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MOVIE REVIEW「梅切らぬバカ」

(監督:和島香太郎 主演:加賀まりこ、塚地武雅 2021年/日本)

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加賀まりこ演じる母親と、自閉症のひとり息子、ちゅうさん(塚地武雅)との暮らしを描いた物語。

分単位で時間通りに行動しないと気が済まない、大きな音にはパニックになる、普通の会話は成り立たない。年齢は50歳だし図体も大きいのだけれど、まだ小さな子どものような息子が、かわいくて仕方のない母親。

でも息子は世間からは変な人、怖い存在という扱いを受ける。白い目で見られたり、避けられたり。自閉症の人たちが共同で暮らす施設も、近隣住民からの反発を受けてしまう。

やっぱり「知ること」でしか、自分とは違う世界に生きる人を受け入れることは難しいよなぁと、上映中ずっと考えていた。

スクリーンを通して親子の暮らしぶりを見ている人にとっては、ちゅうさんは怖い人ではないとわかる。でも、彼をまったく知らない人からしたら、何かブツブツ呟きながら歩いている姿や、パニックになって取り乱す姿に恐怖を感じてしまうのも仕方ない。

だけど、自閉症の人がどういう特質を持っているのか、どのように接すればいいのかを経験として知っていれば、見方は全然違うだろう。

作品には、ちゅうさんが一時生活を共にする仲間として自閉症の人が何人も出てくる。急に大声を出すとか、小さな子どもの泣き声に敏感に反応して予測不能な行動をとるとか、それぞれで特質が違っていて、一概に「自閉症の人」として括れない。それもまた、知るべきだと思った。

多様性、多様性と声高に叫ばれ、ジェンダーや人種、目に見えやすい身体的な障害のことが課題にあがりがちだけれど、マイノリティにもいろんな人がいる。教育課程のどこかしらで、そういう人たちと触れ合う機会を持つことができて、当たり前の存在になれば、過剰な偏見が減るのではないか。

ちゅうさん親子は結局、隣人との関係性は良くなるものの、地域住民との関係性は変わらないままで物語が終わる。だけど、全部丸くおさまりました!というオチにならなくて良かった。そんなに現実は甘くない。観客は、きっと、彼らに偏見を持ち続けている地域住民に自分を重ね合わせたはず。そしてきっと何かを考えたはず。それが大事なのだろうなと思った。

梅切らぬバカ 公式サイト https://happinet-phantom.com/umekiranubaka/

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