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2022年8月 映画レビュー

8月、めちゃくちゃ忙しくて、候補に挙げていたのに見られなかった作品がいくつもある…。無念…。幸いにも鑑賞できた6作品の所感をまとめました。

プアン 友だちと呼ばせて

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(監督:バズ・プーンピリヤ 主演:トー・タナポップ、アイス・ナッタラット 2021年/タイ)

はぁ…やっぱり、バズ・プーンピリヤ監督はすごい。展開の巧みさや登場人物の繊細な描き方、カメラワークのユニークさなど素晴らしいところばかりで、とにかく満足度が高かった。白血病に侵されたウードは、死ぬ前に元カノたちに会いに行こうと決意し、かつて共にBARを開こうと約束した友人・ボスに同行してほしいと頼む。

前半は男同士のほろ苦くも楽しい2人旅。しかし、思いがけない告白から物語は急展開を迎える。前半は物語に深みを与え、後半を際立たせる序章に過ぎなかったのだなと思うほど、後半の濃さが半端なかった。前半はウードが主役、後半はボスが主役。それぞれ育ちも生き方も全く違うから、前後半の変化がより際立っていた。

物語を進めるにあたり、父の古い車で流すカセットテープを上手く使っていたのも良かった。前半はA面、後半はB面。A面では、元カノ3人各々の名前がついたカセットテープがまわり出す演出でストーリーを区切っていて、おしゃれなことするなぁと感動。物語も演出もカメラワークも細部に渡って練られていて、丁寧な仕事とはこういうことだなと。

ウードもボスも元カノたちも、それぞれにダメなところがあって、それがすごくリアルで。想い合っていてもボタンの掛け違いが起こってしまう様が、もどかしくもあり、身につまされるようでもあり…。ウードが命がけで伝えたかった、ボスへの謝罪と感謝の気持ち。エンドロールの曲が彼の想いを代弁しているみたいで、泣けて仕方なかった。

SABAKAN サバカン

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(監督:金沢知樹 主演:番家一路、原田琥之佑 2022年/日本)

「またね」という言葉の重さや「友だち」という概念の曖昧さが、切なくてもどかしくてたまらなかった。映画初出演という2人の子役が、誰の子ども時代にもあった、何気ないけれど宝物のようなやりとりを、ものすごくナチュラルに繰り広げていて、愛おしさと懐かしさが入り混じった感情で胸がいっぱいに。

尾野真知子の肝っ玉母ちゃんぶりと、竹原ピストルの豪快な父ちゃんぶりも素晴らしくて、本当の家族みたいに見えた。長崎の田舎の風景の美しさと、そこに住む人たちの温かさが滲み出たストーリー。一生モノのひと夏を私も経験させてもらったような、そんな錯覚に陥って、ポロポロ涙がこぼれてしまった。

大人になった主人公の少年を演じた草彅剛をはじめ、みかん農家のおじさん(岩松了)、地元ヤンキーに恐れられている青年(八村倫太郎)、友だちの母親(貫地谷しほり)など、ベテランから若手まで、ちょっとしか登場しないのにキャラクターが濃くて印象に残る脇役たちの活躍も心に残った。

スワンソング

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(監督:トッド・スティーブンス 主演:ウド・キア 2021年/アメリカ)

ドラァグクイーンとしてもステージに立っていた、伝説のヘアメイクドレッサー、ミスター・パッド。当時の面影なく老人ホームで暮らしていると、仲違いしたまま別れた旧友の死化粧の依頼が舞い込んできて…。
パッドを演じた御歳77歳のウド・キアがとってもキュート。ただのおじいさんが、昔つけていた大きな指輪をはめた途端、急にはんなりとした仕草で振る舞い出す。そのスイッチの入り方に魅せられた。

彼はずっと不幸を背負って意固地に生きてきたけれど、旧友や恋人や弟子たちともっとちゃんと話せていたら、違う道を歩んでいたのかもしれない。とは言え、死ぬまでそれに気づかない人がいる中で、晩年にわだかまりから解放されることができた彼はきっと幸せだったんだろう。

たかが死化粧、されど死化粧。パッドが旧友に施した美しいヘアメイクに、母の死を思い出した。まったく化粧っ気のない人だったが、せめて最後くらいキレイにしてあげたいと口紅を塗ってあげたっけ。その後、宇多田ヒカルの「花束を君に」にある「普段からメイクしない君が薄化粧した朝」という歌詞は、死化粧のことだとわかってハッとした。

ゲイバーやドラァグクイーンに象徴されるような、いわゆるゲイカルチャーが廃れてきていることを、この作品を見て初めて知ったし、パッドの心情とリンクした、物語を彩る数々の楽曲もすごく良かった。主題とは違う点でも、いろんな側面から楽しめる作品だった。

L.A.コールドケース

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(監督:ブラッド・ファーマン 主演:ジョニー・デップ 2018年/アメリカ・イギリス)

映画は基本的にあまり前情報を入れずに観るタイプなのだけれど、しっかり予習すれば良かったと後悔。ジョニー・デップ主演のサスペンスということしか知らなかったために、ついていけなかった。登場人物は多いし、関係性が入り乱れているし、1人に複数の呼び名はあるし、背景が複雑だし…。

私だけか…?と思ったら、「相関図見ていけば良かった」「事件の背景を調べてから見れば良かった」と同じように予習なしを悔やんでいる人がチラホラいて、そうだよね…となった。1990年代に実際に起きたヒップホップ界の大スター、2PACとザ・ノトーリアスB.I.G.の殺害事件をモチーフにしているので、知っていればすんなり物語を楽しめたはず。

とは言え、18年前と現在、2つの時代を違和感なく演じたジョニー・デップはさすがだった。めっきり老け込んだ現在の様子は、腹が出て皺が刻まれており、かっこよさは皆無。そこらへんを歩いてても彼だと気づかないかも。元妻とのいざこざでお騒がせスターというイメージが強くなっていたが、やはりいい役者なのだなとあらためて。

劇場版 ねこ物件

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(監督:綾部真弥 主演:古川雄輝 2022年/日本)

春にテレビ神奈川系列でドラマ版が放送されていたのだけれど、猫にも世界観にも癒されて毎週録画して見ていた。祖父を亡くした世間知らずの箱入りアラサー男子が、譲り受けた家を猫付きのシェアハウスとして運営するというストーリー。そこへ次々と入居してくる若い男子たち。

男だらけの同居生活なのにまったく暑苦しくないのは、主人公の穏やか過ぎる性格と、猫好きという彼らの共通点と、主人公が作るおいしそうな朝食と、リビングでビールではなくお茶を飲む健全過ぎる彼らの習慣などなど、物語を形づくるさまざまな条件が平和そのものだからなのだろう。

そして、2匹(+1匹)の猫たちのかわいらしさと言ったら。劇場版で一つ不満があるとしたら、どれだけ猫がかわいくても声を出せないことだ。ドラマ版は毎回「あら~かわいいこと~!」「きゃわ♡」「寝てるの?かわいいねぇ」など、これでもかというくらいひとり言をつぶやきながら見ていたのだが、さすがに劇場では無理。巷では映画の「応援鑑賞」なるものが流行っているけれど、この作品もそのスタイルにするべきだと思う。私と同様に、心の声を出せずに我慢し続けた人が、かなりの数いるのではないだろうか…。

コンビニエンスストーリー

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(監督:三木聡 主演:成田凌 2022年/日本)

不思議な話なんだろうな…と覚悟はしていた。していたのだけれど、なんかスッキリしない不思議さだった。こういう設定や演出はどうやって思いつくのだろう。例えば、六角精児演じる、コンビニ店主の趣味が、森の中でエア指揮をすることだとか。主人公の彼女がオーディションに合格した映画の世界観のエキセントリックさとか。良くも悪くも、監督の頭の中、だいぶイカれてるなというのが率直な感想。

かろうじて地に足がついていた部分と言えば、どんな役でも上手にやる成田凌を主演にキャスティングしたことだ。彼じゃなければどうなっていたことか。


<9月に見たい映画>

・さかなのこ

・川っぺりムコリッタ

・人質

・百花

・ヘルドッグス

・犬も食わねどチャーリーは笑う

・プリンセス・ダイアナ

・アイ・アム まきもと

・マイ・ブロークン・マリコ

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