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静かな裏庭

ウチの裏庭は非常に日当たりが悪い。土壌は粘土質で、常にべちょべちょとぬかるんでいる。これでは何を植える気にもならない。
紫蘇とかニラや、ミントなどのハーブ類なら植えても大丈夫そうだが、植えたいと思わないものを無理に植える必要もない。
何かを置こうにも、下がぬかるんでいるので厄介である。
これまでの住民も苦労したと見えて、この庭には煉瓦を並べた痕跡もあるし、ミントや紫蘇も勝手に自生している。多分みんな上手く行かず、放置してしまったものと思われる。

こんなどうしようもない土地でも、雑草は生えるし育つ。「雑草と言う植物はない」そうだが、勝手な人間の方から見るとやっぱり『雑草』でしかない。ハルジオン、ヒメジョオン、ハコベ、タンポポ、ヘクソカズラ、カタバミ・・・などなど雑草図鑑に載っていそうなありとあらゆる草が生えている。
ハルジオンは地面にペタっとへばりつくので、上手く抜けない。大抵数枚の葉を残してしまう。ヒメジョオンの花は可愛らしいが、背が高いのが厄介だ。花が咲くころは腰くらいの高さになっている。抜きやすいが、嵩高い。ハコベも除去はし易いが、拡がるのが半端なく早い。ちょっとでも見かけたら抜くことにしている。タンポポは根が深い。途中で切れてしまう。根絶は至難の業である。
ヘクソカズラは草花の名前とは思えないくらい酷いネーミングだと思うが、千切ると名前の通りの悪臭がする。手につくと難儀である。生命力が強く、どこまででも蔓を伸ばすので、駆除がなかなか追いつかない。
カタバミはなるべく花を摘む。放っておくと六角柱のような形をした種の袋が出来るが、コイツがはじけるとかなり遠くまで種が飛び散るらしい。これも根を完全に取り去るのが難しい。花は可愛らしいが、あまり歓迎できない植物である。

こ奴らを密生させて放置しておくと、ウチの裏庭が蚊の住処になってしまうので、時折重い腰を上げて駆除している。酷い時は大きなビニール袋三つ分になる。
ただ抜けば良いだけなのだが、蚊に食われるし、暑いし、重いし、大変である。抜いても何かカワイイものを植えられるわけでもないので、テンションも下がる。ただただだるく、面倒くさい義務的な作業となる。
昨年私がやったら、毛虫にやられてえらい目にあってしまったので、今年は夫が完全防備でやってくれた。その代わり、ゴミ袋にまとめるのは私の仕事である。結局今年は二人共蚊に食われてしまい、その日はボリボリと足や腕をかきながら夕飯をとることになってしまった。
そこまでしても、暫くすると何かうっすらと生えてくる。まだ良いか、と放置すると更に生えてくる。こ奴らは暑さが厳しいほど強いのだろうか。まさに雑草魂を感じる。

夫と二人して、もう少し良いだろう、と涼しくなるのを待っていた先日、いきなり造園業者がやってきた。隣のアパートの敷地の雑草を駆除しに来たらしい。大家さんが同じなので、良いなあ、ウチもついでにやってもらえないかな、と思っていたら、願いが通じたのか(単に先方の予定通りだっただけなのだが)ウチの裏庭の雑草も綺麗に取り去って下さった。伸び放題で車寄せの前の溝まで進出していっていたヘクソカズラもすっかり取り除かれ、気持ちよくなった。
「オレ、やらんでも良かったんちゃう?」
夫がつまらなそうに言う。
「いや、やらんかったらもっと酷かったもん。やっといてもらって正解やったよ」
とは答えたが、確かに夫のいう通り、やらなくても良かったかもと密かに思う。
流石は専門業者、ハルジオンの葉も綺麗に取り去られている。回収しきれず放置していた抜いて枯れた茎も、全部撤去してくれた。
ああ、有難い。大感謝である。

綺麗になった庭を見て、
「寄せ植えの鉢でも置こうか」
と夫はまたまた物を増やす算段を始めた。
「もうやめてや。ここは植物あかんで」
と言うと、
「あんだけ雑草育ってるって言うことは、そうでもないのかも知れんぞ」
と夫は諦めが悪い。
「自分の家を建てたら、お好きにどうぞ」
と釘をさしておく。前の引っ越しの時、プランターとその土、鉢の処分に奮闘したのは私なのだ。勿論持ち込んだのは夫である。今回はもうやめて欲しい。パキラ一鉢で沢山だ。

裏庭ではこの前まで秋の虫が沢山鳴いていたが、おかげですっかり静かになってしまった。
スッキリしたのは有難いが、ちょっと残念でもある。