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乱反射 1.

 姉の告別式が終わった後、私は両親と一緒に家へ帰り、そのまま自分の部屋に入った。そして喪服を脱ぐことなく、ベッドにばたんと倒れこんだ。どっと疲労が溜まった。それだけ私は、姉に対して激しい劣等感を抱いていたということだ。

「美月(みつき)」

 どこからか私を呼ぶ声が微かに聞こえた。この部屋には私しかいないはず。不審に感じながら、私は辺りをぐるりと見回す。でも、誰もいない。私は疲れているのだろうと自分に言い聞かせて、再びベッドに顔をうずめた。

「美月。私はここよ」

 今度ははっきりと聞こえた。しかも、その声には聞き覚えがあった。女性としては少し低めの落ち着いた声。うんざりする程に聞き慣れたその声は、今は決して聞こえてはいけないはずの声だった。私は声のする方へ振り返る。そこには、黒髪のショートヘアーでパンツスーツを着ている私より少し年上の女性が立っていた。殺されたはずの姉、真野香月だった。

「お姉ちゃん? どうして、ここにいるの。死んだはずでしょ?」

 本来いるはずの無い人間がそこに立っている。にわかに信じがたい光景に私は困惑した。

「やっぱり、あんたには私が見えるのね」

「見える? 何を言ってるの」

「美月の言った通り、私はナイフで刺されて殺された。でも、私は成仏出来ずにここにいる。どうしてか分かる?」

 姉の質問に私は首を横に振った。その答えを導き出せるのであれば、最初からどうしてここにいるのかなんて聞いていない。

「私を殺した犯人を捕まえるためよ」

 姉は冷たく乾いた声でそう言った。その声は犯人に対する強い憎悪を無理やり抑えているような声だった。

「犯人を捕まえるって、どうやって? そんなの、警察に任せれば良いじゃない。お姉ちゃんがどうこう出来る問題じゃないわ」

 今更死んだ人間に何が出来るというのだ。いくら姉でもそんな事は不可能だ。

「だから、犯人捜しを美月に協力してほしいの」

 やはり理解出来ない。私ごときに何か出来るはずが無い。私はそう思いながらも、姉に聞いてみる。

「私に一体どうしてほしいの?」

「聞き取り調査とかをして、事件の真相を暴いてほしい。被害者の妹っていうポジションを有効に使えば、多少なりとも有力な情報を掴めるはずよ」

 私に拒否をするという権利を行使することは出来ない。姉はいつも私が断れないような雰囲気を作って、自分の思うがままに私を動かそうとする。私は姉のそんなところが昔から気に入らない。まるで姉妹では無く主従関係のようなものに感じてしまうから。

 私はしぶしぶだけど、姉の頼みを断れずに了承した。姉はこれからずっと私と一緒に行動したいらしい。こうして、幽霊になった姉との奇妙な生活が始まった。

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