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第19話「蛇夜」

月夜に照らされる大蛇。赤茶色の鱗は毒々しく、ブリの照り焼きみたいに一枚一枚がテカっていた。形状はごく普通の蛇と変わらない。頭部にツノ状の突起物が左右に生えている。図体がデカい割に瞳は小さく、真っ赤な瞳が怪しく光っていた。


全長何メートルあるのか?蛇夜の大群の群れからは、頭部と首回りの胴体しか見えていない。胴体周りが優に百は超えている。その圧倒的な大きさに声を失った。


蛇苺、神々しいと言うより、毒々しく思えたのは俺だけなのか。


「あんな生き物が存在してるんか?信じられへん。なあ、鍋子」と隣でうずくまる鍋子へ声をかけた。


「こ、怖い、ウチ怖いよ」と鍋子は声を震わせて言う。


あまりの怖がりように、俺たちは見つかったときを考えて、帰り道に近い方へ移動することにした。万が一のことを考えて、下山する山道の近くで隠れた方が良いだろう。中腰で草むらを掻き分けて移動する。


ガサ、ガサガサと足元で草むらを掻き分ける音がしたけど、祖母たちは儀式に夢中なのか俺たちの存在に気付かない。


儀式を後ろから観察してると、袴田のおばちゃんは掲げた布袋をずっと持ちながら動かない。他の皆んなは相変わらず土下座したままで、周りを取り囲んだ蛇夜はゾロゾロと蠢いていた。


蛇苺様は、袴田のおばちゃんが差し出した布袋を嗅ぎたいのか、鼻息を荒げて近くのだった。


「蛇苺様、今夜は綺麗な天の川が見えます。昨年は曇っておりましたので、こんな風に綺麗な天の川は見えていなかった。だけど、今年の七夕は稀に見る美しい天の川が輝いておりますわ」と袴田おばちゃんはそう言って、掲げていた布袋を地面に置いた。


「あかん!こっから見えへん」


儀式の後ろへ移動した為、背後からは袴田のおばちゃんの様子が確認できなかった。これではあの布袋の中身が見えない。肝心のところが見えなかったら意味がない。


俺が一番知りたいのは、あの布袋の中身なんだから。


「嫌や!夢川くん、ウチから離れんといて。こ、怖いねん」


「なんだよ。ここまで来て、そんなこと言うなや。平気やって、五分で戻ってくるさかい。待っとれ!」


鍋子をその場に残して、俺はさっき居た場所へ移動しようとした。背後で鍋子が半ベソをかいていた。内心、守ってやるとか言ったが、まるで無かったかのように無視しては行動するのだった。


あの布袋の中身は確実に生け贄。だったら、村の奴なのか?もしくはこの村にやって来た人間!?どちらにしても死活問題だ。この村で殺しが行われている可能性がある。


息を荒げて元の位置へ戻ると、俺は目を大きく開いて、袴田のおばちゃんを見た。


「えっ?な、何してるんや!?」


蛇苺様を拝める儀式。闇みたいな儀式で、俺は信じられない出来事を目にするのだった。こんなことが黒土山で行われていたなんて。そう思ったら背筋も凍る。


一体、何が起きているんだ!?


第20話につづく

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