第65話「世の中はコインが決めている」
ファミレスを出て、僕のマンションへ向かってるとき、正論くんが驚くことを話してきた。
「サイコパス、縁日かざりのことなんだけど、実は君と別れたあと、色々と考えてね。彼女のことを逆に見張ってみようと思ったんだ」
「見張る!?もしかして、彼女は相当危ない人物ってこと?」と僕は聞き返した。
「まぁ、君の働きがあったから今回の件は助かった。僕としては借りを返したいわけだから彼女を逆に見張ろうと思ったんだ。因みに、今も彼女は僕たちを尾行してる。あ、後ろを振り向くなよ」
一瞬、振り向きそうになったので、自然なフリをしようとした。まさかと思ったけど、尾行してるのか。だが、僕を見張っていると思えば良いのだろう。
「彼女、何度も君のマンションの近くまで来てたよ。予想通りだったから、逆に僕が彼女を見張らせてもらったけどね。恐らく、彼女は証拠を欲しいんだろう。君と狛さんの関係を疑っている。でも、君はハナちゃんと楽しい夜を過ごしていたからね」と正論くんは悪意ある言い方をした。
「君が仕向けたことだろう。それで、何故君は彼女を逆に尾行しようと思ったの?」
「狛さんを守るため。それと縁日かざりの行動を把握しようと思ってね。彼女、普段は地元のコンビニでバイトをしてたよ。駅前のコンビニだった。君が駅から帰って来るのを見張るためだろう。と言っても、僕らの仕事は不定期だから、その辺は素人だね。あまり君の行動を把握してない。そこで君に借りを返そうと思って、今日は待ってたんだ」
「とか言いながら、情報も知りたかったんでしょう。全く君には頭が下がるよ。それでどうするの?」
「今日のところは君と一緒に部屋まで行くよ。僕と一緒に居るとき、彼女は行動しない。僕が君の部屋に居るとわかるだけで良い。部屋に上がるふりをして、そのまま帰るから。君は君で部屋の灯りは付けっ放しにするんだ」
「えっ、僕はどこに居るの!?」
「わかんない奴だな。君は部屋から一歩も出てないことにして、狛さんのところに居てあげな。君が守ってあげるんだ。わかったかい?」
とりあえず、正論くんの言う通りにすることにした。もう弓子さんみたいな悲劇は沢山だ。だけど、これで解決するわけじゃなかった。縁日かざりの口から殺したことを自白させなきゃならない。
そうこうしてる間にマンションへ到着した。辺りはすっかり暗くなっていた。二人でエレベーターへ乗り、僕の部屋の階へ止まった。エレベーターから出ると、正論くんは踊り場で立ち止まった。
「とりあえず、僕はここまで。君は部屋に入ったら灯りをつけて、縁日かざりに部屋へ入ったことを見せるんだ。彼女、今頃君の部屋が見える場所で観察してるはずだよ。そしたら灯りをつけっぱなしにして、部屋を出て狛さんのところへ行くように」と正論くんがさっきの作戦をおさらいするように言う。
「君はどうするの?」
「階段で降りて裏口からマンションを出るよ。あとは縁日かざりを尾行するつもりだ。すでに、彼女が見張ってる場所も把握してるからな。それじゃあ、頼んだぞ」正論くんはそう言って階段の方へ歩いて行った。
正論くんの足音が聞こえなくなるのを確認してから、僕は自分の部屋へ向かった。言われた通り、部屋の鍵を開けて中へ入ると、リビングの照明スイッチを押した。
これで今頃、縁日かざりはどこかで観察してるはずだ。
そのままの状態にして、僕は部屋を出ると狛さんのところへ行った。チャイムを鳴らすと、ドアが開いてエプロン姿の狛さんが顔を出した。
「おかえりなさい。どうだった、久し振りの仕事で疲れたでしょう」狛さんはそう言って僕を部屋の中へ招いた。
「ちょっとだけ疲れたかな。でも、お昼に作ってくれた弁当を食べたら、元気いっぱいになりました。美味しかったです。また作ってくれたら嬉しいな」と僕は弁当のお礼を言ってトートバッグを手渡した。
「良かった。毎日でも作ってあげるわよ」
狛さんが嬉しそうに言って、トートバッグを受け取った。次の瞬間、僕は先に歩いて行く狛さんを見て目を大きく開けるのだった!
第66話につづく
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