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褒め言葉

最近、私の職場には『スーパーレディ』が来ている。

私の仕事はレジ業務であるが、実は担当部門によって微妙に仕事内容が違う。
例えば私のいる"靴・服飾"だと、長傘は開いて骨のチェックをしてからでないとお渡ししないし、靴はサイズ確認は勿論、箱が必要かどうか、を聞かなければならない。他の部門では不要な作業である。
金銭授受の前後に、それぞれの部門固有の結構面倒なやり取りがある。

だからいきなり違う部門のレジに行っても普通は打てない。機械は同じだから打つだけならできるが、金銭のやり取りに付随して行う業務が違いすぎて無理なのである。

『スーパーレディ』はXさんと言う。
Xさんはパートではあるが、勤務先は本部である。あちこちの店でレジ係を指導するのが仕事で、日によって行く店が違う。
どの店のどの部門のレジでもどんとこいなので、とても頼もしい。店内のレジを巡回して、手伝いながら指導してくれる。

このXさん、大きな声では言えないがちょっと見『ナニワ金融道』に出てくるオバサンのような風貌をしている。大変失礼な言い方だとは承知しているが、本当に似ている。

私くらいの年齢になると、髪も艶を失ってきてパサつきが目立つようになるものだと思うが、Xさんはその髪を肩くらいまで伸ばしており、それがやや残念な感じに見える。
もう少し短くするか、いっそ長くして束ねた方が良いのになあとは思うが、そんな事は言えない。

その日私の居るレジに来る前、Xさんは食品レジを手伝っておられたようだった。
食品レジのスタッフは髪の毛が落ちるのを防ぐ為、三角巾をしている。これがなかなかシックな色味で可愛い。似合わない人がいないスグレモノである。Xさんはその三角巾をしたまま、こちらに来てくれた。
三角巾はXさんの油気のない髪の毛をうまい具合にまとめ、輪郭をスッキリ出していた。いつもと雰囲気が違った。

Xさんキレイやん。
そう思った瞬間、こんな言葉がスルリと口から出てしまった。
「Xさん、可愛いですねえ、その格好!」

私はお世辞を言うのが大の苦手である。特に可愛くない人に可愛いと言うとか、目茶苦茶苦手だ。きっと顔に本音が出ていると思うから、下手なお世辞は言わない事に決めている。精神衛生上、そのほうが良いと思うからだ。

だから、Xさんが本当に可愛く見えたので言ってしまったのである。喜ばせようとか、ごまをすろうとか、全然思っていなかった。
Xさんの反応は意外なものだった。いつもキリッとしていて厳しい人なのだが、相好を崩して喜んでくれたのである。
「あら~そうおー嬉しいわ~、ありがとう~」
ちょっと照れながらニコニコしたXさんは、ますます可愛かった。

Xさんが去っていくと若手社員のOさんが私に向かって、
「在間さん、上手いっ!」
と言って腕を前に突き出して指先で拍手した。
「いや、だって本当に可愛かったやん?」
と言ったらOさんはニヤニヤしていた。私がお世辞を言ったと思ったらしい。
まあ若いOさんと50代の私では"可愛い"の定義は違うのだろう。

心の底からの褒め言葉はちゃんと伝わる。
Xさんが素直に喜んでくれる心の持ち主で良かったな、とも思った。そういう人だから、綺麗に見えたのだと思う。

自分も他人も、いっぱい良いところを見つけていっぱい褒めよう。言った私も気分が上がる。
関係ないけど、私もあの三角巾、今度借りてみようかな。