見出し画像

第74話「世の中はコインが決めている」

 今思えば何十人居る客の中で、僕がサークル仲間だと知ってること自体がおかしかったんだ。

 でも、当時はそんなこと知る由もない。

「隣、座って良いですか?」と女の子はそう言ってきたが、僕の承諾も無しに隣へ座った。

 瞬時に思ったことは、普通は隣に座らないだろう。向かい側に座るのが普通である。それでも当時の僕は人間嫌いだったけど、やはり男だったので、女の子が隣に座りゃ悪い気はしなかった。

 何故なら、まだ名前は知らないけど、目が大きくて可愛い顔をしている女の子だったからだ。ミニスカートにキャミソールという格好も男心をくすぐる。

「初めまして、二年の縁日です。一週間前に参加したんです。だから今回、初めての廃墟体験なんですよ」とエンニチと名乗った女の子はそう言って、スレンダーな身体を寄せてきた。

 初対面にもかかわらず、積極的な女の子だった。見た目だけなら歳下かと思ったけど、実際は同い年ということに驚いた。

「どうも、鳥居です。僕は一年前から参加してるんだけど、今回の廃墟が初体験なんですよ。だから、エンニチさんと一緒ですね」と僕にしてはマシな会話をした。

「へぇ、そうなんですね。鳥居くんも初めてなんだぁ。なんかドキドキしちゃう。廃墟ってやっぱり暗いのかな。怖いけど、鳥居くんのそばに居たら助けてくれるよね」

「えっ!ああ、そうだね」と僕は少しだけ素っ気なく返した。

 すると、遅れて来たメンバーが騒がしく現れた。声のする方を見て、先頭に倉木先輩と麻呂さん。その後ろで神宮寺が歩いて来た。

「おお、鳥居か!お前、やっと参加したじゃねぇか。ホントお前は、サークル活動せへんもんな」と倉木先輩が言う。

 倉木先輩は一つ上の三年生で、関西弁で喋るけど、ホントは関西の人間でもない。ただのエセ関西弁だった。

 何故、彼がわざわざ関西弁で喋るのかは謎だが。特に知りたくもなかった。

 その隣のメガネをかけた女性が同い年の麻呂露子(まろ・つゆこ)。ツンデレな女性で、僕に対して冷たい態度を取る。神宮寺に関しては自己紹介するほどでもない。

「やっほー、露子!」とエンニチさんが手を振って挨拶した。どうやら麻呂さんの友人らしい。

「おっ、君が露子の友達のかざりちゃんやね。初めまして三年の倉木や。よろしゅうな」と倉木先輩が絶好調に喋り出した。

 全員が揃ったところで、そのままファミレスで軽く食べながら談話した。と言っても中心になって喋るのは倉木先輩。隣で神宮寺がヨイショしている。麻呂さんはつまらなそうな顔をしていた。

 中々の濃いメンバーだと思いながら、一時間が過ぎた頃、倉木先輩が出発しようと舵を切った。どこに行くか説明はなかったけど、廃墟自体は初めてだったので少しだけ楽しみだった。

 ファミレスを出て、パーキングに停めた車へ乗り込む。車の持ち主は倉木先輩。もちろん運転手は倉木先輩。助手席に道案内係の神宮寺が座った。すっかり倉木先輩の子分みたいだ。

 こうして僕たちのサークル活動がスタートした。

第75話につづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?