乱反射_表紙

乱反射 7.

 事件から一週間が経ったある日、二人の刑事が家を訪れた。彼らは姉の事件の担当刑事で、事件以来一度会っていた。滝川というくたびれたスーツを着ている初老の刑事と大野という背の高い若手刑事だ。彼らは事件で今分かっていることを話に訪れた。
 リビングで私たち家族は集まり、テーブルに腰かけて刑事の話を聞く。事件については滝川が説明している。要約すると、姉を刺したナイフは鋭利なナイフで、深くまで刺さっていたという。深夜に人気のない場所での犯行だったため、目撃者はいないということだ。事件現場周辺で聞き込みを行っているが、目ぼしい証言は今のところ無いらしい。犯行に使われた凶器も見つかっていない。
「申し訳ないですが、現時点ではここまでしか進展していない状況です」
 白髪が目立つ頭をさすりながら、申し訳なさそうに言った。
「いえ、警察の皆さんには感謝していますから。娘の為に動いていらっしゃいますし」
 父はすかさずフォローした。母も同調するように、首を縦に振る。
「捜査には全力を尽くして参りますので、何かありましたらまたご連絡致します」
 滝川は低い声ではっきりとそう言って、頭を下げた。隣に座っている大野も同じように頭を下げる。頭を上げた後、大野は母が出したお茶を口に入れる。すると、お茶が喉に引っかかったらしく大袈裟なくらい大きくせき込み、持っていた湯呑みからお茶をテーブルに零してしまった。
「馬鹿、何やってるんだ!」
「すみません!」
 滝川の叱責に大野は申し訳なさそうに頭を下げた。母が雑巾を持ってこようと席を立とうとしていたので、「私がするから、お母さんは座ってて」と言って、私が雑巾を台所まで取りに行った。台所にあった雑巾で私は零れたお茶を拭く。
「すみません。こいつ、そそっかしい奴でして」
 滝川は大野の代わりに詫びた。大野も「すみません」と再び頭を下げた。
 二人の刑事はまた捜査に戻るために、家を後にした。捜査はかなり難航しているようだった。二人の顔にも、どこか焦りの色を感じていた。
「思ったほど捜査は上手く進んでいないみたいね」
 姉は部屋に戻ってすぐ、がっかりしたように口に出した。
「お姉ちゃんは覚えてないの? 犯人の特徴とか」
「暗くてよく分からなかったの。確か、がたいの良い男だった気がしたけど……」
「そっか」
 私たちは二人してため息をついた。

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