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苦労を楽しむ

エスクラ(エスクラリネット)を吹くようになって、もう随分経つ。
技術は相変わらず遅々として上達しないけれど、練習していると日々小さな発見や気付きがあって、飽きない。
しかし吹奏楽をやっている仲間同士で
「エスクラやってます」
と自己紹介しようものなら、
「ええ?!大変だねえ」
とか、
「しんどいでしょう?」
などという反応が返ってきがちだ。

エスクラが「大変」な理由は色々あるけど、先ずは音程が取り辛いこと、が挙げられると思う。
ピッコロなんかも同じだと思うけれど、短い楽器というのは音程を取るのが難しい。
クラリネットの場合、音程は口の形とか、指使いとか、息を吹き込む角度とかで調節するのだけれど、エスクラの場合、マウスピースがかなり小さいので、息を吹き込む角度の調節が難しい。
音程を上げようと思ってちょっと上向きに息を吹き込むと、その『ちょっと』の調節を間違えればとんでもなく調子っぱずれな、高い音程になってしまう。
そうなると『社会の迷惑』『騒音公害』にしかならないので、とっても怖い。

指使いも、普通のクラリネットとは違った苦労がある。
普通のクラリネットの場合、開放のG(ソ)の音の辺りは音程はうっかりすると高くなってしまうが、運指としてはそんなに難しくない。
しかし、エスクラリネットは逆だ。音程は安定しているが、運指に苦労する。
普通のクラリネットの場合、スケール(音階練習)で左手首のスナップさえまともに訓練しておけば、この辺で苦労することはない。
しかし普通のクラリネットの感覚のまま、エスクラでこの辺を吹こうとすると、手首を返し過ぎてしまう。結果、次の音に入るのが遅れる。音が滑らかに繋がらなくなる。
だから手首ではなく『手の甲』、もっと言えば『左の人差し指』の柔軟性を鍛えなければならない。
だからエスクラでスケールなどをやり続けていると、左手がだるくなる。ちょっと左手を捻ると、パキパキ音がする。きっと何か負担になっているんだろうなあ、とは思うが、やめられない。

口の中の形も普通のクラリネットとは違う。
基本形は同じなんだろうけど、常にクラリネットの高音の時の口・・・というと語弊があるが、一番近い表現だと思う。
マウスピースは浅く咥えた方が上手くいく。バスクラリネットは深く、普通のクラリネットも結構深めに咥えるが、比較にならないくらい浅く、である。マウスピースが小さいからだ。
慣れるとなんでもなくなるが、私の場合、慣れるまでに時間がかかった。

リード(振動媒体)選びも難しい。
厚すぎると音が鳴らない。鳴らすことが出来ても唇に負担がかかり過ぎ、下唇の内側がすぐに切れてしまう。
薄すぎると音が『開く』。ベーッという汚い雑音が入る。高音域の音程がどんなに頑張っても上がらなくなる。(私が下手だからか?)
丁度良い具合のリードを選ぶのが本当に難しい。こればかりはずっと慣れない。

そんなこんなで、エスクラにはエスクラにしかない苦労?が沢山ある。
しかし、小さな壁にぶち当たる度に、こうしてみたらどうかな、ああすれば上手くいくかも、と工夫しながら練習するのが、私にはとても楽しい。
間違ったことをしていたら、と思うと怖いのだが、永年K先生に師事したおかげで、なんとなくではあるが『このやり方で大丈夫かな』という感覚が備わっているので、試行錯誤することにあまりためらいがない。
途方もなく的外れなことをしているのではない、というのが肌感覚で分かるのだ。

「僕は上手になる魔法を教えるわけではありません。上手になるように努力するのは貴女、なんですよ。習う=即上手になれる、なんて思わないようにして下さいね」
先生が最初のレッスンで仰った言葉が、心に残っている。
漸く苦労?も試行錯誤も、心から楽しめるようになった。
完成することのない、終わりない探求の世界の喜びを教えて下さった先生に、心から感謝しながら、今日も練習に精を出すことにする。