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オンラインでの産官学まちづくりワークショップで効果的だった4つの工夫

コロナで引き続き対面でのワークショップを行うことが難しい状況が続いている中ではありますが、地域と連携したまちづくりに取り組まれている企業様より、産官学連携でのまちづくりワークショップのご依頼をいただきました

舞台となったのは23万人の人口を抱える東京都調布市。23区のベッドタウンとして住宅地が広がりつつも、電気通信大学や白百合女子大といった大学を抱える学園都市という一面もある街です。

当初は対面実施の予定でしたが、新型コロナウイルスの影響により実施が一時は危ぶまれましたが、オンライン実施に舵を切りました。そして、半年ほどの準備期間を経て、2020年11月から12月にかけて調布市とクライアント企業の共催での【産官学まちづくりワークショップ】の実施・運営を全てオンラインにて行うことができました。

▼ワークショップ詳細


今回の記事では、オンラインでワークショップを実施するうえで大切にした以下の4つのポイントをまとめました。

AFLAC_調布市WS_当日スライド

①問いは運営から提示しすぎない

参加者が自ら解きたい問いを再定義する時間を作ることで、参加者の主体性を引き出す

通常、ワークショップには主催者の想いや解決したい課題があり、それをワークショップ全体で立ち返る問いに反映させることがあります。
一般的には主催者側から問いや課題が設定されますが、そうすると参加者はその問いありきの活動になってしまい、お題を与えられてそれを解いてみるという構図から抜け出せなかったり、似たような答えが出てきてしまうということに陥ってしまいがちです。

例えば 、「どうすれば市民が運動するようになるのか?」という問いを事前に設定すると、参加者が出す解決策も「運動のイベントを開催しよう」「スポーツ施設を充実させよう」等の予想を越えない、あたりさわりのないアイディアに留まったり、正しい答えを出そうとしてしまったりと、発想が広がりにくくなってしまいます。

そこで、今回のワークショップは問いを主催者があえて用意せず、以下の4つのステップを踏みながら、「調布市の課題・期待」を「自分達が考えたい問い」に変換してもらいました。(※ このワークの内容は、事前研修として地元社員の方に受講していただいたミミクリデザインさんのオンラインファシリテーター研修を参考にしています)

以下、テーマを観光に選んだチームを例に具体例を用いて説明していきます。

STEP (1) 話題の提供
まず、調布市の職員から「スポーツ・健康」「文化・芸術・観光」「教育・福祉」の3つの領域における行政の方針や取り組みついてお話していただきました。

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STEP (2) 「調布市の課題・期待」の抽出
STEP(1)で聞いた内容を元に、参加者は5~6名のチームに分かれて「調布市の課題や期待」を言語化します。このチームは、以下の3つの課題を抽出しました。

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STEP (3) 問の切り口の分解・発散
Why Who Where Whenを切り口に問いの要素を発散
して以下の様に出し切ります。

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Why(なぜこの問題が起こっているのか?なぜ調布市にとって大事なのか?)
インバウンドが減ったから・移動が制限されるから・集客ができないから・自粛によって観光業が苦境に立たされているから、 etc.
Who(誰の課題を解決するか?)
調布の商店街の人・中小の事業者・飲食店の方・住民・子ども・お年寄り
Where(どこでその問題は起こっているのか?)
調布の観光スポット・店舗内・小学校・家の中・深大寺・味の素スタジアム
When=その問題はいつ起こっているのか?
コロナ前から・通勤時間・夜寝る前・夏休み

「コロナ禍においても集客できる仕組み」というと想像力が働かなかった参加者も、要素を分解してみることで「商店街の人は何を考えているかな」「インバウンド(外国人)の代わりになるものはあるかな」などと、解像度を上げて考えることができるようになりました。

STEP (4) 問いの再構築
STEP(3) で色んな角度の問いの切り口を見つけ、要素を幅広く出した参加者は、いよいよ「自分たちが取り組みたい具体的な問い」を再構築していきます。

要素を組み合わせたり、ひねり(Only Best Worst But If For)を加えたりしながら一通り問いを出し切った後は、自分たちが考えたい問いをチームで選んでもらいました。(🚩をつけました)

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与えられたお題ではなく、自分たちが考えた問いの中から選ぶことで、現実味・実現可能性のある新しい着眼点を持つだけでなく、主体的に関わる動機付けを創ることができました。

②チーム内での関係性や役割を意図的に崩す

社会人⇔学生、ファシリテーター参加者の境界を曖昧にし、よりフラットな関係性をつくることで議論を活発化させる

今回の2日間のワークショップは以下の様な学生と地元企業の社員との混合のチーム構成で4チームごとに分かれて行いました。

◎チーム編成
ファシリテーション(地元企業の社員):2名
一般学生:3名~4名(うちインサイダーが1名)

ワークショップの中での立場や関係性はアイディアの出し方に大きく影響します。例えば、参加者・ファシリテーターと役割が固定化されると、「ファシリテーターが言ったことをきく」ことになってしまい、ファシリテーターが誘導した議論の運びになってしまうことが多々あります。

今回は、学生・会社員などもともとのバックグラウンドの異なる人たちが関わるワークショップということで、既定の役割を手放し、対等な立場で関わっていく為に、以下の様な工夫をして場づくりの設計を試みました。

(1) クライアントである企業社員の方々にファシリテータ―となってもらい、更なる当事者意識を引き出す
当初は学生のみのグループで話合ってもらい、社員のみなさんに当日グループワークに参加していただく予定はありませんでした。しかし、アイディアを出す学生側が、見られるという意識を持つと委縮してしまいます。なので、社員の皆さんもファシリテーターとして参画してもらい、社会人、学生の異なる視点を持った両者のコラボレーションにより創造性の高い場を目指しました。

事前に社員の皆さん向けに、ミミクリデザイン(現DONGURI)によるファシリテーションの研修も実施し、「アドバイスではなく問いかける」という役割を共有することで、参加者のアイディアや意見を引き出すファシリテーションを学ぶに加え、「ワークショップでは予想通りにならないのは当たり前」という前提を共有しました。

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寧ろ、予定はしていなかったけど自然に出てきた違和感などが良いひらめきの元になることもあります。そのようなひらめきを拾えるように、クライアントにも「まあWSは当日臨機応変に対応するしかない」(その場その場で頭を使わなければいけない)と当事者意識や主体性を持ってもらうことができました。

(2) 参加者の中に「インサイダー」を配置することで、ファシリテーター・参加者の境界を曖昧にし、よりフラットな関係性をつくる
加えて各チームには、私が普段ワークショップを一緒に企画しているゼロイチシニアチームの学生の皆さんにも、「運営のインサイダー」として各チームに1人ずつ入っていただきました。

「インサイダー」にはワークショップの企画段階から参画してもらい、各ワークの意図を理解してもらった上で、本番中は敢えて一参加者としてチームに混ざってもらうことで、以下の様なサポートをしてもらいました。

・口火を切って他の参加者が後に続きやすいようにする
まだ空気があったまっていない中で、アイスブレイクのワークのルール説明の際に一参加者として最初にデモンストレーションを手伝ってもらい、他の参加者が安心して後に続けるような雰囲気をつくりました。また、ワーク中も「私から言いますね」等、口火を切ることでテンポを落とさずに熱量を持ったまま議論進行を行うことができました。

・グループ活動中、ファシリテーターの進行サポート
グループ内のファシリテーターは初めてファシリテーションを行う人も多いという中、議論の進行に頭を悩ませる場面が時折ありました。そんな時に、インサイダーが自然な流れで「一旦さっきの問いに戻ってみましょうか」「逆にこの立場の人たちにとっては何が価値なんだろう?」と違う切り口で問いを投げて思考を広げたり、「次はXXでしたっけ?」と進行確認の声掛けをすることで、ファシリテーターにとっても自然な流れでむりやり誘導することなく議論をすすめることができました。

また、「いいですね!」「質問ありがたいです!」等の声掛けを行うことでメンバーをインスパイアしてより意見の出しやすい雰囲気づくりを行いました。場をつねに温める役割がいることで、膠着した関係がほぐれたのではないかと思います。

・調査期間中のLINEグループ内にて、学生同士のコミュニケーションを促進
2日目までの2週間は学生チームだけでリサーチを行い、主な連絡手段はLINEグループで行っていました。その際のプロジェクトリードやミーティングの日程調整などを行うことで2週間どのチームもインタビューや資料作成等の多くのアクションを促し、他の学生のエンゲージメントを高めてくれました。

③開催日より前にツールに慣れる機会を別途設ける

事前に簡単な接続確認・ツール練習を実施することで、オンライン開催特有のトラブル・参加者の混乱のリスクを低減する

今回のワークショップでは以下のオンラインツールを使用しました

Mural
今回、チームでの活動は主にMuralというオンラインのアイディア出しツールを用いて 行いました。
Muralを使うメリットとしては主に以下の3点でした。
1.流れに沿って活動していくことができるので、ファシリテーションが圧倒的にやりやすくなる
2.複数チームがいる時に、各チームの進捗状況を把握できる
3.ログが残るので活動の記録としてそのまま使うことができる
WebEx
チームでの対話はWebExという音声会話ツールを用いて行いました。セキュリティ上の問題でZoomが使えなかったのですが、WebExでもブレイクアウトルーム機能や、反応機能などを用いて特に問題なく遂行することができました。

これらのツールにどれくらい慣れているかでオンラインワークショップの生産性が変わるため、ワークショップ開催の2,3日前に参加者に30分ほど時間をいただき、ツールの練習のできるミニワークショップに参加していただきました。

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【ミニワークショップで確認した事項】
1:WebExの動作確認(5分)
・音声の確認
・ブレイクアウトルームへの移動
2:MURALの動作確認(20分)
自己紹介シートの作成をすることで以下の機能の確認・練習を行いました。
・付箋を作る
・付箋の色を変更する
・文字を打つ
・ドラッグ

更に、当日はオンラインのトラブルについてのグランドルールを伝え、困った時に慌てずに協力し合えるようなマインドセットを共有しました。

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結果として、ワークショップ本番では参加者全員が最低限ツールに慣れた状態で非常にスムーズな運行をすることができました。また、一部の参加者の接続状況が悪くなったときも、お互いに声を掛け合うなど助け合う場面も多くみられました。

議論を進めながら、ツールの使い方を説明するのは、ファシリテーターにとってかなり大変なので、事前にひと手間かけることでこの問題が解消されたことには大きな意味がありました。

④本番当日、活動に入る前にチームで助け合う練習をする

困ったことをすぐに共有できる場を作るために、行動規範を提示・実践し、議論参加への萎縮や、ワークへの関心の低下を回避する

ワークショップ中に困っている参加者を放置してしまうと、その人が置いていきぼりになってしまい、発言の委縮や関心の低下を生んでしまいます。特に空気が読みにくいオンラインワークショップでは、この問題が致命的になりやすいです。だからこそ、早い段階から困りごとをオープンにする大切さを参加者と共有をしました。

例えば、「Muralで付箋が作れない状況になった人をどうやったら助けられるか?」等のシチュエーションを用意して、実際にどんな関わり方ができるかをアイディア出ししてもらう時間を取りました。

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「付箋が作れない」という状況へのアイディアについては、

・チャットに書いてもらったものを他のメンバーが書き写す
・代わりの付箋を作ってあげる
・口頭で言ってもらってもOKにする

などの、予想外の困った状況が起きても様々な助け方があることを確認し、困った状況をチームで乗り越えることへの表現の許可を創りました。

また、ウォーミングアップでマインドを共有するだけでなく、ファシリテーター側とも、困り事が出た時の声掛けについて共有を行いました。

例えば、困っている時に「わかりません」「困っています」と共有してくれた参加者には必ず「ありがとうございます」「質問してくださったことで他の参加者の方も質問しやすくなったと思います」などの感謝の気持ちを伝えると、意見や質問が出しやすくなり場が温かくなることなども事前の研修で共有をしました。

               * * *

今回はオンライン街づくりワークショップを実施する時のポイントをまとめてみました。

AFLAC_調布市WS_当日スライド

感染症対策をしながら対面ワークショップがなかなか難しいご時世ですが、オンラインで制限のある中でもやり方よってはできることがこんなにもあることに、私たちも発見が多くありました。

まだまだオンラインでの街づくりワークショップには可能性が溢れているので、今後も探求していきたいと思います。


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