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ゴミは捨てましょ

先日仕事が休みの日に、久しぶりに夫の部屋に軽く掃除機でも当てようと足を踏み入れて驚いた。

酷い。酷すぎる。
ドアを開けると、扉に押しやられるゴミ数点。不要なダイレクトメールの類のようだ。何故ちぎってゴミ箱に入れない?
めげずに中に入っていくと、段ボールの空き箱が数個、まさに『転がって』いる。畳んで壁に立てかけるとか、せめてちゃんと積むとかできんのか?
鼻をかんだ後の丸めたティッシュ。お菓子の袋を開けた時の、チャックの上の切れ端。最早何を包んであったのかわからない、くちゃくちゃの梱包用の紙。ゴミ箱はどうした、と探せば『もうこれ以上入りません』と言わんばかりに溢れかえっている。分別などしている訳がない。周りには恐らくゴミ箱に向かって椅子から投げたゴミが点在している。ゴミ箱の意味を全くなしていない。
『足の踏み場もない』という表現がピッタリの惨状であるが、なまものがないだけ有難いと思うことにした。

「俺のテリトリー」に侵入される事を夫は非常に嫌う。私だって勝手に自分の部屋に入ってこられるのは嫌だから、これはわかる。
が、自分で出したゴミは自分で片付けて欲しい。

今月初旬に長期で単独旅行に行った後、夫は持ち帰った荷物を放置したまま、やれドローンで撮った映像を編集するとかなんとか言って長時間パソコンに噛り付いて、全く片付けらしき事をしようとしなかった。そのうち姑の具合が悪くなって、私が数日家を空けたものだから、益々部屋が乱れたものと思われる。
そうこうするうち、何故かいきなり夫はウインドシンセの魅力に取りつかれてしまい、アマゾンで即購入。また空箱が増え、梱包材も出た。勿論全て放置したまま、休日には朝から晩まで伊東たけしを気どっている。

このままでは、10畳の夫の部屋はゴミに埋もれてしまう。

しょうがないので、夫の不在の間に片付け開始。これが初めてではない。もう慣れている。
燃えるゴミ用と燃えないゴミ用の2つのでかい袋を用意。黙々と仕分けして袋に入れながら、奥へと突き進んで行く。
段ボールを畳む。これは仕事で毎日やっていたから平気である。にしてもスーパーではなく普通の一般住宅の一部屋に、これだけの段ボールが放置されているのはどうかと思う。
怖いのは、仕分けているゴミの中に稀に必要書類が入っている事である。
量があるから、手早く済ませねば私の休日が夫のゴミ片付けで終わってしまう。目を皿のようにして「これは要る、これは要らん」と必殺仕分け人よろしく、ブツブツ呟きながらゴミは袋に入れ、必要書類はクリアファイル(夫のはどこにあるかわからないので私のもの)にひとまとめにして仕事机の上に置く。

私がきちんと洗濯してアイロンをあてた薄手のセーターも、長袖のシャツも、「北海道は寒いから持っていく」と言われて出した冬の肌着も、くちゃくちゃになってゴミの山から発掘された。
冬になって「ないない」と大騒ぎするのが今から目に見えるようだ。
犬のようにクンクンと匂いを嗅いで、使用済みでないことを確認。所定の場所にしまう。
多少汚れていても、着たところで死にはしない。身から出た錆。臭くても一回くらい、我慢して着ろ。どうせすぐ洗濯する。

この調子で病的に片づけが苦手な夫に、私は長い間ずっとイラついていた。が、これが「病的」ではなく「病」なのかもと考えた時、初めて夫の様々な珍妙な行動が全て繋がり、合点がいった。そしたらイラつくことがなくなった。
夫のこの特性を知っていたら結婚しなかったか、と聞かれればしなかったかも知れない。確かにとても困ることが多いし、煩わしいのは間違いない。
詳しく検査してみたことはないが、姑から聞いた子供の頃のエピソードもそれを裏付けるものだった。
本人もうすうす分かっている。が、悲壮感はゼロである。「俺はそういう人間なんだ」と思っているだけである。

『こういう人であって欲しい』という自分の理想像に人を誘導しようとするのはただの傲慢である。
夫はこういう面もある”良い奴”なのだ。

帰ってきて自分の部屋に入った夫は、
「あ!地面が見える!」
と感動の体である。いや、それが普通なんやで。
「何か言うことは?」
腕組みして仁王立ちしながら夫を見て言うと、てへへ、と頭をかいて
「ありがとうございますう」
と恐れ入っていた。参ったか。

数日後、
「お前、最近文章書くの楽しそうやから」
とノートパソコンをプレゼントしてくれた。今、それでこれを書いている。
思わぬ戦利品にほくそ笑んでいるが、それよりゴミはちゃんと片付けて欲しい。