映画レビュー「アギーレ 神の怒り」~野心家の絶望的な遭難譚

南米ジャングルにあると伝えられた黄金卿を探し求めて密林の奥深くへと入り込み、破滅していくスペイン先遣隊の物語。
ヴェルナー・ヘルツォーク監督作品。


とても「ジトッ」とした映画。
霧深い南米ジャングルを歩く軍隊の列を俯瞰で捉えたファーストシーンからして、とてつもない湿気を嫌でも感じさせられる。

歴史もののように見えるかもしれないが、どちらかといえば「遭難もの」といった方がよい。
それも、最初から救いようのないラストが誰の目にも明らかというタイプのもの。

なぜ彼らが破滅しなければならないのか。
そのもっとも大きな原因は、怪優クラウスキンスキー扮する主役、アギーレ副隊長。
底抜けの野心を抱くこの外道はまだ見ぬ黄金卿をわが物にせんとするため、
策略を弄して邪魔な人物たちを陥れていく。

そのような人物が率いていることもあって、実行される手段は悪手ばかり。
八甲田山のごとくドツボにはまっていき、どんどん地獄へと落ちていってしまう。

それでもアギーレは野望を捨てさらず、自分から破滅に向かう。
その救いようのない言動と狂いきったさまが、とてつもなく見ごたえあり。
これぞまさに破滅の美学。

一般的なエンタメとして見た場合、登場人物の誰一人にすら感情移入がしづらく、娯楽としての基準を満たしていないとすら判断されない映画だけれど、それでもこの映画には引き込まれてしまう。
南米の広大な自然の中、人々が多種多様に破滅していく様はグロテスクながらも魅力的に思える。

そういった意味でも、本当にジトッとした映画。

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