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西洋美術雑感 37:オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾く少女たち」

さて、だいぶややこしい話が続いたので、ちょっと息抜き。印象派を紹介しているのに、このルノワールを出さないのは、ルネサンスを紹介してるのにモナリザを出さないようなものかもしれず、でも、モナリザを出したときも雑談だったっけ、ということで、ここでも雑談である。
 
ルノワールの絵は、それは自分も見事だと思うけど、僕のガラじゃないといった感じだろうか。
 
ルノワールの絵をネットで調べてみると、この人、女ばっかり描いているね。しかも、彼に特有な顔つきで描かれていて、肖像画であってもだいたい、あ、これはルノワールかも、ってわかる感じである。ルノワールはパリの女を作った、などと言われていたと思う。
 
その、細い描線を手芸糸を束ねたようにカーブさせる描き方と、常に花束で画布が埋まっているような色使いと、優しくて幸福そうな主題は、とにかくきれいで、いわゆる女好きする絵かなと思う。変でアンバランスな芸術ばかり求めてしまうひねくれた自分でも、ルノワールの絵はぎりぎり大丈夫で、画布を前にして、ああ、きれいだなあ、と素直に見ることができる。
 
かつて日本で印象派がブームになったとき、その主な担い手は、そこそこに裕福で暇のあった中年のおばさんたちだった覚えがあり、なかでもこのルノワールは彼女らに人気があったはず。僕の記憶では、NHKとフランスの共同制作の「NHK特集・ルーブル美術館」というシリーズもの美術番組を放映したのが、日本でのブームのきっかけではなかったか。
 
フランスの老練の男優と女優が二人でルーブルを歩いて絵を見ながら知的な会話を楽しむ、という演出になっていて、男がペダンチックに絵を前にして蘊蓄をひとしきり語った後、女のほうが「でも、この絵のこの人、あなたのお母さまに似てなくて?」みたいなセリフを言って、男のほうが鼻白む、みたいな、その、世紀の大芸術作品を前にして、きわめてカジュアルな会話を楽しんでもいいのである、ということを、あの番組は一般民に教えてくれたわけだ。
 
それまで、芸術を語るのは、高い教養や、身分の高い人に限られていて、なにかしら高尚なものでなくてはならない、という先入観があったのだが、そんなのは不要なのだ。しかも、その番組放映のタイミングが、折しも日本のバブル景気の始まりの時期で、以来、金にあかせて世界の有名作品を運んで展覧会を開きまくり、これで美術ブームに火がついて、みんな浮かれまくったというわけである。
 
このピアノの前の若い女たちの絵など、まさにうってつけ、というか、そういえばちょっと裕福なおばさんたちの家の応接間って、往々に、こんな風に装飾してあったっけ。優雅で古典的なヨーロッパ風アンティークの美は、素直にその当時の日本人のあこがれだったんだね。面倒な今に比べて、あのころはみな、素朴で難しくなくて、よかったな。


Pierre-Auguste Renoir, "Young Girls at the Piano", 1892, Oil on canvas, Musée d’Orsay, Paris, France

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