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頑張ってね♡

私の住んでいる辺りは大きなアリーナに比較的近いせいか、時折不思議な服装の女の子が買い物にやってくることがある。『不思議』というのはあくまでも私の目から見た感覚なので、一般的にはおかしくないのかも知れない。
彼女たちはフランス人形のような格好をしている。そんなイメージを抱くのは、彼女たちの被っている帽子のせいだと思う。ボンネットというのか、鍔が前にせり出していて、リボンを顎で結ぶような形である。
スカートは短い。短いが、フワフワと膨らんでいる。恐らく、パニエのようなものを穿いているのではないかと思う。靴下は膝上。特徴的なのはその靴で、まるで舞妓さんの『おこぼ』のように厚い底で、大抵は編み上げのブーツである。
この格好だけでも随分目を引くのだが、これが全身黒づくめだからついつい珍しいものを見るような目で見てしまう。調べると『ゴシック・アンド・ロリータ』とかいう、ファッションらしい。
彼女たちが買っていくのはほぼ百パーセント、厚底の編み上げブーツである。色は勿論、黒だ。
黒一色、というのはこんなに目立つものなんだな、といつも感心してしまう。

つい先日はピンクでトータルコーディネート、の方が私の居るレジにいらした。
ジャケットは淡いピンク。中のセーターは濃いピンク。リュックはショッキングピンク。ズボンはスモーキーピンク。靴下はよくわからないけど兎に角ピンク。靴も勿論ピンク。しかし身に着けておられるのは、どれも良いものである。
因みにこの方、男性。
レジに来て、
「ピンクのマフラーを探してるの。あります?」
とお尋ねになる。
「ありますが・・・」
と売り場へご案内する。
男性用のマフラーはどれも、カーキや黒、紺などの地味なものばかりだ。女性用ならピンクはあるが、長さが若干、男性用より短くなるものが多い。
お客様は背が高く、割合がっしりした身体つきだったから、多分殆どの女性用マフラーだと短くなってしまう。
「こちらなどはピンクですが、長さがちょっと・・・」
語尾を濁すと彼は頷いて、
「そうなのよ。どうしてもねえ」
と悲しそうな顔をする。
気の毒になってしまった。

別に男性がピンクのマフラーをしたって、良いんじゃないか。なのに、何故こんな地味な色しか作らへんねん。
と心の中でメーカーに文句を言いつつ、一緒に商品を探すと細長いショールが見つかった。これだと長さがある。色はサーモンピンクだ。
「これなど、如何でしょう?マフラーではありませんが、マフラーとしてもお使い頂けます」
彼は商品を手にして、目を輝かせた。鏡の前で着けてみると、嬉しそうに微笑んだ。
「これ、いいわね!これにするわ!」
レジでお会計を済ませる。よく見ると眼鏡のフレームも鈍いピンク色だ。徹底している。

「すぐにしていくから、値札取って下さる?」
「かしこまりました」
丁寧に畳んでお渡しすると、彼はありがとう、と言ってその場でマフラーを巻いた。ふんわり、オシャレな巻き方である。へえ、上手だなあと感心する。
財布をしまおうとして、嬉しそうに手を止め、
「このお財布もね、ここで頂いたの」
と言って私に見せてくれた。勿論ピンク。ラメが入っていて、ハートの型押しがある。
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げる。さっきから接客しているけれど、めちゃくちゃ良い人だなあ、というのが伝わってくる。

レシートを手に立ち去ろうとして数歩行って、彼はまた足を止めて戻ってきた。何かお忘れかな、と思ってレジ前のサッカー台を覗き込むと、彼は違う違う、と笑って手を振って、
「ありがとうね。あなた、丁寧で良い方ね。頑張ってね♡」
と言って下さった。
なんだか温かいものが伝わってきて、深く頭を下げてお見送りした。

ついつい見た目で人を判断してしまうけれど、人柄って関係ない。
男でも、女でも、どっちでもなくても、本人が良ければそれで良いんじゃないか。
大事な事を教えて頂いた気がしている。

今日は朝から冷える。
あのマフラー、お役立ちかしら。
またのご来店を。










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