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特異体質?

今週初め頃の事である。
朝出勤して売り場を掃除していると、荷受け係の女性社員が伝票の束を手にレジにやってきた。
「おはようございます。今日、物凄く沢山のランドセルが着いてて、置き場がなくて困ってるんですけど、何か聞いてます?」
ランドセル担当のYさんが「近々どーんと入荷する」と仰っていたのは小耳にはさんでいた。が、今日だなんて聞いていない。連絡ノートを見るが、何も記載はない。困ってる、と言われても私も困る。
「どれくらいの量ですか?」
「一番大きい籠車(檻のように組み立てられる運搬用の大きな台車)七台分です」
かなりの量だ。きっと展示品が一気に入ったんだろう。どうしようか。妙案は浮かばない。時計を見ると、開店まであと五分。私はもうレジ周りを離れられない。
「すいませんが衣料の社員のNさんが来られてるはずなので、ご指示仰いで頂けますでしょうか?」
というと、荷受けの社員はそうします、と言って去っていった。心の中でNさんにゴメンナサイと謝っておく。

開店して間もなく、レジにNさんがやってきた。さっきの無茶ぶりを謝ると、
「いやいや、僕も近いうちに入荷するって聞いてはいたんだよ。でも『明日には間に合わない、下手すると明後日の午後便だ』って言ってたから。どういう具合でこんなに早く入って来ちゃったんだろうねえ?ま、二階のバックヤードに上げておいたからね」
とのお返事だった。どうも出荷先が送る日を間違えて早く着きすぎたらしい。
「在間さん、ランドセルに好かれてるんじゃないの?」
Nさんの言葉は私には冗談に聞こえない。昨春、何故かランドセルのお客様を売り場で一番多く取り扱う羽目になった私。イヤな予感がした。

翌朝出勤すると、ランドセル売り場が完成していた。YさんとMさんで頑張って組んだらしい。
お問い合わせは二月からボツボツあるし、「背負ってみたい」というお話も最近結構あるので、皆さん気が早いなあ、と思っていた。三月には「来年の四月」のご予約が一番乗りで入っているが、こちらはインターネットで全て完結するので、店側は来た商品をお渡しするだけである。全部そうしたら良いのに、と思う。

そうこうするうちにDさんが出勤してきた。これでワンオペ状態からは解放されるので、一安心だ。
二人体制になったので、両替に行く。帰ってくると、Dさんがレジで接客中だった。もう一台のレジに両替したお金を補充しよう、と考えて入ると、幼稚園くらいの女の子がレジに近づいてきた。紫色のランドセルを抱えている。えっと思う間もなく、高いレジ台にうんしょ、と上げて、
「これください!」
と大きな声で言って鼻の穴を膨らませてニッコリした。
隣のレジでDさんがびっくりした顔を私に向けた。
ランドセルは高価なものなので、鍵がかかっていて普通は持ってこれないはずだ。どうもこれだけ鍵が外れていたようである。
お客様に今は予約のみで、お引き渡しは九月以降であることを説明し、納得頂いた。お子さんは残念そうである。ごめんね、楽しみに待っててね、と言うとちょっとほっぺたを膨らませて頷いた。

入社したてだった私は昨年、ランドセルの予約受付を一からやっていない。FさんやH課長やYさんにやってもらって、指示を受けながらレジを打っていただけであった。
受付伝票は書くことがいっぱいある。メーカー名、型番、色、支払い方法・・・この時代にアナログの極みだ。おまけに今シーズン一発目だから、伝票は一番目のページである。誰かの記入例を参照することはできない。
書き方のマニュアルがあったはずなのに、何故か見当たらない。しょうがないのでありったけの情報を書いて、レジを打つ。
ランドセル予約の精算は、普通にバーコードをスキャンして打つやり方ではない。画面の操作が特殊で、ちょっとややこしい。何件か打っていれば慣れてくるのだが、今シーズン一発目なので思い出すのに時間がかかる。

それでもなんとか精算を済ませ、無事お客様にお帰り頂いた。
「凄いじゃん!覚えてるんだねえ!」
Dさんは呑気に感心している。いや、そうじゃないし。でも一人きりの時間帯でなくて助かった。
伝票や精算方法に不備がないか不安だったので、楽団の練習を終えた帰りに店に寄った。担当のYさんが居るはずだったからだ。
声をかけるとビックリしていたが、
「ありがとう!早速予約入ってみんな大喜びだよ」
とニッコリした。
お話を聞くと正式なやり方ではなかったが、大筋であっていたらしい。ほっと胸をなでおろす。私の様子を見てYさんが笑いながら言った。
「在間さん、本当にランドセルに好かれてるねえ」
そうなんだろうか。
ランドセルを引き寄せてしまうこの特異体質、改善したい。