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ハラカドマジヤバイ

原宿なんて金輪際縁がない場所だと思っていた。
なにせ人が多いし、街は目まぐるしく変わっていくし、なんだかオシャレな空間が多くて苦手なのだ。

最近明治通りの交差点に新たな商業施設ができたということをニュースで知った。「ハラカド」というその施設は、よくわからないお店がたくさん入っていて、行くことはないだろうと思っていた。

しかしフロアマップを上から見ていくと、地下二階に一店舗だけひっそりと隠れているお店に僕の目は奪われた。その店の名前は「小杉湯」。原宿の最新商業施設の中に銭湯を入れてしまうなんて、中々面白いじゃないか。

だが油断してはならない。これはきっと代理店が「最近の若者のサウナブームに乗っかって、銭湯とか作ったら流行るしおもろいんじゃね〜」という悪ノリで作られた俗的施設なのだ。多分入ってみたら銭湯のいろはも知らない奴らがうじゃうじゃいて、全く落ち着かない空間なのだ。(まるで老害みたいな思想だな)

そもそも原宿に行くことがないので、興味を持ってはいたものの小杉湯に訪れることはなかった。しかしとある理由で代々木公園を走ることになり、近辺のランステを調べていると、サジェストで小杉湯が出てきた。

ランステとはランニングステーションの略称であり、走る前に着替えてから荷物を預けて、走り終わったらシャワーを浴びられる施設である。皇居周辺には多く存在するが、それ以外にはあまり目にしない印象だった。最近では銭湯がランステ機能を提供する流れがあるようで、小杉湯もその一環でランステとして使えるようだった。

夏は暑いので、早くても19時ぐらいから走り始めるようにしている。その日、僕は18時半ごろに原宿に到着し、そのままハラカドへ向かった。汗が噴き出すほどの暑さだったが、さすがは最新商業施設、中に入ると恐ろしく涼しかった。

事前に調べた情報では、アンダーアーマーのアプリに無料登録しておけば、ランステロッカーの使用が無料となり、さらにはバスタオルのレンタルも無料になるということだった。つまり普通の銭湯の入浴料550円でランステ機能を使えて風呂にも浸かれるというのだ。皇居周辺のランステではシャワーのみの使用だけでも、ランステロッカーを借りるだけで1000円弱くらいは普通にかかる。このコスパの良さには衝撃を受けた。

案内を受けてから脱衣所で着替えてから代々木公園へと向かう。ランニングウェアで原宿の街並みを歩いているのは、なんだか不思議な気分で心地よかった。公園内のランニングコースは1周約1.7kmなので少し短いが周回しやすいコースだ。普段から11kmほどを走っているため、この日も約6周してから小杉湯へ帰った。

こんなコスパがいいのだから、かなり混雑していて順番待ちしたりするんじゃないのかと考えていたのだが、そんなこともなくすんなりと入浴することができた。しかも意外にも人が少ない。地下二階にひっそりと隠れているからか、原宿にいることを忘れてしまうぐらい人が少ない。

人が少ない理由の一つとしてサウナがないことが挙げられる。そもそも入浴スペースは結構狭いため、サウナを作ることは難しかっただろうが、もしサウナを作っていたら回転率は酷く下がるが人気は上がってしまうため、ものすごい混雑が予想されただろう。僕自身もサウナが好きなので、サウナがないのは複雑な心境だった。しかし小杉湯はおそらくそんなサウナラバーズの気持ちも汲んでくれているのだろう、程よい温度の水風呂を用意してくれた。サウナはなくとも、水風呂だけでもあれば温冷交互浴ができる。あつ湯であればサウナよりも効率的に温まることができるため、長居をしないで済む。満足度を落とさずに回転率を上げるという工夫が感じられた。

水風呂をつけてくれたことはありがたがったが、さらに嬉しいポイントとしてシャンプー、リンス、ボディーソープだけでなく洗顔なども備え付けで置いてくれている。ランステとして利用する人は、着替えや靴を持っているため荷物が多くなる傾向にある。備え付けでシャンプーや洗顔を置いてくれているのは、ランナーからしてとても嬉しく感じられた。

浴場から上がり、着替えを済ませて外に出ると缶ビールの販売があり、思わず手を伸ばしてしまった。靴を脱いでくつろげるスペースもあり、疲れた身体にアルコールが染み渡った。ここにも疲れたランナーの足を癒すための工夫がなされているように思えた。

このように小さな心遣いが随所で感じられて、身体も気分もリフレッシュすることができた。代理店の安直なアイデアで作られた銭湯だと考えていた自分が恥ずかしくなり、感謝の思いを心の中で呟き外に出た。

外の原宿はまだ蒸し暑く、人が多くてやっぱり苦手だと思ったが、原宿にもお気に入りの場所を見つけられて少しだけ好きになれた。


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