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【連載】西洋美術雑感

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このnoteの記事が本になりました。ペーパーバック版もあります。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0C6ZQ4TGY この本は、13世紀の前期ルネサ…
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2022年7月の記事一覧

西洋美術雑感 28:ピーテル・ブリューゲル「雪中の狩人」

北方ルネサンスの画家の紹介ではけっこうグロテスクなものを多く出してしまったが、この、農民画を多く残したブリューゲルを紹介しないと片手落ちだろう。   ボッシュの影響を受けたらしいと伝えられるブリューゲルは、ボッシュの絵の中の怪物や奇妙な振る舞いの人間たちに代えて、農民をはじめとする庶民を同じような感じでたくさん登場させ、画面を埋め尽くした。その画風はたしかにボッシュの絵に似通っている。   ブリューゲルがなぜここまで農民の生活を事細かに描いたかは分からない。いま現代のわれわれ

西洋美術雑感 27:アルチンボルド「水」

真面目で深刻な宗教画や、意味深な神話の場面や、多義的で怪しげな絵画や、やたらとドラマチックな劇や、宗教や神話にかこつけてやたら裸体を描いてみたり、とか、さまざまに展開する西洋古典絵画だが、その中で破格におちゃめなのがこのアルチンボルドの肖像である。   ここではその中で「水」を取り上げたが、水棲の海鮮物が集まって人の横顔になっているわけだ。   このような肖像を彼は何十点も描いていて、それぞれ、果物、野菜、木々、動物、鳥、花、本、道具、などなどを複雑に組み合わせて描いた肖像が

西洋美術雑感 26:カルロ・クリヴェッリ「受胎告知」

カルロ・クリヴェッリはルネサンス盛期の始まり、あるいはルネサンス初期の終わりに位置する画家で、この人の絵も独特である。その後のラファエロで完成するイタリアルネサンスへ通じていると言えないことは無いのだが、自分としては、そこからだいぶ外れているように感じられる。   本来なら、クリヴェッリの描く、非常に冷たく、気高い感じの独特な女性の顔が登場する数々の絵を出したいところだが、ここではこの絵を選んだ。   この絵を見ていちばん最初に感じるのが、この厳密に製図のように描かれた透視図

西洋美術雑感 25:コズメ・ツーラ「ピエタ」

コズメ・ツーラはルネサンス初期の画家の中でもとりわけ奇妙な絵を残した画家である。前回、ミケランジェロの彫刻のピエタを取り上げたが、このツーラの絵も同じくピエタであるが、この感触の違いは、もう果てしない距離があると言えないだろうか。ちなみに、このツーラの作はミケランジェロのピエタのおよそ40年前、ルネサンス盛期と呼ばれる時期の始まり、そしてルネサンス前期の終わりに位置している。   このツーラの絵を見てみよう。まず、十字架から下ろされた死せるキリストは、まるで発育不全のように小

西洋美術雑感 24:ミケランジェロ「ピエタ」

バチカンのサン・ピエトロ寺院にあるミケランジェロの彫刻「ピエタ」である。これは恐らく西洋美術における彫刻の頂点として永遠に残る作品であろう。   これまで、自分は最盛期ルネサンスが苦手だとずっと言ってきたが、それは、その理知的で開放的、完全にコントロールされた表現の調和、したがって健康的で明るい、という性質が自分の好みに合わないからであった。試しにその反対の要素を並べてみると分かるかもしれない。感覚的で、時に内向的、なにかに異様に執着して誇張されたいびつな表現の不調和、したが

西洋美術雑感 23:ピエロ・デラ・フランチェスカ「キリストの降誕」

いちばん好きな画家は誰かと聞かれてピエロ・デラ・フランチェスカと答えるぐらいの自分なので、すでに「キリストの鞭打ち」の絵を出したとはいえ、あれだけで終わるのは寂しい。なので、もう一枚、上げておく。   ピエロの絵は、非常に客観的な冷たい感じの様子と、恍惚としたような無言の共感の、相異なる二つの方向性が感じられ、この二つはどちらかが強くなることもあれば、同時のこともある、といった風で、絵によっていろいろである。それで、最初に出した「キリストの鞭打ち」は、前者の冷たい感じが前面に