『21世紀の資本』に格差の原因を探る
今更ながらピケティの”Capital in the twenty-first century“を読んでいる(邦訳『21世紀の資本』)。 原著はフランス語だから「英語で読んだからってなんだ」という話だが、兎にも角にも格好つけたいお年頃なのだ。許してほしい。
2014年の刊行で、明けた年の正月に指導教官が本書の話をしてくれた。落ち着いたアカデミックな雰囲気が流れる独特の空間。大学とか大学院とかいうものには、どういう訳かとてつもない魅力がある。
『21世紀の資本』は、広がり続ける格差、そして富の分配について述べられた書。
この書籍に興味を抱いたのはEテレの100分で名著で、今をときめく斉藤幸平先生が触れていたためだ。
1800年半ばの産業革命以来、世界の資本は加速度的に増加した。
ケインズはこんな富の増加を勘案し、「2030年には人は週15時間働けばよくなる」「問題は貧富ではなく余った時間をどう利用するかとなる」と、予測した。もちろんこの大経済学者の予測は、まったく的外れなものになりそうだ。
しかしなぜ、富がここまで増大したにもかかわらず人は貧しいのか。モノが増えれば人は楽になるはずではないか。私はそんな疑問を抱いた。
人間を支えるものは富ではないのかもしれない。拡大する格差に見られるように、富のほとんどが一般に分配されず独占されているのかもしれない。経済学者は当然後者について考えているわけだ。
「その答えが、” r > g ”というピケティの導き出した数式にありそうだ」。ある本からそんなヒントを得た。しかし完全には納得できなかったがために、原著にあたることにしたのだ。
ピケティの著作は冒頭からエレガントだった。そこにはフランス人権宣言をひき、「格差は必ず普遍から導かれる」との警句が置かれていた。
グローバル化や、世界の価値基準を一元化したマネーという基準、論理やエビデンス本位の研究、一元化教育。これらすべての人類の遺産は、人を格差の檻へと陥れる罠だったのかもしれない。
「普遍を目指してしまった世界は、格差からの呪いを免れない」
そんなことが頭を駆け巡る。
そのあとには丁寧な文献研究が続いている。一般書では毛嫌いされるだろうが、思慮深い筆致にため息をつくほどの感銘を受けた。
文献研究でピケティは、「需要と供給の理論は不完全である」「考え直さねばならない」と驚くべき指摘をしている。
受給曲線は中学校の社会科でも学習する経済学の根幹。価格が高ければ会社はモノを売りたいけれども購入する人が少なく、価格が安ければモノを購入したい人は多いけれども会社は売りたいと思わない。だから価格は自然に均衡するという考え方だ。
しかし、これが生活必需品だったらどうか。古典経済学の完成者と言われるリカードは、土地について興味深い考察をしている。
都市部で土地が足りなくなると値段が高騰する。住むことができねば生きてはいけないのだから、高価格でも買わざるを得ない。石油でも同等のことが起こる。
もちろん郊外に住む人も出てくれば、車ではなく自転車通勤をする人も出てくる。しかしその場合でも資本家は郊外の土地を買い漁り、自転車を独占販売するだろうとピケティは言う。
資本が資本を呼ぶ資本主義である。
このときの受給曲線は、上の図のように均衡から離れる方向に動くのだ。
図の横軸が「数量」を示している点にも注目していただきたい。すなわち富や資本が増大しても、価格もまた上昇してしまうがために、人の手に品物が届かなくなってしまう。
富が増大しても貧困が拡大する。
受給曲線の反発はそんな構図を作る。これは生活必需品、だれにとっても必要なもの、普遍的価値をもつものが増えれば増えるほど起こりやすい。
スマホ、インターネット、車、学歴。
高度化する社会の中では、普遍的商品もまた加速度的に増加せざるをえない。
「格差は必ず普遍から導かれる」
我らは、普遍性を追求すれば世界を平和に導くことができると考えてきた。しかしマルクスが言うように、普遍主義・資本主義によって労働からは意味が失われ、ブルシットジョブと言われる「クソどうでもいい仕事」が巷に溢れるようになった。
普遍教育・偏差値教育は自らの視座を見失わせた。多くの人が自分がなにをなすべきか、そんな個人的価値を喪失してしまっている。
普遍的な価値ではなく個人的な価値はなにか?
かつてない不安が世の中を覆っている世では、どんなに笑われても貫き通さねばならない個人的価値の発見が求められている。それが受給バランスを均衡に導き、格差を解消させるのである。
この問題は、エフェクチュエーションという新しい起業理論が担うことになる。
つづきます。
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