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151年 日本の野球力

 野球のWBC、ワールドベースボールクラシックが大きな話題になっています。
残念ながら、日本戦のチケットはゲットできなかったのですが、この国際スポーツイベントが日本で行われているのに現場で見ないという選択肢は、私にはありません。日本が出ない3月15日の準々決勝、キューバ―オーストラリアを観に東京ドームへ行きました。

 この日も、試合前からグッズ売り場の前には長い行列がありました。また、観客数も35,061人を記録しました。

 私の周りに座っていた人の中には、韓国や台湾の方が見えました(スマホの画面の文字が見えてしまった)。これは、どこか勝ち上がってくるかわからないけど、可能性の高い国を応援したい人がチケットを買っていたのでしょう。私自身は、どのチームが来たとしても、この真剣勝負は面白いに違いないと買っていました。

 場内のスクリーンには、キューバやオーストラリアを応援する人達の姿が映されていました。しかし、大半は日本の人だったと思います。WBCの雰囲気を生で味わいたいという人。野球の国際試合を見たいという人。
 様々なユニフォームを着ている人がいたことが、印象に残りました。日本代表のはもちろんのこと、日本代表ではない選手のユニフォームを着ている人、大リーグのインディアンスやパドレス、韓国プロ野球のサムソン、巨人、広島、阪神、ヤクルト、近鉄(懐かしい)、さらには高校のユニフォームまで。

オールスターでも見られない光景でした。自分の野球を愛する強い気持ちを表現しながら、この試合が見たかったんだろうなあ、と思いました。

 そして、こうした野球を愛する人たちの反応がドーム内を包みます。日本でプレーしている、もしくは在籍していた選手やコーチが紹介されると、一際大きな歓声が上がりました。「俺達は、お前のことわかっているぞ。頑張れ」!という気持ちでしょう。試合が始まると、何が好プレーなのかを分かっていて、拍手が送られます。リードされているオーストラリアが点を取れば、ちょっと大きなどよめきが湧き上がりました。
 九回二死走者なしでオーストラリアのジョージが打席に向かうと、それまで以上に大きな「レッツゴー ジョージ」のコールが沸き起こりました。こういうことは、一朝一夕にできるものではありません。ドームに集まったファンの雰囲気には、応援を受けた方や海外のメディアも心を動かされ、SNSに投稿されていました。

Team Australia 🇦🇺⚾️ on Instagram: "Listen to this at bat. That’s right - listen. In front of a near capacity Tokyo Dome, Darryl George walked-up to the plate with what would end up being the last at-bat of the game. By how it looked, sounded and felt, you'd think we were the home team. It was a special one. He was smiling. We all were. In a moment that made the hair on your neck stand up, the entire stadium of Japanese fans started chanting "Let's go Georgie." It's custom for Japanese players to have songs or chants sung to them during their at-bat. It was our turn last night. The Japanese fans have embraced us since we've been here, and we've embraced them. It was an amazing show of respect and appreciation. Even though the final out was eventually made, the at-bat truly characterised what this team is all about. A fight until the end. Appreciation of the moment. Respect to those around you. A smile on your face. And everything left on the line. We didn't win the game but maybe we won the hearts and imaginations of those around us. We hope we've created a lasting impression of Australian baseball and have inspired players at home and around the world. Thank you to everyone. Honoured." 4,650 Likes, 51 Comments - Team Australia 🇦🇺⚾️ (@teamaustrali www.instagram.com


 これまでいろいろ見てきましたが、国際大会というのは、その国の競技力やスポーツ文化が表現されてしまう場です。意識して表現するのではなく、出てしまうという感じです。
 例えば、今回のWBCをきっかけに、チェコの野球を知った野球ファンもたくさんいたでしょう。同様に、日本の競技レベルや野球文化も世界に知られています。この日の東京ドームに響いた温かい拍手や歓声も、日本の野球文化を伝える象徴的な場面となりました。


 日本野球の競技レベルも、応援のスタイルも、長い歴史の積み重ねでつくられてきたものです。
 野球殿堂博物館のホームページを見ると、日本の野球の始まりは、今から151年前のこと。1872年、アメリカ人教師のホーレス・ウイルソン氏が、東京の第一大学区第一番中学で伝えました。

 「1896年、第一高等学校が横浜外国人チームに勝利し、野球人気が全国的に高まる」と年表にありますから、こんなに早くから国際試合というのは、野球の大きな節目になっていたことに驚きました。

 早慶戦が始まったのは1903年。現在の夏の甲子園大会に当たるものが始まったのは1915年。東京巨人、大阪タイガースなどの7球団で日本職業野球連盟が創立されたのは1936年。東京ドームの前身にあたる後楽園球場ができたのは1937年。

 子供の野球、高校野球、大学野球、社会人野球、プロ野球、女子野球、障がい者野球などと仕組みが少しずつつくられてきました。そして、競技力や指導のレベルも上がっていったからこそ、今の日本代表の強さがあるわけです。礼儀正しさやプレースタイルなども、その中でつくられてきました。応援団など、見る方の野球文化も並行して根付いていきました。

 つまり、ワールドベースボールクラッシックで盛り上がっているもの、楽しめているものは、日本の野球の歴史の賜物ではないでしょうか。


 今回の日本代表を率いている栗山英樹監督は、負けたら終わりの準々決勝を前に「甲子園は日本の風物詩、文化であると思っている。甲子園、夏の大会というイメージでいくだけ」と言いました。また、「日本野球の将来に必ずつながる」と発言したり、先人たちへの敬意を繰り返し話しています。



元スポーツキャスターですから、記者会見でこのような発言をする明確な狙いがあるはず。競技人口が減ったり、グラウンドが減ったりしている現実を知っていて、野球文化が衰えていく危機感を感じているのだと思います。

 今回のWBCのプレーに感動して、野球を始める子や野球を頑張る子が増えること。キャッチボールをしてみること。ルールを教えたり、応援の仕方を教えたりすること。親から子へ。野球をしている、していた人から、していない人へ。野球が大好きな人から、そうでもない人へ。

こんなコラムをわざわざ読んでくれたあなたも、日本の野球力の一部です。

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