第27話「世の中はコインが決めている」
独身女性の部屋はこんなものなのかな。そんな感想だったけど、二十歳の女の子なら違った雰囲気のある部屋なんだろう。
キッチンとリビングが繋がっており、生活感のある部屋だったけど、かなり整理整頓されていた。一人用のソファにガラステーブルが置かれている。キッチンカウンターにテーブルと椅子が二脚。隣の部屋が寝室なんだろうか。スライドドアで区切られていたので、向こうの部屋はわからない。
適当に座ってと言われたので、僕は絨毯の上にあぐらをかいた。部屋に入ったとき、お香の匂いがしたので棚の上にお香セットが置いてあるのが目に入った。壁に掛けられたカレンダーをチラッと見る。パン屋の出勤日が赤丸で日にちを円で描いていた。
まさか、弓子さんの家で手料理をご馳走されるなんて思いもしなかったけど、久し振りに手料理を食べれる嬉しさはあった。
「テレビでも見ててね、すぐに作れるから。実は前もって準備してたの。いっつも一人で食事だから、二人で食べるのは嬉しいわ」と弓子さんが嬉しそうに言う。エプロンをしてキッチンに立つ姿は、パン屋さんで見るいつもの姿と変わらない。
トントンとまな板の上で包丁がリズム良く音を出す。リビングでテレビを見ながら、食事ができるのを待った。まるで妻が作る手料理を待つ旦那のようだ。疑似体験みたいだなーーと思いながら、バラエティ番組を観るのだった。
弓子さんが料理を作り始めて何分か経ったとき、皿にチーズをのせて弓子さんがテーブルに置いた。
「もう少しかかるから、それまでチーズでもどうぞ。それと……」弓子さんはそう言って、僕の目の前で赤ワインのコルクをあけた。
ワイングラスを受け取り、赤ワインを注いでもらう。弓子さんもワイングラスを傾けたので僕も赤ワインを注いであげた。ワイングラスをお互いに傾けて、チンと鳴らしてワイングラスを合わせた。
何か手伝おうかと思ったが、数分後にメインディッシュがテーブルに並べられた。ビーフシチューと木製のボウルに入ったサラダの盛り合わせ。ドレッシングは弓子さん特製らしい。
「どう美味しい?」と弓子さんが訊いてきたとき、僕はすでにビーフシチューを半分以上食べていた。言うまでもなく美味しかった。
「めちゃくちゃ美味しいです。こんなに美味しいビーフシチューは初めてですよ!」
「やだ、大袈裟じゃない。まぁ、そんなこと言ってくれるなんて嬉しいけどね。良かった、喜んでくれて。おかわりできるから言ってね」
「はい!では、さっそくおかわりしまーす」と僕にしては珍しくテンションが高くなっていた。
美味しい食事、良い意味で気を遣わない相手。楽しい時間はあっという間に過ぎていくとワインがハイボールに変わり、大胆にソファで横へ並んだ。
「暑いわね。参ったなぁ、汗っかきだから」弓子さんはそう言って、ポロシャツのボタンを外した。
ポロシャツの下がタンクトップだったので、弓子さんの身体つきがはっきりと目で確認できた。ぽっちゃり体型なのは知っていたけど、こんなに胸の大きい人だったのは知らなかった。
タンクトップ姿の弓子さんを見て、僕の視線は胸元の膨らみを見つめるのだった。
第28話につづく
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