肢はないでしょう。

経営者が一人でなんとか凌いでこられた時代とは違い、今日の勝者が明日負け犬に成り果ててもおかしくない経営環境で生き残っていくには、優秀な人材がコラボレートして成果を創出できるチーム、一騎当千のメンバーでチームを編成して戦うしかないのです。

経営者が掲げるパーパスがいくら高邁なものであったとしても、チームメンバーに優秀な人材を選任できない場合や、良好なチームワークが実現できなければ、辿り着く先はディストピアでしかないと捉え、柵や妥協で編成された経営チームは即刻再編しなければなりません。

しかし、中小企業のTMチームは、血族や柵に塗れた人材で構成されていることが大半です。彼らが優秀であれば問題はありませんが、CxO人材として具備すべき資質が不十分な場合、優秀人材と首を挿げ替える必要に迫られることになります。

この打ち手は、パーパス実現と業績向上を目指す経営者としては極めて合理的かつ早急に実行すべきことですが、そもそも対象として相応しい人材がいないという現実と、現在のCxO人材の人生を左右することになります。心情的には禁忌に近いものがあり、今更どうにも手を打つことができないとお考えの経営者も多いでしょう。CxO人材の採用が難しい企業にとって、わかっているけど実際にはできないこととして、何もしないという結論になりがちです。

家族や親族の生業として経営する企業や、一代限りで事業承継を考えていない企業を除き、パーパス実現、業績向上、企業成長と事業承継を実現したい経営者は、このハードルを乗り越えていく覚悟と胆力、意思決定と行動が問われます。退場勧告しなければならない相手には、これまでの貢献に相応しい範囲で、生活保障やキャリア・チェンジ支援策を提供して報いることを推奨します。

では、改めてTMチームのケイパビリティを高めることに目を転じます。

TMチームのケイパビリティを高める3つのポイント

要件

高い経営力を発揮するチームには、アラインメント、インタラクション、トランスフォーメーションという3つの要件が高いレベルで備わっています。

アラインメントとは、経営のベクトル(方向性)の向きと幅に対する認識がどの程度揃っているかを示すものであり、目標と目標達成までのクリティカルパス(最短経路)に関して、チームメンバーが全員合意しているか、自分たちのチームは目標達成に資するだけの知見とスキル、ケイパビリティを発揮できると認識できているか、という点を確認します。

インタラクションとは、メンバー間の相互作用のことであり、信頼に基づいて建設的な討議ができる環境が整っているか、チームとして機能するために異能者が補完し合える多様性を持っているか、という点を検証します。

トランスフォーメーションはDXでお馴染みの言葉ですが、ここでは「ゼロから創造する」という意味合いです。現状を一旦脇に置いて、パーパスから逆算してどうあるべきかについて洞察し、コンセプトをまとめ、具体的にデザインすることが求められます。取るべきリスクは取り、過去の成功体験や知見をアンラーニングして今後必要になる知見を新たに学び、インサイトを導出して、成果につなげることに対してどの程度強いコミットメントを持つかについて、考えをまとめます。

業務

経営チームは企業経営の舵取り、つまり下記6つの業務に専念しましょう。

  • PMVV(Purpose, Mission, Vision & Value)の創造

  • コーポレート・ストラテジーのデザイン

  • 全社リソースの配分

  • シナジーの創出

  • 次世代プール人材の育成方針の策定

  • 外部ステークホルダーとのコミュニケーション

6つ以外の業務はすべてなくします。事業部レベルのストラテジー、リソース配分、パフォーマンスレビュー、人事等にまつわる討議や、詳細な施策の立案、討議、単純な情報共有に関しては、事業部に一任し、一切関与しないこととします。こうしたことが、次世代プール人材の育成にもつながると腹を決めて、あくまでも経営機能に専念することを徹底します。

陣容

視点/知識/能力/経験/姿勢の5項目でCxOレベルにフィットする人材でチームを編成します。選任時に留意すべきは、経営者のお気に入り人材であってはならないことです。経営チームとして成果を創出するために選ばれる人材ですから、むしろ経営者にとって耳の痛いことを言う人材ばかりであって然るべきです。TMチームは、各分野のプロフェッショナル同士が業績創出のために鎬を削るチームでなければならず、経営者にとって居心地の良い雰囲気であるわけがない、と覚悟しましょう。

次に人数を決めます。経営機能別にCxOを選任することを考えると、6~10名の範囲で決することを推奨します。6名以下では多様な視点に欠けるために意思決定の質が低下することや、後継者育成に支障が生じる恐れがあること、また10名を超える場合は、生産性の低下や集団思考に陥る可能性があるので、この範囲が妥当であると考えます。

最期に、経営チームのワークスタイルを決めます。推奨するワークスタイルは、ワークショップ&フィールドワーク(WS&FW)です。これは、会社全体としての成果を創出できるフィールドにおいて、新しいワークスタイルでワークショップを実践、そこで得られた学びをフィールドに投入し、その結果を次のワークショップにフィードバックしてさらに改善を進める、というループをアジャイルに回し続けて、成果を創出します。

「学び(WS)」と「実践(FW)」を明確に分離してそれぞれ徹底することで業績のスパイラルアップを実現するというアジャイルなワークスタイルは、従来行われてきたPDCAサイクルに基づくウォーターフォールなワークスタイルとは大きく異なるものですが、成果創出に対して強いコミットメントを持つ優秀なメンバー同士なら、アジャイルなワークスタイルのメリットと、チームワークとコラボレーションの勘所を理解するのにそれほど時間は要しないでしょう。

デザイン手順

1.成功するための3つのポイント

具備すべき資質、権限、補完性の3点に照らして、経営チームメンバーとして相応しい人材を選任します。

資質に関しては、戦略実現に資する知見、専門スキルを特定したうえで、いずれもCxO人材相応のレベルにあることを基準とします。権限に関しては、所有・経営・執行を明確に区分して、経営機能の適正化と強化を実現します。補完性に関しては、メンバー同士が互いの強みを補完できる関係にあり、チーム全体としての強力さを発揮できているかどうかを確認します。

2.現行TMチームのレビュー

TMチームに求められる3要素(アラインメント、インタラクション、トランスフォーメーション)の有効性、ネットワークのカバー領域の広さと深さ、マインドセット、認識・言語・行動の共通度についてレビューします。

3要素の有効性は経営力の源泉であり、課題を特定することは必須です。また、各メンバーのネットワークを統合した時、戦略目標を達成するうえでMECE(モレなくダブリなく)にすべての領域をカバーできているか、できていない場合はどこに穴があるのかを特定します。認識・言語、行動の共通度に関しては、ワンチームとしてコラボレートするうえで不可欠であり、ベクトルの方向やブレ幅の大きさについて確認しましょう。そして、これらのすべての土台となるマインドセットに関しては、未来を切り拓くために求められるマインドセットへのシフトが及ぼすインパクトを予測して、必要な対処を検討します。

3.WS&FWのデザイン

ワークショップのテーマ、セッションの構成、回数、頻度等をデザインし、経営チームのワークプランとしてまとめます。留意点としては、規模は小さくてもできるだけ早い時期に成果が得られるテーマを選定して、新たな経営チームに成功体験を積ませることと、その際に求められる象徴的な認識・言葉・行動をモデル化することです。また、各メンバーの状況に応じてコーチングを提供し、内容、頻度、期間等も決定して支援体制を整えましょう。

4.自省・洞察プロセスの組み込み

CxO人材ともなれば、メンバー同士で指摘し合うまでもなく、自省や洞察によって自らの課題を解決し、強みをさらに伸ばすことができる方々です。WS&FWで忙殺されがちな中でも、こうしたプロセスを予め用意しておくことで、自らの成長にドライブをかけてもらうことができます。

5.次世代プール人材育成へのフィードバック

TMチームの機能状況を常にモニタリングする仕組みを導入、期待通りの成果を創出できていない状況であれば、必要な打ち手を講じます。その際、エグゼクティブ・コーチングを提供して成果を挙げ続けられるよう支援すると同時に、どのようなコーチングが成果に結実したのかをまとめ、次世代プール人材の育成に役立てます。

また、決算時にはケイパビリティ診断の実施を推奨します。同じ顔触れのチームワークで生じやすい集団思考に陥らぬよう、経営チームの通信簿を毎年つけることによって、目標達成プロセスと成果を検証し、自らの能力開発やケイパビリティを強化することが目的です。このプロセスも次世代プール人材の育成計画の一環として位置づけ、CxO人材やプール人材に常に緊張感をもたせ、次世代経営陣や上級管理職の選抜に役立たせましょう。

Appendix

弊所ホームページとブログに関連コンテンツを掲載していますので、お時間に余裕がある時にご参照いただければ幸いに存じます。

Strategy & Management Professional

経営人育成に特化したカリキュラに基づいて、実践を通じて経営力を習得する人的資本開発プログラムです。経営課題解決プロジェクトを発足させ、自らの力で成果を創出していただくので、上級経営職として登用するに値する業績をあげることを使命とします。期待に応えられない場合、人事評定上もマイナスになる修羅場で、経営力のブラッシュアップを実現します。

Human Capital Development for Excellence

優秀人材を育成するための人的資本開発のデザイン手法についてまとめたブログです。下記リンク先のコア人事制度改革(Human Capital Management)と併せてご一読いただけますと、人的資本開発を再考する手蔓を掴んでいただけると思います。

Executive Coaching

経営者の頭の中にある漠とした考えの言語化や明確化をはじめ、自省や洞察の機会を提供する経営者向けコーチングです。CxOにも打ち明けられない孤独な戦いに臨む経営者のために、自身の人生、家族との向き合い方、そして当然経営者としての矜持や克己心、パーパス実現に賭けるモチベーションへのドライブ等、心情に寄り添いながら共に歩みます。

最期までお目通しいただきまして、ありがとうございました。ご質問、疑問点、コメントなどがございましたら、お気軽にお寄せいただければ幸いに存じます。皆様にとってなんらかの手蔓となれば嬉しいです。

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