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MOVIE REVIEW 「ソウルメイト 七月と安生」

(監督:デレク・ツァン 主演:チョウ・ドンユイ、マー・スーチュン 2016年・中国/香港)

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2021年私的ベスト作品「少年の君」のデレク・ツァン監督が、同作の前に手がけた監督デビュー作。

(「少年の君」のレビューはこちら↓)

七月と安生とは、七月=チーユエと、安生=アンシェンという2人の女性の名前だ。幼い頃に出会って親友になった2人が、同じ男性を好きになり、複雑な想いを抱えながらそれぞれの人生を生きる姿を描いている。

この説明だけだと、単なるドロドロの恋愛三角関係ストーリーをイメージするかもしれない。でもそんな薄っぺらいものには仕上がっていない。ありがちな設定にもかかわらず、ありがちな三流映画に成り下がっていないのは、作り手のセンスによるところが大きいように思う。

まず、物語の展開の仕方。作品は、安生のもとに「七月と安生」という小説を映画化したいと、制作会社から連絡が入るところから始まる。小説の作者は七月という女性だが所在が不明のため、そこに書かれているもう1人の主人公、安生を探し出して連絡をしてきたのだった。

小説には、2人の出会い、厚い友情、三角関係に陥った経緯、安生が想いを隠し別の男性と遠くへ行ってしまったこと、数年後の再会や諍い、別れまでがつぶさに記されている。

映画は、安生が小説の各章を読み進めていくのに合わせて、回想のような形で進んでいく。過去と現在を行き来する見せ方に、この手法はとても効果的だと思う。早く小説の続きが読みたいと思うように、物語の先を知りたくなってしまうのだ。

またもう一つは、七月と安生の複雑な関係性の描き方。育ちも見た目も性格もまったく違うからこそ、しっくり合って、お互いにとって何よりも必要な存在になった主人公の2人。けれどただ健やかに仲が良いだけでなく、2人とも相手に対して密かに大きなコンプレックスを抱いているのだ。

自分にはないものを持っている大好きな親友。彼女と一緒にいれば自分の嫌な面、見たくないものを見ずに済む。ある意味、共依存とも言えるような2人の関係性が、丁寧な心理描写と役者の絶妙な演技で表現されていて、2人が作り上げる世界観にどんどん引き込まれていく。

1人の男性の登場によって、唯一無二の2人の関係性は徐々に変化する。あんなに何でも語り合っていた相手に、本当のことが話せない。そのことが2人の心の距離を引き離していく。それが一つ一つのセリフ、表情、仕草などからつぶさに感じられて切なかった。

ユニークだったのは、2人のやりとりに頻繁に登場するモチーフ。お互いの家に行き来する仲睦まじいシーン、男をめぐってマウントを取り合い喧嘩をする場面、数年後に再会して仲直りするくだりなどに、度々「ブラジャー」がキーアイテムとして出てくるのだ。ある一つのモチーフを違和感なく、それでいてわかりやすく、2人の関係性の象徴のように物語の中に盛り込んでいく手法が、すごく上手で憎いなぁと思った。

(モチーフを表した、このポスターもとてもかわいい)

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物語は、七月が書いた小説には事実とは大きく異なる点があることが明らかになって幕を閉じる。なぜこの小説は書かれたのか、七月はどこにいるのか…。驚き、胸が震えるラスト。「少年の君」と同様、何度も見返したくなる素晴らしい作品だった。

公式サイト https://klockworx-asia.com/soulmate/


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