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人生初の推しが、卒業したってよ。

2022年5月22日、卒業コンサートをもって、推しがグループを卒業した。
グループを知ってから現在まで、約6年弱を振り返ってみて、当初なぜ推したいと思ったのか? 応援する過程で何を感じ取っていたのか、そして卒業した今何を思っているのか、良い機会なので整理してみたい。

1人の天才と20人の凡才

 「何坂だったか覚えてないけど、なんでアイドル好きなん?」
何度も聞かれた質問に、私は「1人の天才と20人の凡才の群像劇が面白いから」と伝えている。
 もちろんオーディションで選ばれる以上、非凡なのだが、興味を持ってもらう口上であることはご理解いただきたい。

 欅坂46の約5年間は傍から見るに、残酷だった。1人の天才が生み出した熱狂。社会に出てまもない20人の凡才は、心構えもできないまま、実力以上の成果を求められていたと思う。
 もちろん、当時の熱狂は1人の力のみで生み出せた訳ではないけれど、ライブや番組を通じて、個々のメンバーに目を向けない限り、視線は天才に集中する。この途方もない実力差も周囲の声も、20人の凡才が、組織の中で自らの存在意義を見失うのに十分すぎたと思う。

ある者は挫折し、ある者は心酔し、ある者は反発する。そんな空気がヒシヒシと感じ取れるグループだった。しかし、それは同時に天才との差を理解しながら、グループのために何ができるか考え、その差を縮めようとする努力や、自分の長所を引き出しながら組織に還元しようとするメンバーがいることも際立たせていたように思う。

欅坂46との出会い

 今でも欅坂46の衝撃は忘れられない。当時、大学生ながら、のちに就職する会社でインターンとして働いていた。上司が作業しているところへ質問しにいくと、ディスプレイには「サイレントマジョリティー」が流れていた。

 当時の感想は「これが天才か」と。中心に立つ少女をそれ以外に形容できる言葉が見つからず、ただただMVを見入ってしまった。歌詞が持つ意味は、センターに立つ少女を通じて、何倍にも増幅されて伝わってくる。
君は君らしく生きていく自由があるんだ。
このメッセージが、すんなりと、感覚的に伝わってしまう。

解禁直後のMVは、すぐさま注目を浴び、それは同時に1人の天才が世間に知れ渡る結果となった。当然私も、類稀な才能に興味を持ち、色々な媒体で情報を漁るようになった。
まだ14歳? 愛知出身の一般人だった?
どんな育ち方すればあぁなれるんだ? 
日々そんな思いで情報を追いかけていたことを覚えている。

推しとの出会い

情報を漁る中で、その人は、綺麗な顔立ちながら、多くの映像や記事で自信がないと語っていた。暴力的な考えだが、当時の私は容姿が整っていれば、それだけで多少は生きやすい社会の中、なぜこんなにも自信がないのだろう?と感じた。
演技や他所行きに取り繕った姿でないなと思えるほど、その人は自分を卑下していたことが印象に残っている。

 ここで注記しておきたいのは、天才も広義には推しに入ると思う点である。しかし、私自身、どんな人でも盲信しないことがポリシーにあり、「尊敬」はすれど、何がすごいのか、なぜすごいのか分析したい対象であった。凄すぎてなんかよくわからないから、推しと安易に括ることは腹落ちしなかった。

 対して、その人、渡邉理佐は、天才を間近で見ながら、できないことに涙したり、できるように努力したり、自分の長所を伸ばしながら活躍の場所を広げたりと、挫けずに努力を続けている姿に興味を持ったのである。

推しの意味

 推しは、色々な意味を含有する多義語になったが、その本質は「広め伝えたい感情」のことだと思う。踏み込んで言うと、「自分が見出した対象の魅力を、広め伝えたい」そう思う心のはたらきが根底にある気がする。

 欅坂46に在籍する以上、可愛らしさや美しさに代表される、いわゆるアイドルとしての尺度だけでは評価されない。物寂しさ、儚さ、時には怒りや憎悪まで、一言で表現力と片付けるにはあまりに多様で繊細な感情表現が求められる環境は、一般に「可愛い」「美しい」と形容される人であっても、評価されないことを意味する。

 理想と現実のギャップは目を背けたくなるけれど、彼女は真摯に向き合って、あらゆる仕事の中でそのギャップを埋めていったように思う。評価されなければ、自己喪失感に苛まれ、不貞腐れても当然だ。
 そんな環境でもその人は、できないことが悔しいと口にし、生来の自信のなさや、天才との実力差と向き合い、克服しようと努力できる人なんだなと、映像や記事を目にする中で感じ取れた瞬間、初めて「推したい」という感情を知った。

きっとアイドルになっていなければ、そんな強い感情を抱えずとも生きていくことができたかもしれないのに、目の前の困難、背負わざるを得ない責任を果たそうと邁進する姿勢、生き様が美しかった。

そして、「できないことが悔しい」「できるようになりたい」と、地道な努力を続ける中で、彼女自身、変われたことに楽しみを見出したのではないだろうか。ほんのちょっとずつでも、昨日より今日、今日より明日とできることが増えていく。そのプロセスで辛いことや苦しいことがあっても、きっと未来にはできるはずだと。

インタビューでは自分のことを明言しないのに、ステージに立つ彼女を見るだけで、その裏にどれだけ地道な努力や工夫があったのか想像させる。諦観して見せたり、覚悟が伝わってきたり、息を呑むほど美しい姿など、時間と共に増える様々な側面・振り幅の広さは、努力によって凡人が表現者へ変身していく物語を追っているようであった。

推しが残したもの

 本来、自己評価の低い人は、自分にできたんだから、他の人もできると思い込みやすい。だが、実際にはそう上手くできるわけではなく、多くの人はできないことが自己嫌悪に変わっていく。

 これは邪推かもしれないが、きっと、魅力的なのに報われないメンバーの見えない努力や、自らも経験した辛さや苦悩を、味わわせたくなかったのではないだろうか。自らの意志で心からやりたいと思うようになるまで「色々経験しなさい」と説き、変わりたいと思うならできるように背中を押し、無理して潰れそうなら支えとなる。

 卒業コンサートを見届け、応援し続けた期間を振り返りって見ると、常に変化していく過程が、よく伝わってくる人だったのだと思う。

変わろうとする決意は、変わるための努力へ。
変わるための努力は、変われることの楽しさへ。
そうして身につけた能力や楽しみを、理想に向けて変わりたいと悩みもがく人を導く覚悟へ変換し、メンバー自身が時に人に頼りながらでも変身できるよう、不安に寄り添い、見守り続けていた。
人間としての懐の広さ、優しさまで身につけられた稀有な存在なんだと思う。変動の激しかったグループの中で、あれだけ多くの人から感謝され、「柱」や「支えてきた」と評される理由なのだと確信している。

いわゆるカッコいい欅坂46も、アイドルらしい可愛い欅坂46も、沸き立つように楽しい欅坂46も、改名後にグループを支える覚悟も、凛として美しい櫻坂46も、その全てを高い次元で実現する渡邉理佐がいるから、このグループは大丈夫だと、ライブに足を運ぶたび感じていた。

その背中を見て、優しさに触れたメンバーは、きっと真っ直ぐに成長していくんだろうと、そう確信させてくれる。
次のステージへと進む前に、グループの宝である次世代のメンバーと、ファンに対する安心感、今後も見守り続ける期待感まで残してくれた。

櫻坂46のこれから

 櫻坂46は、やはり「アイドル」とカテゴライズされることに違和感がある。「アーティスト」という語も多義な解釈を生んでしまうため、現時点では適切ではないと思うが、アイドルとアーティスト、この両面を含意する言葉で言い表したい。今はその言葉が見つからないことが、心から悔しい。もちろん、アイドルとしての側面も持ち合わせているが、根底には1人の天才と、その背中を追い続け、支えた凡人たちの「楽曲を届ける」姿勢がグループの根底にあると思う。

 櫻坂46というグループでは、欅坂46時代から通底して、そのメンバーなりの解釈で表現された瞬間、メンバーは最大の輝きを放つと思っている。それは、生来持っている魅力かもしれないし、努力して身につけたものかもしれないが、とかくライブ会場を我がものとし、我を忘れて見入ってしまう瞬間を見たいのだ。

 そして、櫻坂に改名して以降、頼もしい2期生の活躍により、グループとしも楽曲により表現できる感情・メッセージの幅は急激に広がっていることも感じている。欅坂46では表現できなかったものを、メンバー個々人が実現していく可能性がある限り、このグループの未来は明るいと信じられる。

デビュー曲で大ヒットした時のように、社会の空気感とそれに対する回答となるメッセージとは、狙って言い抜けるものではないが、妥協を許さず楽曲と向き合う姿勢が続く限り、いつか社会に広くメッセージとして届くと信じている。それは次のシングルかもしれないし、10年後かもしれない。その日が来るまで、待つことには慣れているから、下手にファンに媚びることなく、グループの理想像に向けて迷いなく突き進んでほしい。

組織は時間が経つほど守るべきものが増え、変化を許容できなくなっていく。きっと表層的に「櫻坂らしさ」と語られる日もくるだろう。その過程でグループに大きな変化が必要だったとして、「楽曲を届ける」姿勢が根底にある限り、どんな変化も受け入れ、楽しめるファンであり続けたい。

最後に、ここまでグループを支え続け、未来に希望を紡いだ推しに、心から感謝を伝えます。これからも遠くから応援しています。約7年間、本当にありがとうございました。

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