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第111話「世の中はコインが決めている」

 時間が過ぎても辛い過去が消え去るわけじゃない。時間が続く限り付き合っていく。別れることのできない繋がりなんだろう。

「もしも、狛さんが過去を知ったとしても、彼女なら受け止めると思う。君がそばに居てあげれば良い」正論くんはそう言ってパソコン画面を見て、薄っすらと口許に笑みを浮かべた。

「話は変わるけど、店長のことなんだけど。どうやら向こうは、無かったことにしてくれそうだよ」

「どういうこと?」と僕は正論くんへ聞き返した。

「なるほど、これは面白い。世の中ってのは狭いものだな。鳥居くん、名もなき会社の秘密がわかってきたよ。会社の創立者、黄金銀次郎の正体なんだけど、彼の存在は存在してそうで存在していない感じだった。でも、彼が若い頃スナックへ通ってたこともある。だけど、実際は銀次郎という人物は謎めいていた」

「私も何度か接客したけど、確かに謎めいた人だったわね。ねぇ、もしかしてなんだけど、すでに銀次郎という人物は居ない?」とハナちゃんが言う。

「居ない?それって、ハナちゃんが言いたいことはこの世に居ない。つまり亡くなっていると言いたいの?」と僕の質問にハナちゃんは頷いた。

「死んでるか。まぁ、あながち間違いではないな。でも、黄金銀次郎は間違いなく生きている。しかも、僕と鳥居くんは会ってるよ」

「えっ!?」と僕は驚いて、正論くんの顔をマジマジと見た。

「正確には、本人と知らずに出会っていたんだよ。詳しく説明すると、会社のシステムにメッセージを送ったんだ。送り先は代表者。普通、そんな送り先へ辿り着けることは不可能だけど、僕にとっては容易い」

 正論くんの裏の顔はネット界で有名なハッカー。コードネームはコイン。そんな男が、会社のシステムへ侵入することは容易いというわけだ。

「それで、何てメッセージを送ったのよ?」とハナちゃんが訊く。

「これまでのこと。馬鹿正直に文面にして送ったよ。店長が商品を横流しして金儲けをしてること。人間をバラバラにして、新たな人間として組み立てていること。絵馬さんのことや、君の母親で二子さんの存在も伝えた」

「そこまで話したのか!?そんなことしたら、僕たちに危険が……」

「待てよ。僕だって危険な目にあいたくない。だったら、ここからはビジネスといこうじゃないか。僕は何も名もなき会社のやってることを、世間に知らせたいわけじゃない。ただし、こちらとしては返してもらいたい意思も伝えている。銀次郎さん、案外話のわかる人で良かったよ」正論くんはそう言って、得意げに耳たぶを触った。

 ビジネス?

 正論くんはどこまで本気で言っているんだ。それに返してもらうという意味は!?

「鳥居くん、黄金銀次郎の正体なんだけど。今から会いに行こう!」

「はぁ!?」

 驚くことばかりで、何て言えば良いのかわからない。一体正論くんは、何を知ったのか!?

 銀次郎の正体とは!!

第112話につづく

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