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意図せずダイエット

今、うちの最寄り駅には、期間限定で『駅ピアノ』が置かれている。アップライトの普通のピアノである。音響が良い場所とは言えないが、地下に置かれているせいかまあまあ残響もある。
先日通りかかった際、たまたまとても上手な方が弾いてらして、耳福であった。リズム感抜群、ピアノの鍵盤を下まで押し切るようなタッチで、迫力満点だった。もしかしたらプロだったかな?と思う。勿論、最後まで熱心に聴いて、拍手喝采した。
曲目は『A列車で行こう』。ジャズの名曲である。
彼の演奏はまるでドラムやベースが聴こえてくるようで素晴らしく、とても楽しいひと時を過ごさせて頂いた。大感謝である。

吹奏楽でもこの曲はよく演奏される。私も大好きな曲の一つだ。
が、残念なことに、ジャズの名曲を吹奏楽にアレンジしたものは大体ノリが悪く、ダサい音楽になりやすい。どうしてなのかな、といつも不思議に思っている。

話は変わるが、私は楽器を吹くと大体において体重が減る。二時間吹くと、バスクラリネットの時は約2.5㎏、普通のB♭クラリネットで2㎏、E♭クラリネットで1.5㎏くらい減少する。
腹式呼吸を必死こいてするからなのだろうが、同じ楽器をする友人に言うと笑われる。夫には「吹きすぎやろ」と言われるのだが、原因はよくわからない。
幸か不幸か、体重は翌日には戻るのでダイエットにはならない。が、バスクラリネットの時は例外で、3日ほど回復にかかる。

特にしんどいのが『ウオーキングベース』の演奏をする時である。
『A列車』などのジャズの曲では多くの場合これを演奏しなければならない。これが死ぬほどキツイ。
ちょっと聴くと装飾音も細かいパッセージもなく、ただ文字通り歩くように淡々と音を並べれば良いだけなのだが、切れ目がないため延々と息が継げない。こういう時は「カンニングブレス」と言って、同じパート内で息継ぎの場所を意図的にバラバラに作り、聴いている人がわからないように音を犠牲にして交互にブレスする。でないと酸欠で死にそうになるからである。
ジャズにおいて指揮者は最も要らないパートだと思う。代わりにその役割を担うのは低音部隊。バスクラリネットも勿論その一員である。だからウオーキングベースをやるときはテンポキープにも神経を尖らせる。
気が抜けないしんどさと、息のしんどさで、楽しむどころではない。

マーチの時もバスクラリネットはしんどい。
ジャズと同じく単純な譜面運びながら、低音部隊は指揮者よりも重要なパートになるので、気が抜けない。
途中でTorioなどの流れるような旋律が入ってくることも多く、少し休憩できたりすることもあるが 基本的にはゼーハー言うことになる。下手するとバスクラリネットの場合は、この旋律を吹かされることもある。つまり休憩なしである。こういう時は作・編曲者が恨めしい。
カンニングブレスをしてもしんどい。体重は勿論激減する。立って吹きましょう、なんて言われようものなら、全力で拒否したい。

このジャスとマーチが融合したとんでもなくしんどい曲が吹奏楽にはある。
『SOUSA’S HOLIDAY』という、故・真島俊夫さん編曲の曲だ。『星条旗よ永遠なれ』という有名なマーチをジャズ風にアレンジしたものである。
何年か前の演奏会でアンコールに切望する声が団員からあり、演奏した。
この曲は各パートが段々立っていき、最後は全員が立った状態で演奏することが多いようで、うちの楽団もそれをやった。
ただでさえキツいマーチがジャズアレンジになっているから、息のしんどさは普通ではなかった。おまけに最後は超速のウオーキングベースを立って演奏する。木管低音の面々が次々と息絶えていく。その屍を乗り越えて曲を演奏し終え、終演した時には椅子に倒れこむように座ってしまった。
聴くのは楽しくて大好きだけど、正直もうバスクラリネットで吹くのは二度とごめんである。

この演奏会終了後に図ってみたところ、体重は4キロ近く減っていた。
内2キロはアンコールのせいだった、と思っている。
普段からの息の鍛錬が足りない、ということだろう。いかんいかん。
練習しないと。