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第23話「鳩が飛ぶのを見てみたい」

揺れる車両の中、私は色々と考える。まず、後藤くんは大貫咲の存在を知っているのか。それとも知らないのか。娘を尾行中に偶然会ったとは思えなかった。彼女の座る位置から娘は斜め向かいに座っているようだ。

まるで、大貫咲が見張ってる感じもする。

大貫咲はスマホをいじりながら、時折顔を上げたりしている。相変わらず指にエメラルドの指輪がはめてあった。同窓会で自慢していた指輪だ。普段からはめているのか。

まぁ、そんなことはどうでも良いが、彼女がホントに偶然乗り合わせているのか怪しい。

悶々としながら、私は後藤くんの方を見た。やはり、このことは教えておいた方が良いと考えた。ホテルのフロントに見かけたこと。そして今現在、娘と同じ車両に乗り合わせてることも。

私が迷っていると、後藤くんが表情を変えて扉の方へ移動した。すると、電車は横浜駅に到着する。私は思わず身を乗り出して、娘の方を見ようとした。次の瞬間、後藤くんが私の視界を遮るように移動して、チラッと私の顔を見た。そして、扉が開いたのと同時にホームへ降りた。

どうやら娘が駅を降りだようだ。私も慌てて席を立って、後藤くんの背中を追いかけた。人混みに紛れながら、距離を置いてつけていく。見失ったら終わりだ。平日の昼間とは言え、人の数は多かった。

必死になって後藤くんを追いかけた。

尾行というのはこんなにも忙しいのか。後藤くんと話すこともできない。娘はどこへ行こうとしている?私から尚美の姿は確認できないが、後藤くんが見てる限り大丈夫だろう。

それに、よくよく考えたら私と後藤くんがはぐれても、あとで連絡して落ちあえる。

改札を出ると思ったが、どうやら乗り換えをするみたいだ。横浜線から根岸線に移動すると、後藤くんが自販機の裏へ歩いて行くのが見えた。自販機の裏も自販機が設置されており、私は自販機の前へ立って、飲み物を選ぶフリをした。娘がどこに居るのか姿は見えない。

下手に動かない方が良いかも。そう思ったときだった。

「動くな」と私の背後から低い声が聞こえた。

「振り向いたらコロス」と私が振り向こうとすると、その人物が背中にナニかを当てた。

この状況は・・・・・・何!?

意味がわからない。突然の出来事に驚いて、背後から物騒な言葉を言う人物に脇汗が滲んだ。振り向くのがダメなら話すのは良いの。そんなことが頭に浮かんだとき、自販機の陰から後藤くんが早足で歩き出した。

「声を出すな。出した瞬間にコロス」と背後の人物は脅した。

もしかして、後藤くんの姿を見て言っているのか?

だったら、この人物はもしかして・・・・・・

私が背後から脅されてる間、後藤くんが乗り込んだ電車は発車してしまった。そして私は一人、背後からの恐怖に震えるのだった。

第24話につづく

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