第17話「蛇夜」
草を刈るなら鎌は必要だけど、この状況で使うとは思えない。他の人たちは背中に背よった籠を地面に下ろすと、籠の中身を丁寧に取り出した。
どうやら中身は果物だ。バナナや蜜柑など他にも種類は多い。まるでお供え物みたいだ。
黒土山に集まった女性たちは籠から取り出した果物を手にして、月明かりに照らされた場所を中心に集まる。因みに集まった場所は、山火事で全焼した村唯一の神社が建っていた所。儀式と言うぐらいだから、神聖な場所として神社が建っていたところを選んだのだろうか?
「何が始まるんやろ。饅頭とかも持ち込んでるわ。なんか墓参りのときみたいやね。あ、見て見て!袴田のおばちゃん、何か布に包んでるもん持ってるわ!」と鍋子が指をさして言う。
因みに袴田のおばちゃんは、村長の奥さんである。
確かに、他の人たちが果物やお菓子を地面に並べて、その後ろで袴田のおばちゃんが真っ直ぐに立っている。胸の前で白い布袋に包まれたものを抱えるように持っていた。どうやら用意したお供え物が綺麗に置かれるのを待っているようだ。
俺の祖母は身振り手振りで指示をしている。そして、手には袴田のおばちゃんが持って来た鎌を手に持っていた。
やっぱり、今から儀式で使うのか?
「袴田さん、準備できましたよ」と一人の村人が言う。
「夢川さん。今夜は天の川が綺麗やないの。これならヘビイチゴ様もお喜びになるわ」と袴田のおばちゃんが、祖母に向かって話す。
「鍋子、今の聞いたか?ヘビイチゴって言いよったな。なんやヘビイチゴって!?聞いたことないわ」
「ウチも知らへんよ。なんや、蛇をお参りするんかいな。イチゴって言うてるけど、あの苺なんかなぁ」
ここまでわかったこと。真夜中の黒土山で女だけで儀式をする。村の中で知ってるものは何人ほどなのか正確な人数はわからないが、ここに集まっている女性は十三人。儀式の日は、どうやら七夕と決まっているみたいだ。
それに女性たちの会話から、ヘビイチゴと呼ばれる神様にお供え物を用意している。ヘビイチゴと聞いて、そのまま蛇苺と書くのか?それさえも謎である。
だが、この儀式は蛇が関係しているようだ。
「袴田さん、最後に聞くけど、ちゃんと決まりは守ったんやろな?」と祖母が指先で鎌を撫でながら訊く。
「当たり前やん。零時過ぎの蒸し暑い日にヤッタわ。あの人、見たらあかんもん見てもうたりしゃーなし、それが運命やさかい。生け贄として選ばれたんや」と袴田のおばちゃんはそう言って、布袋に包まれたものを見つめるのだった。
生け贄?ヘビイチゴ様の生け贄として選ばれたという意味で言ってるのか?
「なあ、夢川くん。なんか、ウチら見たらあかんもん見てるんちゃう?」と鍋子が不安そうに言う。
俺もそう思った。大体が村の女性たちしか知らない儀式。それに真夜中に集まって、ヘビイチゴと呼ばれている神様の存在自体が怪しい。俺もだんだんと不安と恐怖で、その場から逃げ出したい気持ちが大きくなっていった。
この儀式は見たらあかん!
だけど、そんな気持ちとは裏腹に、大人の俺だけが真実を確かめようと思っているのだった。何故なら、袴田のおばちゃんが持って来た布袋の中身が気になっていたからだ!
真夜中の七夕。これから行われる儀式の正体とは!?
第18話につづく
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