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第15話「世の中はコインが決めている」

 横浜の赤レンガ倉庫で銀次郎は木箱の蓋を開けた。木箱の中は木屑で埋まっている。銀次郎は白い手袋をはめて、木屑の中へ手を突っ込んだ。

 まるでカブト虫の幼虫を育ててるみたいな木箱。木箱の側面にはマジックで文字が書いてある。銀次郎が蓋を開けた木箱は指(R)と。

 倉庫には銀次郎の他に三人の人間が居た。銀次郎と同じように木箱の蓋を開けて、木屑から何を取り出した。一人の男が取り出したのは、人間の二の腕みたいなパーツ。そしてもう一人、女が木屑から太ももみたいなパーツを手にしていた。

「おい、傷モノがあったぜ。銀次郎さんを呼んでくれ」と男がそばに居た女へ言う。

 女は頷くと銀次郎の元へ向かった。どうやら彼らは木箱に入った奇妙なパーツをチェックしてるみたいだ。あの奇妙な謎めいた人間の形をしたモノを……

「どれどれ、嗚呼、これじゃあ商品価値はないな。まったく、運ぶときは気を付けろって言ってんだろうが」と銀次郎がパーツを見て文句を言う。

「銀次郎さん、パーツって呼ぶのはやめないか。ピースの方がしっくりくるんだよなぁ。ダメかな?」と男が銀次郎に向かって言う。

「別に構わないが、呼び方なんてお前に任せるよ。おれは商品価値が無くなるの方がキツイからな。それより人を集めなきゃ。誰か居ないか?」

「銀次郎さんは当てがあるの?」と女が質問した。

「一人な。おれは見る目がある方だろう。それに、その娘は口が固くてしっかりしてると思う。一ヶ月後には会社を立ち上げたい。それまで皆んな頑張ってくれよ」

 銀次郎の声に三人は声を揃えて返事した。彼らが扱う商品は謎だけど、ピースと呼ばれる人間の形をした商品。彼らは一ヶ月後に会社を立ち上げようとしていた。

 そして一か月後……

 一軒のスナックに銀次郎が現れた。そこでバイトして働く一人の女性。彼女の名前は絵馬。数日後、銀次郎に誘われて『名もない会社』で働くことになる。

「絵馬ちゃん、仕事が終わったらおれと付き合わない?」と銀次郎が絵馬を誘った。

「銀次郎さん、ウチはそういう店じゃないのよ。絵馬ちゃんを泣かしたら、ウチが承知しないからね」とスナックのママが注意した。

「そんなんじゃないよ。絵馬ちゃんを泣かすわけないだろう。ちょっとした頼み事だよ。心配すんなよ」銀次郎がグラスを傾けて言う。

「何かしら?銀次郎さんって、元政治家の秘書をしてたんでしょう。怪しい付き合いがありそう」と絵馬が冗談抜きで嫌そうな顔をして言う。

「冗談キツイぜ!おれは絵馬ちゃんのこと気に入ってるんだよ。悪い話じゃない。一度だけでも話を聞いて欲しいんだ」銀次郎はそう言って、電話番号の書いたメモを渡した。

 これが絵馬と銀次郎の奇妙な仕事を始めるきっかけだった。このあと、絵馬は銀次郎の誘いを受けることになる。果たして、彼女はあの奇妙なピースを見たとき、何を思ったのか……

 そして彼らの仕事とは……

第16話につづく

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