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第28話「アネモネ」

条件に従えば真相を話すと約束された。僕のアパートで、その条件は実行するのだった。芦ノ湖から戻って数日が過ぎていた。神宮寺から連絡も無くなり、カルマの死の真相は謎のままで終わりを迎えるのか。

いや、それは違っていた。何故なら僕に跨って、汗だくになりながら樹里が一心不乱に腰を振っているからだ。

僕は身体を起こすと、樹里を抱き寄せて濃厚なキスを重ねた。

「ハァ、ハァハァ、もっと激しくして」と樹里が妖艶な表情で求めた。

この情事が終わった時、僕たちはお互いに隠していた秘密を打ち明ける。きっと僕たちはカルマの死をきっかけに秘密を抱えて生きようとした。

だけど、運命は大きく変わる事になった。偶然が重なってカルマは死を持って秘密を暴いたのだ。

樹里の中へ果てたあと、しばらく裸のまま抱き合っていた。

「約束は守るから」と樹里はそう言って、布団から立ち上がるとシャワーを浴びに行く。

僕は煙草に火をつけると、深く吸い込んでから秘密を考えた。樹里は僕の秘密と共有してると言っていた。だが、何故、僕の秘密と共有してるのか意味がわからなかった。その辺のところは教えてくれるのか?

そして、カルマの死の真相は・・・・・・

時刻は昼を過ぎようとしていた。早朝からセックスをするとは思わなかった。ずっと友達だったけど、こうして僕たちは関係を持ってしまった。

恵子の顔を思い浮かべは、罪の意識が溢れ出すのだった。神宮寺と寝ている時、何も感じなかった筈なのに。

「はい、コーヒー」と樹里がテーブルに置いた。

「ありがとう」と僕はお礼を言う。

「あなたのアパートなんだから、本来はあなたが淹れるべきじゃないの。まぁ、別に良いけどさ」

「あのさ、単刀直入に聞くけど、カルマを殺したのか?」

ここまで来て、今さら無駄な前振りなんかいらない。要は殺したか殺してないのか。どっちかだろう。僕の質問に対して、樹里はコーヒーを一口飲んで済ました顔をした。

コトンとマグカップを置いて、窓からの風景を眺めるのだった。

「あれは事故だったの。それが答えよ。カルマって普通の女の子じゃなかったでしょう。君が一番知ってる筈よ。だから、カルマのことを嫌いになろうとした。だってさ、カルマは君を選んだんだもん」樹里はそう言って、僕の煙草に手を伸ばすと、箱から一本取り出して寂しそうな顔をした。

「ホントに事故だと言い切るなら、僕は秘密を話さないよ」

「良いよ。私は何も嘘はついていない。だけど、君の秘密って、君自身が知らないから教えてあげる。私と君の秘密は共有してるって、ただの願いなの。ホントは秘密を共有したいって意味なの。もう、私だけ知ってるのは辛いから。それに、やっぱり私は変わることができなかった」

数週間前、僕の目の前で見せた涙を溢しながら樹里は肩を震わせた。これから語ることはホントかウソなのか!?

真実はどうにでも転がっていく。僕は火のついた煙草の煙を目で追いながら、樹里の言葉を待つのだった。

第29話につづく

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