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蟻のお墓

子どもの頃に不思議な体験をした方は多いだろう。

他の人には見えない友達がいた。
真夜中に突然起きて外に飛び出して行った。

それは子どもの数だけあるだろう。でもその多くはもう不思議でもなんでもなくなっている。
上記の例で言えば、イマジナリーフレンドであり夢遊病だ。

そんな僕も子どもの頃に不思議な体験、というか現場に遭遇したことがある。そしてその不思議は、今なお解明されていない。

小学校低学年の時、住んでいた長屋の前は駐車場であった。そこでいつも近所の子と遊んだり、一人でボール投げをして遊んだりしていた。

その駐車場には、隅の方に長い溝があった。ゴミや泥がよく溜まっていたが、そこで人形を戦わせていたり、宝物を隠したりと、なかなか子供心をくすぐるスペースだったように思う。

ある時、その溝にお菓子を一つ落としてみた。というのも、これもよくある遊びで、時間が経てば蟻の大群がやってきて、そのお菓子を巣に運び出していくのだ。

僕はそれを見るのが好きだった。なんと暗い子ども時代。別に虐められたりなどはなかったが、今で言う「陰キャ」だったのだろう。

さて、その日もある程度時間が経ってからお菓子のあった所へ目をやると、いつもより蟻の数が少なかった、というかお菓子をほぼスルーしていたのだ。その事に僕は思い当たることがあった。

お菓子を落とす前に、巣から出てくる蟻を、理由なく潰していたのだった。子どもの無垢な残虐性というものだ。もちろん今も昔も褒められたものではない。子ども時代に戻れるなら、そっと手を出し止めていただろう。

そこには大量の蟻

もしかして…と思い、なんだか蟻に悪いことをしたなぁと、小さな罪悪感の萌芽が見られた時、ふと蟻の巣の横に大きな石があるのが目についた。

元々あったのだろうか、記憶が定かではないが、いつもと違う雰囲気をその石から感じとった僕は、ほとんど無意識のうちに、その石を持ち上げてみた。するとそこには、

綺麗に並べられた、大量の蟻の死骸があった。

「~……!!!!」

声にならない声をあげたように思う。しかし、なぜだかそこからしばらく離れられなかった。

縦横均一に並べられた蟻の死骸。それは現在進行形で進められていた。
巣から運び出される者、運び出す者、位置を整える者、整えられる者。
規則正しく動く有様を、じっと見ていた。目が離せなかった。

落としたお菓子に群がる蟻はいなかった。

これが僕の子どもの頃の不思議な体験だ。
親に話してみたが信じてもらえず、その場所には次の日にはもう何も無く、石も無くなっていた。

僕が見たのはなんだったのだろうか。
いたずらに命を奪う、生殺与奪の権利を持つ者に対しての、弱者からの警鐘だったのだろうか。

並べられた蟻たちは、どこに行ったのだろう。

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