見出し画像

土台は大事

吹奏楽ではクラリネットはほぼ3~4パートに別れる。
分ける基準は楽譜に書いてある音の高さ。1番(1stとも言う)、2番(2nd)、3番(3rd)の順に音が低くなる。
クラリネットは単音楽器と言って、一度に一つの音しか鳴らせない(特殊な奏法で重音を鳴らす事が出来る人も存在するが、高度な技術を要する為、一般的ではない)。だから和音を分担して鳴らす。
主に1番がメロディー(主旋律)を担当する。1番と和音を奏でたり、同じ旋律のオクターブ下を吹いたりするのが2~3番の主な仕事である。

特に学生さんに多いようなのだが、『1番は上手な人、2番はまあまあの人、3番は下手な人』などという認識を持っている人が一定数存在する。かく言う私も中学生の頃はそう信じて疑わなかった。そういう風にパート決めをしてしまう事も多い。
譜面の難易度にもよるが、確かに初心者には3番を担当してもらう事が多い。低い音が多く、比較的音が鳴らしやすいし、細かい動きも少ないからである。
ところが指揮者はそんな認識を持っていない場合が殆どだ。特にスクールバンドを振る機会のない指揮者ほど持っていない。
だから、欲しいところで2、3番の音が聴こえてこないと
「2、3番!しっかり出して!」
と言う声が飛ぶ事になる。

これは無理な要求である事が多い。
技術的に自信のない人をこれらのパートに固めてしまうと、こういう時音が出せない。出しても所謂『音楽的』な音にならない。
初心者時代にはありがちな吹き方だが、技術的に自信のない人は他の人の音に『隠れて』吹こうとする癖がついてしまっている。私も長い間そうだったから痛いほどわかるのだが、この状態に慣れると、いざ『さあしっかり吹いて』と言われても出来ない。

これは以前いたバンドの指導者の先生から聞いた話である。
先生は、吹奏楽界では有名なある作・編曲家の、音大時代の同級生だったのだが、その方があれこれ悩んでクラリネットパートのアレンジを考えているのを見て、
「そんな事やっても無駄やって。現場はそういう配慮をせずにパート決めをするんやから」
と忠告したそうだ。
作・編曲家もやはり、2、3番も当然音楽的に大事なパートとして認識しているようだ。当然と言えば当然である。

人数と技量に余裕があるバンドは当然、作・編曲家の意図を汲んでその通りに演奏する事が出来るから、それぞれのパートがちゃんと果たすべき役割を果たして、良い演奏が出来る。
けれど台所事情の苦しい殆どの楽団はそうは出来ない。
やむを得ず、せめて目立つメロディー担当だけはまともに吹ける奴にしよう、となる。苦渋の選択である。
学生さんに限らず、目立つところ吹きたい、というのは自然な欲求だと思う。みんなが1番を演りたがるのも無理はない。

実はクラリネットの3番パートは独特の動きをする事が多い。
吹奏楽だとクラリネットの仲間でありながら、同じフレーズを吹いているのはトロンボーンだったり、テナーサックスだったり、ホルンだったり、ユーフォニアムだったりする。それらの仲間のうちでは一番高い音を担当する訳で、大事な『音の縁取り役』である。
このパートが不安定だと、上に乗っかる1、2番パートも不安定に聴こえてしまう。
とても大切なパートなのだ。

だから3番を蔑ろにし、軽く扱うのは間違っている。
バンド全体にTubaがいなければサウンドが落ち着かないように、クラリネットパートには3番が絶対必要である。
私の今居る楽団は特に上手いと言う訳ではないが、しっかり吹ける3番が二人いるのでパート全体が安定している。だから周りも吹きやすい。有り難い事だと思っている。

土台は何でも大事である。
基礎がおろそかでは、どんな素敵な建物も建たない。
当たり前の事だけど、どうでもいいパートなど存在しない。
3rdクラリネットの重要性がもっと認識されると良いと思っている。