三色ひたし
私は小学校高学年になるくらいまで、給食の時間が物凄い苦痛だった。母に
「給食あるから学校行きたくない」
と言ったことも何度もあった。
嫌いなメニューの日に、全身に原因不明の酷い蕁麻疹を出して、食べずに早退したこともある。
その日のメニューはスパゲティミートソースだった。そんなことまで覚えているなんて、よほど嫌だったのだと思う。因みに他の子達には大の人気メニューだった。
家では美味しく食べられるスパゲティだったが、給食だと麺が短く切られているのと、柔らかめに茹でてあるのがどうしても嫌だった。先割れスプーンでの食事だったからしょうがなかったのだと思うが、そういう細かい所に妙に拘り、強く抵抗を感じてしまうのが当時の私だった。
当時は土曜日も授業はあったが、給食は金曜日までだった。だから土曜日は安心して?学校に行くことができた。
少ないながら、好きなメニューもあるにはあった。フランクフルトや、春雨サラダ、うどん、カレーなどは楽しみだった記憶がある。その頃はご飯給食はまだなかったが、味噌汁も結構好きだった。三月三日に出される菱餅の形をしたゼリーや、クリスマス近くなると出るちょっとしたケーキっぽいもの、プリンなど、デザートの類は言うまでもなく大好きだった。
特に葉物野菜の苦手な私は、野菜メニュー全般が苦手だったのだが、中に一つだけ例外的に大好きなメニューがあった。
『三色ひたし』という、サイドメニューである。
記憶はおぼろげだが、材料はキャベツ、人参、と何か。『三色』だから多分もう一種類違う色味の野菜が使われていたのだろうと思うのだが、どうしても思い出せない。
味付けはかつおだしの効いた薄い醤油味だったと思う。胡麻が散らしてあって、とても美味しかった。
昔から切り干し大根の煮つけやたくあんの醤油煮など、お婆さん好みの料理が何故か大好きな子供だったので、こういう純和風な味付けを美味しいと感じてしまったのだろうと思う。
野菜メニューだといつもは、『多く盛られませんように』と祈るような気持ちで盛りつけてもらうのを待っていたのだが、三色ひたしの日だけは、ちょっとでも多めに盛りつけてもらいたくて、ワクワクしていた。
小学校を卒業して、給食とは無縁になり、大好きな三色ひたしを食べることもなくなってしまった。母に「ウチでも作ってよ」と何度かリクエストしたものの、具体的にどんな味かは言葉で伝えるのが難しく、結局家で三色ひたしが供されることはなかった。
結婚して自分でおかずを作るようになると、あの美味しかった三色ひたしをもう一度食べたくなった。ネットで色々調べてみたものの『そう、これよこれ!!』というレシピには今日までついぞお目にかかれずにいる。
似たようなレシピは沢山載っている。が、あの感じのはない。
私がもう少し女子力の高い、お料理に関心の深い子供だったら、材料をしっかり覚えていただろうが、生憎食べる方専門だったので記憶は曖昧だ。残念なことである。
何故三色ひたしだけ、あんなに好きでモリモリ食べられたのだろう。未だに不思議である。
キャベツなんて、嫌いなものの筆頭であった。人参も生は苦手だったのに、三色ひたしの人参はちょっと皮が残っていたって平気で食べていた。
三色ひたしを食べる時の私は『野菜の食べられないダメな子』ではなく、『なんでも食べられる良い子』だった。そんな自分がちょっと誇らしく、嬉しい気分だった。
それもこのメニューが好きだった理由の一つかも知れない。
給食と言うと、なかなか時間内に食べきれずにべそをかいた思い出ばかりが浮かぶが、いくつかのメニューと共に『美味しかったなあ』と思える三色ひたしは私にとってとても懐かしい、もう一度食べたい味なのである。