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執念の雪合戦

高1最後の学年行事として、泉ヶ岳スキー場で合宿があった。もちろんこれは、陸上部という単位ではなく学年全体の行事なのたが、聖多との絆が非常に深まることとなった。

俺と聖多は、この行事の実行委員だった。正確には俺と女子1人がクラスの実行委員で聖多は助っ人として入ってもらったという位置づけだった。

別に俺はこの行事の実行委員をやりたかったわけではなかったが、余ってたからやったという感覚だった。しかもこれを決めたのは、入学して間もない4月だったため、俺は自分がこの実行委員であることもすっかり忘れていた。

2月くらいから、この実行委員としての活動が始まった。クラスは違ったが聡汰もこの実行委員だった。

最初の集まりのときに、クラスごとに自由時間が与えられることを伝えられた。要は、クラスの最後の思い出として、ゲームなど何かイベントを行うということだ。

俺は「まじで最悪だー」と思った。なぜなら、うちのクラスは男女の仲が良くないし、クラスで何かやるなんてまず盛り上がらないだろうなと思ったからだ。

翌週、ホームルームの時間を使わせてもらい、実行委員の3人で教卓に上がった。そして、クラスごとにイベントを行うことを伝えて、聞いてみた。

「何かやりたいことある人ー?」

もちろん雰囲気的に意見なんて出るはずがない。それどころか、男子はふざけて話なんて聞いていない。女子はそれにあきれているような状況。洋太郎や新沼はいきなり立ち上がって「ザッツオール」と叫ぶ遊びを始めた(笑)

そんな中、梅岡あたりが「雪合戦とかでいいんじゃね?」と意見を出してくれた。この後意見は出ることなく、俺たちのクラスは雪合戦をすることになった。

もう本当に地獄だった。人前で話すのも嫌だし、しかもこんな雰囲気で。

とりあえず雪合戦をやることになったのだが、どういうルールでやるかなど課題は山積みだった。


スキー教室直前のホームルーム。
この日、クラスのみんなにルールなど当日の流れについて説明する必要があった。

当日のことは、まだ何も固まっていなかったので、もう俺が決めるしかない。聖多はあくまでも助っ人として手伝ってもらっているので頼るのも申し訳なかった。

ホームルーム前日の夜。
俺は一人で家の机に座って雪合戦のルール考えていた。全くいいアイディアが思いつかず、頭を抱えていた。こんなにひとつの問題に粘り強く取り組んだのは、人生で初めてだったかもしれない。

時計の針が24時を回った頃、ふとアイディアが降ってきた。

■お互いの陣地に旗を置いて、それを取ったら1ポイントとする
■雪を当てられたら自分の陣地に戻ることとする
■審判は担任にお願いして時間も計ってもらう
■男女混合で4チームくらい作ってトーナメントにする
■優勝チームには景品をあげることにする

今思えば、誰でも思いつきそうなものばかりだが当時の自分にとっては渾身のアイディアだった。なぜこのような考えがいきなり浮かんで来たのか分からない。少し不思議な体験だった。

とりあえず、この執念で導き出したルールを紙に書き出し、翌日クラスのみんなに配った。

スキー教室直前の週末。
俺は聖多と当日必要な、旗や景品のお菓子などを買いに行った。なぜか紘太くんも来てくれていた。

俺は何をするときも陸上部と一緒だ。

俺と聖多は予算など考えずに買ったため、結局担任が自腹を切ることになった(笑)
(すみません、ありがとうございました)

そして迎えたスキー教室。
初日の夜がクラスごとにイベントを行う日程だった。
雪合戦の時間が始まる直前、俺と聖多は不安で不安でいっぱいだった。
(盛り上がらなかったら、どうしよう...)

冗談抜きで、2人で神にお祈りをした。
(どうか上手くいきますように...)

そして、雪合戦の時間が来た。
確か最初に俺がクラスのみんなにルールの説明をしたと思うが不思議とここらへんの記憶があまりない。

いざ、雪合戦がスタートすると予想以上にみんな楽しんでいた。単純にスコアを競うことに夢中になっている人もいれば、雪玉を投げることに夢中になっている人もいて、とにかくみんな楽しんでいた。もちろん俺も聖多も体を張って楽しんだ。

確か1〜2時間あったと思うけど、本当に一瞬で過ぎ去った。俺はもっとやっていたかったくらいだ。

1年C組は、当時の陸上部の俺らの学年に似ていたと思う。男女の仲が悪い訳ではないないけれどお互い会話が少なくて、でもいざというときにはまとまるみたいなところが。

この実行委員により得られた小さな成功体験は、少しだけ自分に自信をつけさせてくれた。この経験が陸上部での活動にも役立つとはこのとき思わなかったが...


俺は3年間の中で、この1年C組が一番好きだった。男子が本当面白い奴らばっかりで。だんだんクラスが一つになっていたが、この行事の後、進級とともにこのクラスは終了を迎えた。

これと同時に、俺と聖多にとっては共学クラスでの高校ライフも終了を迎えた(笑)

聖多とは、この実行委員での話を振り返ったことはなかったんじゃないかな?
聖多がいなければ、この雪合戦は成功していなかったと思う。いろいろ手伝ってくれて本当にありがとう!!

これまでの自分は何事もどこか他人に任せてばかりだったし、常に誰かの後ろを歩いているような人間だった。そんな中、今回の実行委員は様々な状況が重なり、自分が責任を持って最後までやり抜くことを決心した。

今振り返ってみると、全て一人で抱え込んでいて精神衛生上はあまりよくなかったなとも感じるが、そういう経験も時には大事だと思う。

こんな実行委員なんてやらなければ良かったと何度も思ったが、「絶対自分がなんとかする!」という気持ちがあればどんな状況であれ、活路は見出せるということを学べた。


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