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第38話「世の中はコインが決めている」

 テーブルにオムライスとコンソメスープが並ぶ。缶ビールを開けて、僕たちは少し遅めの夕飯を食べ始めた。ビーフシチューも美味しかったけど、弓子さんの作る料理は、今回も抜群に美味しかった。

 食事を終えて食後のコーヒーを出されたとき、弓子さんが今夜も泊まっていくよねーーと訊く。僕は頷いたあと、なんとなく寝室の方を見てしまうのだった。二日連続で泊まることになり、このあとのことを頭に浮かべてしまう。

 小一時間後、弓子さんがお風呂に入って来たらと言う。御言葉に甘えて、僕は先に頂くことにした。そのとき、驚いたのは僕専用の部屋着が用意されてたことだ。

 歳上の女性は気配りにかけても素晴らしい。

 洗面室に僕用の歯ブラシも立てかけてあった。いつでも部屋に来ても大丈夫ってことなのか。もしかして、弓子さんは男に尽くすタイプかもしれない。

 浴室に入って、身体の隅々まで丁寧に洗った。湯船に浸かり、寝不足だった身体を休ませる。普段はシャワーで済ませていたので、こんな風に湯船に浸かるのは気持ちが良かった。

 風呂に浸かり始めて五分ほど経ったとき、曇りガラスの向こう側から、弓子さんの人影が目に入った。瞬間的に弓子さんが入ってくると思い込んでしまう。思わず、手のひらでお湯をすくって顔にかけた。

 曇りガラスの向こう側で動いているシルエットから視線が外せない。だが、弓子さんは曇りガラスの向こう側から立ち去ってしまった。残念ながら、彼女が浴室へ入ってくることはなく、無駄に湯船へ浸かってしまうのだった。

 何を期待してるのか……

 僕は潔く諦めると、浴室を出て用意されたバスタオルで身体を拭いた。洗濯カゴの脇に用意された部屋着に着替えると、洗面所から出た。

 濡れた髪を乾かそうと、リビングに居る弓子さんへドライヤーを借りようと部屋のドアを開けた。

 だが、リビングに居るはずの弓子さんの姿が無い?そのとき、僕の背後から風の当たる感覚があった。

 なんだろうと振り向いたとき、玄関先に続いている廊下が目に入る。次の瞬間、僕の視線に廊下で倒れている弓子さんの姿が目に映った。

 うつむいて倒れている。僕は慌てて彼女の元へ駆け寄った。弓子さんを抱き抱えようとしたとき、彼女の胸元辺りから真っ赤な血が流れていた。

 な、何があった!?

第39話につづく

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