音の呼吸の使い手、橘川幸夫インタビューから考えたこと
先のGW、地元の仲間にキレられたことがある。
「お前、なんで俺たちみたいな話、しねぇんだよ!」
「は?」
「なんだよ『俺たちみたいな話』って?」
「ずっとお前らと話してただろ、今日だって」
「そうじゃねぇ!」
「分かんねぇヤツだな、テメェは」
「聞いてなかったのかよ?」
「まずな、」
「俺が今日、何を話したか言ってみろ!」
「自慢話と女の話だけじゃねぇか」
「そういう話なんだよ! バカ!」
「は?」
「だから、そういう話をしろって言ってんだよ!」
「はぁ?」
僕は今まで、自慢話とか女性の話とかは、してはいけないものだと思っていた。してもどうせウケないだろうと。
子供の頃、先生から「自慢話ばかりしていると、嫌われるよ」と言われたし、実際、自慢話ばかりして嫌われたことも多々ある。
女性の話も殆どしてこなかった。下衆な気がして、人前で話すことではないと感じていた。下ネタばかり話している友人が嫌がられるのも、しばし見ている。
だから自慢話とか女性の話は意識的に避けてきたし、そんな話を『しない』からキレられるなどとは、露ほども思っていなかった。
番長の話は、だから衝撃的だった。
小学生を教えていても「コイツは格好いいな」と思う生徒がいる。腰を落ち着かせ、目を据え「俺はこう思う」と独自の見解を話す奴だ。
「敵わんな、コイツには」と思うこともあるし、年齢に関係なく「仲間にしなければ」とも思う。正直、ガリ勉だったこちらの方が勉強になったとも感じる。思わず、上品さとは程遠い「本当の話」をしてしまうことすらある。
昨夜、音楽雑誌『Rokin'on』を作った橘川幸夫さんに、30分のショートインタビューをさせてもらった。
古今東西の哲学や天才的な発想、未来学者としての先見の明など、学ぶべきところは多々ある。どこが一番好きかと言えば、彼の腰が据わっているところだ。橘川さんと話すと人間関係のコツを少しずつ掴んでいる気がするし、人間に戻るコツを掴める気もする。
僕が瞑想指導をしていただいているタイ国タンガマーイ寺院を作ったのは、プラ・モンコンテープムニー大師という方である。
大師はこう述べた。
橘川さんが人間関係を語るときも、「留まること」を強調する。静止すること、腹を据えること、人間に戻ることを伝えたいのだと思う。
実は『Rockin'on』誌に掲載された彼の文章には、音楽に関するものが極めて少ない。「そんなことはない」とおっしゃるが、実際には哲学の話ばかりだ。
昨日は、それを指摘させていただいた。
「周りに逆らったんだよ」
「俺はさ、レコードの系譜なんかには興味がない」
「ガツンときた自分に関心があったんだ」
「ジャニスを聞いてガツンと来た自分自身、主体的に衝撃を受けたところだ」
「単なる音楽の紹介じゃない」
「ロックそのものの衝撃を語る雑誌にしたかった」
「それが、俺の目指す『Rockin'on』なんだよ」
経営学の神と言われたP.F.ドラッカー。彼に『日本画の中の日本人』という論がある。
「学会で日本人と会うと、西欧の行き過ぎた競争や凄まじい個人主義との対比を凄まじく感じる」
「しかし絵画において、西欧画ではヘレニズム、ロマネスク、ゴシックなど、学派のまとまりを語るけれど、日本画は恐ろしく個人主義的でバラバラだ」
「日本人は羽目を外す」
「日本画家は破門された後も、元の師匠らと密に関係を保ち、共作している」
「狩野山楽、俵屋宗達、尾形光琳」
「彼らもそうだが、、」
「日本人は集団に順応しても、個々人でとてつもなく羽目を外す」
「右の三人も、あり得ないほどの派手な作品を作った」
「それもまた彼ららしい」
「西欧人は枠組みに関心を持つが、日本人は個の発露の仕方、そちらに関心を持つのだ」
ドラッカーの妻ドリスが語るように、そんな破茶滅茶にも思える日本画を見て、ドラッカーは正気を取り戻していたという。橘川幸夫がロックを聞いて自らを探ったさまと何か似ている。
「アルファベットは意味を記述するために生まれたけれど、五十音表は音を記述するために生まれた。中国の表意文字とも違う。表意文字も意味を記述するのだ」
・質素と絢爛
・男性優位(仕事)と女性優位(家庭)
・甘やかされた子供時代と、規律教育の学生時代
・音の言語(あいうえお)と、見た目の言語(漢字)
日本を知るためには、そんな極を知る必要があるとドラッカーは記述する。
橘川幸夫は「深呼吸」を語る。
自慢話や女性の話をしないことも大切だろうが、同時にせねばならない。両極に振れることで、自身の留まるべき重心に帰るのだ。呼吸のように。
西欧は「吐くか、吸うか」だが、日本は「深呼吸」をする。そして、これがおそらく橘川幸夫の感じたロック。
ロックとは世界を統べる術ではなく、リズムから哲学を見出す「人を作る術」。すなわち、深呼吸なのだろう。
彼は処女作でそう語った。
人は人に戻る必要がある。自慢話も女性の話も、何もかもを腹を据えて話せばいい。
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