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素晴らしき哉、推しのいる人生!

はじめに

ある日、Twitterで心理学者のこんなつぶやきを目にした。

「『死にたい』を連呼していた10代の患者さん、最近『推しが尊い』と言い出して希死念慮が吹き飛んだ。このハードで理不尽な世界の中で、〝明日も生きたい“と感じさせてくれる存在なら、それはもはや信仰の域であって、わりと本質を突いている言葉なのかもしれない。ありがとう、彼女の尊い不完全な神様」

誰かのファンになるって、不思議な現象だと思う。恋愛の「好き」という気持ちと、心の拠り所として特定のものを崇める「信仰心」が織り交ざったような感じ。この絶妙な想いを表すのに、「尊い」という言葉はぴったりな気がする。

推しの存在は、日常に彩りを与え、前に進む活力をくれ、迷ったときの道しるべになり、「あぁ、明日も生きていこうか」と思わせてくれる。まったく親しくないどころか、直接話したこともない人である場合がほとんどなのに、推しがいることでどうしてこんな力が生まれるのだろうか。それがすごく気になって、脳科学や心理学の本をいくつか読んでみた。すると、推し(=愛すべき者)がいることによって、脳にさまざまなプラスの刺激が与えられ、私たちは幸せを感じたり、活力をもらったりしていることがわかった。

それどころか、推しのおかげで免疫力が高まって病気をしにくくなったり、寿命が延びたりする可能性もあるという。それってすごいことじゃない?その事実を目の前にして、私は推しへの尊さがさらに増した。カムサハムニダ、推し。素晴らしき哉、推しのいる人生!!!

というわけで、せっかくなので私が読んだ本のなかから、推しの存在が脳科学的、心理学的にどのようにプラスに作用するのかをかいつまんで紹介していきたい。私の推しは某K-POPアイドルなのだけれど(使用写真でバレバレ)、歌手でも、俳優でも、声優でも、お笑い芸人でも、スポーツ選手でも、YouTuberでも、何なら二次元の存在でも、近所のカフェのお兄さんでも、推しは推し。推しがいるすべての人に、このコラムを贈りたい。

※写真はすべて私自身が幸福感を得るために、自己満足で選んだものです。

推しの写真を見るだけで、ポジティブに!

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『「LOVE」って何?脳科学と精神分析から迫る「恋愛」/岩田和弘 著』に、次のような実験結果が紹介されていた。恋人がいる男女に、「恋人の写真」と「単なる知り合いの異性の写真」を見せ、脳の動きを観察するというもの。実験によると、恋人の写真が映し出されたときにだけ、被験者の脳の「腹側被蓋野」と「尾状核」という部位の動きが顕著になったという。この2つの部位は「ドーパミン」の生成と伝達に大きく関わっているのだとか。

『脳内麻薬/中野信子 著』には、「ドーパミンは前頭前野を興奮させ、意欲的にさせる物質」とある。俗に「快楽物質」とも呼ばれており、楽しいことをしているときや目的を達成したとき、褒められたとき、好奇心が沸いているとき、やる気があるとき、美味しいものを食べているとき、セックスで興奮しているときなどに脳内に分泌される。不足すると無気力になったり、パーキンソン病の原因になったりすることもある。

『スマホ脳/アンデシュ・ハンセン 著』には、「ドーパミンの最重要課題は、人間に行動する動機を与えること」とある。また、あるコンサル企業のWEBサイトには、「ポジティブな感情の時、脳がドーパミンやセロトニン物質を出し、脳の学習機能を活性化させ、新しい情報が整理されやすくなる。脳神経細胞が活性化し、創造性が高まるため、複雑な分析や問題解決力を高める」と書かれており、仕事や勉強、クリエイティブな行為をする上でも、ドーパミンは欠かせないもののようだ。

ここから言えることは、人間は好きな人(=推し)の写真を見ただけで、脳内にドーパミンが分泌され、自然とポジティブになれるし、クリエイティブな能力が開花するということ。たまに愛する家族の写真をデスクの上に置いている人がいるが、やる気が出て集中して仕事に取り組めるという点で、それは理にかなったやり方のようだ。私は推しのフォトカードを財布と手帳に入れていて時折眺めるのだけれど、これからはもっと頻繁に取り出してドーパミンを出し、いろんなことにポジティブに立ち向かっていこうと思う。

それにしても、写真に写った姿だけでこんな恩恵をもたらしてくれるのだから、推しのパワーよ、恐るべし。これが動画、さらにはライブ、舞台、握手会だったら、ドーパミン出まくりでポジティブパワーがみなぎってみなぎって仕方がないだろう。推しよ、日々を前向きに生きさせてくれてありがとう。

産んでもないのに母性があふれて、癒される

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推しを見ていて、「あれ、私はこの人のことを産んだのだろうか?」と愛おしくてたまらない気持ちになることはないだろうか。私はしょっちゅうある。これはどういう現象なのか。調べてみたら、驚くことに「母性」なのだという。

『脳科学から見た「祈り」/中野信子 著』には、「大切な誰かを思うとき、心がその人への愛情にあふれるとき、脳内にはオキシトシンが多量に分泌されています」と書かれている。「オキシトシン」は、俗に「母性ホルモン」とも呼ばれ、母親が赤ちゃんの世話をしているときに分泌されるもの。しかし、それだけでなく血のつながらない夫婦や恋人同士のスキンシップ、上司が部下の成長を心から願うようなときにも分泌されるのだとか。それは女性に限らず、男性であっても同様なのだという。

産んでもいないのにあふれてくる母性。これは勘違いではなく、科学的に証明されたものなのだ。「子どもがいない動物に赤ちゃんを預けたら母乳が出た」などという話をテレビで見たことがあるけれど、それも同じことだろう。

この愛おしさの感情を生み出す元となる「オキシトシン」は、脳を活性化し、深い多幸感をもたらす。『「LOVE」って何?脳科学と精神分析から迫る「恋愛」/岩田和弘 著』によると、「オキシトシン」は脳の「扁桃体」という部位の活動を著しく低下させるのだとか。それによって何が引き起こされるかというと、「すごく怖かった、不安に感じた、悲しかった、あるいは悔しい思いをした出来事を思い出したり、それらが頭に浮かんだりすることが少なくなる」。子どもの寝顔を見ると嫌なことがいっきに吹き飛んでしまうというのが、これにあたる。

また、「オキシトシン」は、免疫力を高める効果も実証されているそうだ。「National Library of Medicine」に掲載された論文によると、「体内のオキシトシンレベルが高いほど傷の治りや免疫に関わる機能が良好」との研究結果が報告されている。別の論文では「オキシトシンを摂取することでカップルの間の言い争いが少なくなって、ストレス反応も低下する」と書かれており、体の傷も心の傷も「オキシトシン」が癒してくれることがわかる。同様に「オキシトシンによって穏やかに、優しく、愛情深くなる」との記述もあり、「オキシトシン」は自分が癒されるだけでなく、他人を癒す力をも生み出すようだ。

世の中のあらゆる人が誰かを心から愛おしく想い、脳内に「オキシトシン」を分泌したのなら、世界が平和になるのではないかとすら思う。「みんな、どんどん推していこうよ!そして、心穏やかに生きていこうよ!」と叫ばずにはいられない。国連あたりで「NO OSHI , NO PEACE」をスローガンにしたらいいんじゃないだろうか。

ちなみに「オキシトシン」は、肌に触れてスキンシップをしたときに最も多く分泌されるらしい。だから、握手会やハイタッチ会など、推しに直接触れることができる機会は、「オキシトシン」分泌UP間違いなし。早く、こういう催しが再開できる世の中に戻ってほしいと心から願う。

とは言え、直接触れ合わなくとも、心から推しを信じて尊べば、「オキシトシン」効果は発揮される。『オキシトシンがつくる絆社会/ジャスティン・ウヴネース・モベリ 著』にこんな興味深い記述を見つけた。「僧侶や修道女は、極端なオキシトシンの世界に住んでいると言ってもよいでしょう」

例えば、修道女は神という存在を自分の中に内在化して、毎晩聖書を読み、賛美歌を定期的に歌うことで神との関係を生きたものにしており、その関係が前向きな気持ちを維持している。これは家族や愛する人との深い愛情で結ばれた関係性と変わらないものだというわけだ。

毎晩推しの歌を聴き、DVDを見て、インタビューを読み返し……。私たちは日々、修道女と神のような位置づけで推し活動をしているわけで、前述の文章を「オタクは、極端なオキシトシンの世界に住んでいると言ってもよいでしょう」と言い換えたって、何もおかしくないと私は思う。

推しの喜びは私の喜び、推しの悲しみは私の悲しみ

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推しがコンサートで涙を流していたり、賞を受賞して喜びに満ちた笑顔を浮かべていたり、リハーサルやトレーニングで辛そうな表情をしていたり、美味しいものを食べて幸せそうに微笑んでいたりしたら、それを見て自分も同じように泣いたり、笑ったり、辛くなったり、微笑んだりしていることはないだろうか。

この現象には、「ミラーニューロン」という脳の神経細胞が大きく関わっている。「この細胞はその名の通り、まるで自分が鏡であるかのごとく、相手の行動が我が身に起きたかのように発火します。たとえば、相手がケガをして痛みに苦しんでいたなら、それを見ている自分も脳内でミラーニューロンが発火し痛みを共有するのです。これが、脳科学から見た「同苦」だと言えます」(『脳科学から見た「祈り」/中野信子 著』より)。

あくびをしている人を見て自分もあくびをしてしまう、いわゆる「あくびがうつる」現象も「ミラーニューロン」によるものだ。「子は親を映す鏡」とはよく言ったもので、子どもの振る舞いや発言、情緒は親の影響を大きく受けている。不機嫌な親のそばにいれば子は不機嫌になるし、幸せそうな親のそばにいれば子は幸せを感じるのである。長年連れ添った夫婦が似てくるというのも、同様の現象だ。

「ミラーニューロン」は「共感システム」とも呼ばれる。「ミラーニューロン」によって他者と同苦し、その解決に心を砕いて相手が困難を乗り越えたとき、自分にも生きる希望が湧くのだという。「相手と自分はいわば〝脳内で一体化″します。だからこそ、相手が苦しみや悲しみから蘇生したときには、まさに自らの喜びとして感じられるのです」。(同著)。

だから、推しの苦労に満ちた舞台の裏側や、上手くいかないリハーサルシーンなどを見た後に、本番での素晴らしい成功の姿を見ると、「あぁ、私も頑張ろう」と努力する意志や頑張ろうという気力が湧いてくるのだ。推している子が必死に練習をして、デビューをつかみ取るというオーディション番組は、その子の苦労を自分のことのように感じ、そしてデビューを自分のことのように喜べるという点で、この効果が大いに発揮されている。どの時代もオーディション番組が人気な理由はそこにあるのだろう。

一方、推しの笑顔を見て自分も笑顔になることもまた、非常に大きなポジティブ要素だ。『脳内麻薬/中野信子 著』には、次のような研究結果が記されている。被験者を「笑わない」「無理に笑う」「本当に笑う」の3つのグループに分けて、その表情のままストレスがかかるような状況下において心拍数やストレス度合いを測る。その結果、「笑わない」グループと比べて、「無理に笑う」「本当に笑う」グループはストレスのレベルが低く、ネガティブな感情も少なく、さらに「本当に笑う」グループは、ストレス状況下の心拍数も低かったとのこと。

自分で笑顔になるような状況を作ることができなくても、推しが笑っているのを見て「ミラーニューロン」が発火して笑顔になれば、ストレスのレベルが下がる。辛いときに推しの笑顔の映像や写真を見たくなるのは、自己防衛の本能なのかもしれない。「笑う門には福来たる」とはよく言ったもので、誰かの笑顔はそれを見た誰かの笑顔につながっていく。推しの笑顔の力を借りて、自分のまわりの人も笑顔にできたのなら、それはすごくステキなことだ。

『脳を活かす技術/茂木健一郎 著』には、次のように書かれている。「『ミラーニューロン』を活かすためにはどう処すればよいのでしょう?僕がお勧めするのは、楽しそうな振る舞いをしている人の近くにいるということです」。だから、推しを「なりたい自分像」として据えるのは効果的だ。推しの良いところ、学ぶべきところをたくさん見ていくうちに、「ミラーニューロン」によってそれを真似るようになり、自分が変わっていく。「こんな人になりたい」と思わせてくれる推しがいること。それは素晴らしい出会いだと言えるだろう。

推しに泣かされた分だけ、幸せを感じる

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「セロトニン」は、脳内物質の一つで、通称「幸せホルモン」と呼ばれている。『脳内麻薬/中野信子 著』には、「脳内のセロトニン不足は、不安神経症やうつ病の原因になるとされています。一方でヒトが『他人との結びつき』『幸福感』を感じるとき、脳内にはセロトニンが分泌されているのです」と書かれている。

東邦大学医療センター 大森病院臨床検査部のコラムによると、「セロトニンは、脳の大脳皮質という部分に働き、起きている時にスッキリした意識にさせる、朝起きる時に体を活動する状態にさせる、痛みの感覚を抑制させる、抗重力筋に働きかけるなど、様々な働きがあります。セロトニンが少なくなるとこれらの働きがうまくいかなくなり、寝起きが悪くなったり、些細なことで痛みを感じやすくなります。抗重力筋は重力に対して姿勢を保つために働くまぶたや首や背中などの筋肉のことであり、セロトニンが不足すると背中が丸まったり、どんよりとした表情になってしまいます」とのこと。

「セロトニン」が不足すると体の不調を引き起こすばかりでなく、はたから見ても元気がなく、落ち込んでいるというのがわかるような状態に陥ってしまうのだ。

では、どうしたら「セロトニン」の分泌を増やせるのか。それには、規則正しい生活をしたり、太陽を浴びたり、ダンスやジョギングなどのリズム運動をすることが効果的だという。また、「涙を流すことでセロトニンが増えると言われています」(同コラム)。

涙を流してストレスを解消しようという「涙活」をご存知だろうか。セロトニン研究の世界的権威・有田秀穂教授(東邦大学名誉教授・脳生理学者・医師)によると「涙を流すことによって、緊張やストレスに関係する交感神経から脳がリラックスした状態の副交感神経へとスイッチが切り替わります。たくさん涙を流すほど、ストレスが解消し、心の混乱や怒り、敵意も改善する事が研究で分かっています。ストレス解消に効果があるのは、悲しいときや感動したときに流す“情動の涙”。脳科学的にみても『涙活』は、大いにやるべきです」とのこと。

私は辛いときに見る推しの動画リストがある。泣ける系、ほっこりする系など系統はさまざまなのだが、ストレス度合いが高いときは、泣ける系に手を出すことが多い。推しに感動をもらって泣き、スッキリして「いっちょ、また頑張るか」と前に進む。思えばそれは「セロトニン」効果だったのか……と納得がいった。大人になると、泣くことが恥ずかしいと涙を我慢する人が多いけれど、家でDVDを見ながらだったら、恥ずかしくもなんともない。構わずどんどん泣いていこう。

推せば推すほど、寿命が延びる!?

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マラソンなどで長時間走り続けていると、気分が高揚して苦しさを感じなくなる。それを「ランナーズハイ」と言うが、これには脳内快楽物質である「ベータ・エンドルフィン」が大きく関わっているという。「ベータ・エンドルフィン」は、脳が苦痛を感じたときにそれを和らげるために分泌される物質で、『脳内麻薬/中野信子 著』によると、「その作用はモルヒネの6.5倍とされる強力なもの」とのこと。モルヒネ同様、過度に繰り返すと中毒になる。体調が悪いのに走るのをやめない、走るのをやめると禁断症状が出るなど、俗に「ランニング依存症」などと呼ばれる症状を引き起こすこともあるという。

しかし、適度な「ベータ・エンドルフィン」の分泌は、「脳を活性させる働きがあり、体の免疫力を高めてさまざまな病気を予防するのです。さらに、ベータ・エンドルフィンが分泌されると記憶力が高まり、集中力が増すということも知られています。勉強や学習に非常に効率がよいとも言えそうです」(『脳科学から見た「祈り」/中野信子 著』)。

同著によると、「ベータ・エンドルフィン」が脳内に分泌されるのは、「前向きな心でいるとき、笑顔のとき、感謝の気持ちを持つとき」とのこと。推しにやる気や元気をもらって前向きな気持ちになり、推しの笑顔を見て笑顔になり、「推しよ、今日もありがとう」と感謝する。私たちは常に推しに「ベータ・エンドルフィン」を分泌させてもらっていると言えるだろう。なんてありがたい。カムサハムニダ。そう思う今この瞬間にも、「ベータ・エンドルフィン」が脳内に出ているのだと思うと、感謝と「ベータ・エンドルフィン」のエンドレスサイクルが出来上がる。

特筆すべきは、「ベータ・エンドルフィン」が「体の免疫力を高めてさまざまな病気を予防する」という点。厚生労働省が運営する「生活習慣病予防のための健康情報サイト」には、「ベータ・エンドルフィンは、鎮痛効果や気分の高揚・幸福感などが得られるため、脳内麻薬とも呼ばれる」と書かれている。先に紹介した母性のホルモン「オキシトシン」、「セロトニン」も同じように免疫力UPに効果を発揮すると言われているが、いずれにも共通するのは「幸福感が得られる」という点である。

『脳内麻薬/中野信子 著』には、ある研究者の研究結果を参照し「幸せな人はそうでない人に比べて約10年長生きし、死亡リスクが35パーセント低いという結果が出ています」と書かれている。また、『ポジティブ心理学の挑戦/マーティン・セリグマン 著』には、生きがいを持たない人とそうでない人の心血管疾患による死亡率は、160%も異なるという研究結果が紹介されている。ポジティブな感情がある人と、ネガティブな感情がある人とでは、風邪の引きやすさにも差があるのだとか。

さまざまな脳内物質によって得た「幸福感」が免疫力UPの礎になるのはもちろん、「人生の満足度が高い人は、人生の満足度が低い人に比べて、食事に気を付け、喫煙せず、定期的に運動する傾向が強い。ある研究によると、幸せな人の方が不幸な人よりもよく眠る」(『ポジティブ心理学の挑戦/マーティン・セリグマン 著』)というように、健康であろうとする意欲が生まれるから余計に、幸せな人は寿命が長いのだ。

長く健康に生きる可能性さえ与えてくれるだなんて。やっぱり推しは神に近い存在なのだと、あらためて尊さをかみしめる。

推しへのときめきが、肌つやを良くする!?

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恋をすると女性はキレイになると言われる。内面からみなぎる前向きな気持ちがその人を輝いて見せるのと共に、「女性ホルモン」として知られる「エストロゲン」という物質が脳内に活発に分泌されることも一因なのだとか。「エストロゲン」は、子宮内膜を厚くして妊娠に備える、女性らしいカラダ(乳房の発育や、丸みのあるカラダ)をつくる、自律神経の働きを安定させる、コラーゲン生成をうながし、美肌をつくる、血管、骨、関節、脳などを健康に保つなど、さまざまな働きをしている(あすか製薬株式会社「女性のための健康ラボMint+」より)。

「エストロゲン」は、女性が初潮を経験してから分泌が始まり、18歳~45歳くらいまでは安定的なのが一般的。しかし、ストレスや運動不足、偏った食生活などが要因で若くても減少してしまうことがある。そうならないためには、ストレスを解消したり、運動に取り組んだり、バランスの良い食生活をするのが一番。それに加えて「ときめくこと」も、「エストロゲン」を増やすのに効果的なのだという(エストロゲン研究会「女性の魅力と体調をつかさどるエストロゲンのすべて」より)。

同サイトには、「ときめきを感じると、エストロゲンが活発に分泌され、アンチエイジング効果を感じたり、女性らしさが出てきたりするのです。憧れの存在になるような、有名人や芸能人にときめくのも良いでしょう。また、映画やドラマ・本を観て、ドキドキワクワクするのもおすすめです」と書かれている。恋人や配偶者など身近な存在にときめかなくなったとしても、推しにときめくことができていれば良いということだ。それは朗報である。

推しに会う日(ファンミーティングや握手会、ハイタッチ会など)のために、ダイエットをしたり、美容院に行ったり、新しい服を買ったり、ネイルをしたり……。美の努力をする人は多いはず。「エストロゲン」効果とそうした自己努力によって、年齢を重ねても美しくいられる。そう考えると、推しは美の魔法使いなのかもしれない。

一つ気を付けたいのは、推しに対して「ときめく」レベルを超えて苦しいくらいの恋心を抱いてしまうこと。最初に解説した、やる気の源となる「ドーパミン」は中毒性を引き起こしやすく、なおかつ過度なストレスによって脳のストレスシステムに異常が起こると、ドーパミンの報酬システムとともに脳が暴走し「LOVEがダークサイドに落ちる」とのこと。いわば、恋愛依存のような状況だ。そうなると、恐怖、不安、悲しさなどのネガティブな感情が生まれてしまうという(『LOVEって何?脳科学と精神分析から迫る「恋愛」』/岩田和宏 著)。

『「ストーカー」は何を考えているか/小早川明子 著』によると、「ストーキングの心理的背景には、必ず被害者意識がある」とのこと。それが過度になると相手に危害を加えたり、相手の不利になるようなことをまわりに言いふらしたりと、いわゆるストーカー行為に発展する。推しはあくまで推し。自分専属の幸福製造機ではない。もし「どうして私の好きな髪型にしないの?」「私の仕事中に動画配信をするなんてひどい」「私の意見とは違う発言をするなんてありえない」など、推しを非難するような想いが湧いてきたら要注意。

「かわいさ余って憎さ百倍」になって暴走する前に、一度冷静になって推しと自分の距離感を客観的に見つめ直してみよう。健全な推し活でなければ、プラスの恩恵は受けられないのだから。

※男性ホルモンは「テストステロン」という脳内物質なのだが、これを増やす方法に「ときめき」は見つからなかった。ただ、「ストレスをためない」というのは大事なことのよう。推しにストレスを癒してもらおう。

推しの幸せを願って脳のアクセルをON

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『科学的に幸せになれる脳磨き/岩崎一郎 著』によると、脳の前頭前野にはアクセルとブレーキのような働きをする部位があるのだそう。そして、「アクセルが活性化していると前向きになり、幸せを感じ、ブレーキが強くなりすぎると心が沈んだり、ネガティブなものの見方になったりしてしまうことがわかっています。ブレーキは強くなりすぎると鬱になる場合もあります」

この脳のアクセルの活性が高いのはどのような人なのか調べたところ、あるチベット仏教の僧侶だったのだとか。彼の脳のアクセルの活性化が最も高まるのは、「慈しみ(利他)の心で世界平和や人の幸せを祈る瞑想をしていたときでした。このときの脳のアクセルの活性化は普段の5倍以上で、通常の人の50~500倍だそうです」。人間は、自分の欲望が満たされることを幸せだと思いがちだが、実際はそうではないことがこの調査によって明らかになっている。「人の脳は自分のことより他者の幸せを願っているときの方がセルフレスな状態で、幸せを感じられる」のだ。

また、同著には脳のアクセルが活性化されて起こる「前向きな状態」についての研究結果も紹介されている。それによると、前向きな状態というのは「喜び、愛、感謝、感嘆、高揚、畏敬、平静、興味を持つ、希望、誇り、楽しみ、ひらめき、謙虚」の13の状態を指す。「前向き」というと、元気いっぱい、やる気満々!な状態をイメージするけれど、決してそれだけではなく、平静、誇り、謙虚など穏やかな気持ちもまた、前向きで理想的な脳の状態なのだ。

推しの人気が高ければ高いほど、いろんなファンがいる。インターネット上では声の大きな人や、主張の激しい人が幅を利かせていて、自分の応援が足りなのではないかとか、負けないように応援しなくちゃと焦ることもあるだろう。でも、マイペースで良いのだ。周囲の雑音を気にせず、「推しの仕事がうまくいきますように」「推しが毎日心からの笑顔で過ごせますように」と、心静かに願ったり、推しの活躍に「すごいね!努力の賜物だね」と誇らしさを嚙みしめたり。それだけで、十分幸せを感じられるのだから。

推しの輝く未来を思い描いて、ボケ防止

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脳の部位の一つである「海馬」は、記憶を司る機能を持つことで知られている。記憶と言うと、過去にあった出来事を指すように思いがちだが、「未来にやるべきこと」「将来行うこと」など今後の予定も含まれ、それを「展望的記憶」と呼ぶ。認知症患者はこの「展望的記憶」の能力が著しく低下しているのだとか(『脳科学から見た「祈り」/中野信子 著』)。

そして、「この『展望的記憶』をしっかり持てているか否かが、じつはその人の生き方にも深い次元で影響を与えています。それはたんに『スケジュール管理がうまい』といったレベルの話ではありません。私たちが未来に対するヴィジョンをしっかり持ち、希望を持って人生を歩んでいけるのも、じつは展望的記憶の能力があればこそなのです」と同著にはある。

また、『脳を活かす生活術/茂木健一郎 著』には「未来が明るいと思えば、脳の前頭前野を中心とする『楽観回路』が働き、楽しい気持ちが生まれます。その働きが側頭葉の内側にある扁桃体という神経細胞を活発化させ、『なんでもできる』『どこまでもいける』というような自信となります」と書かれている。

将来のありたい姿を想像して目標を立てる。それによって、私たちは前向きに歩んでいくことができるのだ。だから、年齢や環境を言い訳にして、あきらめてしまうのはやめよう。ほんの少しでも、今よりも良い未来を夢想して、生きていこう。自分自身の目標を見つける努力を惜しまないのはもちろんのこと、推しの明るい未来についても、積極的に考えてみよう。

なぜなら、「最近の研究で、『人間が未来をいきいきと思い描くときに、海馬の活動が活発になる』ということがわかりました。(中略)それは、何も自分自身の未来についてのヴィジョンでなくてもよいのです。自分の所属する集団が、10年後、20年後、100年後にはどんなふうに発展しているだろうか?」と思い描くだけでも、心はワクワクし、海馬も活動するのです」(『脳科学から見た「祈り」/中野信子 著』)。

記述には「自分の所属する集団」とあるが、集団に所属していることがマストではない。ここで重要なのは、「未来をいきいきと思い描くこと」だ。大きな会場でコンサートをする、名誉ある賞を受賞する、あんな役を演じる、映画で主役をはる、有名な雑誌に載る……。推しの仕事における将来像はもちろん、ステキな人と結ばれて幸せになる、心穏やかに静かな場所で暮らすなど、プライベートな展望でも構わない。

「『その人の幸せを心から祈れる相手』が増えれば増えるほど、私たちの『自己』の範囲は拡大され、その分だけ脳が幸福を感じる機会も多くなります」(『脳科学から見た「祈り」/中野信子 著』)。推しの将来の幸せを祈れる私たちは、なんて幸せなのだろう。推しの未来に、幸あれ。

おわりに

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推しの存在が自分にポジティブな影響を与えていることは、感覚としてわかっていた。しかし今回、あらためて脳科学や心理学と照らし合わせてみたことで、推しがいることの素晴らしさに確固たる根拠が持てた。

記憶力や集中力、やる気の低下などを、人は「老い」のせいにしがちだけれど、問題は年齢ではないのだ。『脳科学から見た「祈り」/中野信子 著』には、このように書かれている。「1998年には、大人の脳神経細胞も日々新しく生まれていることが発見されました。(中略)この発見と、成人後の脳神経新生についてのその後の研究によって、私たちは何歳になっても『脳を育てていける』ということがわかってきました」

『脳を活かす生活術/茂木健一郎 著』には、「脳には1000億のニューロン(神経細胞)のつなぎ目であるシナプス(神経回路網)という構造があります。ニューロンとシナプスによって神経伝達物質がやりとりされる結果、さまざまな精神状態が生まれるのです。ニューロン間のシナプス結合にはひとつとして同じものがありません。こうした非常に小さな変化が積み重なることによって、ふと気が付くとまったく異なる自分に成長できているというのが、脳の可能性のすばらしいところです」と書かれている。

推しの存在によって分泌されるさまざまな神経伝達物質が私たちの脳をより良く変化させ、豊かな体と心で生きる力を与えてくれる可能性があることを、この記述は示している。冒頭で紹介した、かつて「死にたい」と語っていた人が生きる希望を得たという大きな変化。それがすべてを物語っているだろう。

これからも私は、推しを推していきていく。そして、ポジティブで元気でかわいいおばあちゃんになるのだ。

推しよ、ありがとう。
素晴らしき哉、推しのいる人生!
It's a Wonderful "OSHI″ Life!!!

(完)

参考文献・サイト

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LOVEって何?脳科学と精神分析から迫る「恋愛」/岩田和宏
脳科学から見た「祈り」/中野信子 著
脳内麻薬/中野信子 著
脳を活かす生活術/茂木健一郎 著
スマホ脳/アンデシュ・ハンセン 著
ポジティブ心理学の挑戦/マーティン・セリグマン 著
オキシトシンがつくる絆社会/ジャスティン・ウヴネース・モベリ 著
「ストーカー」は何を考えているか/小早川明子 著

科学的に幸せになれる脳磨き/岩崎一郎 著

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト 「e-ヘルスネット」
東邦大学医療センター 大森病院臨床検査部  コラム
涙活事務局「涙活」
あすか製薬株式会社「女性のための健康ラボMint+」
エストロゲン研究会「女性の魅力と体調をつかさどるエストロゲンのすべて」


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